第11話
「ゾイド教官!! 水属性の使い手以外は避難させて下さい!! 」
「おお、ラナ君。君と共闘出来るとは、騎士冥利に尽きるわ、ははは! 」
「言ってる場合ですか?! 氷属性の生徒は?! 」
ここは口に氷柱を突っ込む以外、動きが止められません! もしくは中から凍らせるか……中から燃やしても意味はあるでしょうか?
「残念ながら、今期生は水は居ても氷は居らん! ガイ君はどうした?! 彼は氷だろう! 」
「殿下の護衛優先です! 仕方ないので、中から燃やします! 」
「待て、内臓焼いてあいつが痛みに大暴れしてみろ、この丘ごと崩れて皆女神様とこんにちわ、だぞ! 」
「ふざけてる場合ですか?! 」
「これがふざけてるとでも言うのか、君は! 」
「はい! 相変わらずで何よりです! 」
はははは! と豪快に笑う教官ですが、実の所お手上げです。ホムラ、早く帰って来てー!! せめて上から剣でも何でも口内に突き刺さねば、傷を付ける事が出来ません! しかし、まだ時間はかかる筈。
「ならば仕方ないですが、水属性の方達を配置して下さい。とりあえず、炎の壁を作って足止めします! 」
「奴は足が無いがな! 了解だ! 」
「っもう! 私は集中で無防備になります、ホムラが戻るまでお願い致します! 」
「気張れよー! 俺らも合同魔法を構築する! それまで持てば良い! 」
「畏まりました! 」
私は身体の中心を意識して、集中を高めると、そのまま砂竜の周りに炎の竜巻を創りました。あんな何処ぞの屋敷みたいな大きさの怪物、全て覆い尽くして持って5分でしょうか。それまでには、水魔法の合同魔法、水牢が出来るでしょう! その中に砂竜を漬け込めば反属性で弱る筈です。
「グアウオォオッギッギィィ……」
……気持ちの悪い、耳障りな叫びが聞こえます。炎は皮膚を少し焼く程度。耐性が強いにも程があります!石に雷魔法は良く効きますが、私如きの雷魔法で砂竜に致命傷は与えられないし……やはりこのまま行くしかないでしょうか?!
「っ?! 」
ぐん、と引っ張られる感覚と共に、私の身体から魔力が勢い良く放出されて行きます! 何ですか、加減が一切出来ない?!
『魔力を無理矢理引かれ暴発する怖れもある』
お嬢様のお言葉、あれは…
「教官! 魔力吸引されてます! 後どのくらいですか?! 」
「何だと?! ラナ君もういい、切れ! 魔法を止めろっ!! 」
「さっきからそうしてます! 切れませんっ何これ?! 」
次から次へと吸われて行くっ……無駄に吸われるぐらいなら、派手にやってしまおうかしら?
私は思い切り声を張り上げました。
「止められないので全て燃やします!! 過去最高の高温です、皆様お覚悟なさって下さい!! 」
「は? はぁっ?! 土魔法使える奴! 水牢から手を引いて防壁作製!! 急げ! 」
あ、頭がぐらぐらして参りましたっ、結構不味いかも知れません!! ホムラ、ホムラと繋がっていれば耐えられる……可笑しいです、ホムラと意識が繋がらない?! 目眩のせい……?! もう立っても居られないっ、体が勝手に膝をついて……時間が、無い。
私はこのままだと確実に死を迎える。
一か八か、破裂させます!!
「ラナ駄目!! 」
この声は……?!
終に幻聴まで聞こえるなんて、私、本格的に命が尽きかけているのかも知れませんね……。
そう思っていると、私の肩に軽く何かが触れました。ぐちゃぐちゃの頭をどうにか持ち上げると、目の前にお嬢様が見えます。
「……お嬢様? 」
ぽかんとする私に、お嬢様は苦笑しました。
「ラナ、爆破しては駄目なの。丘が崩れて取り逃がしてしまう。ご苦労だったわね、もうお眠りなさい」
「お、嬢……さ……ま、どうし……? 」
お嬢様が私の肩を抱き、同時に魔力が引かれる感覚が閉じました。が、そのまま私の意識は途切れそうになります。
「ミレニスさんがね、ホムラを説得してくれたの。間に合って良かった……!! 大丈夫、もう上空に竜騎士団が到着していますからね」
「っ……、」
言葉も出せず、私の意識は途切れました。
ーーーーーー
目が醒めると、そこは私の私室でした。
「?! 、一体っ痛っ! 」
起き上がろうとすると、全身に痛みが走ります。不意に優しく肩を抑えられ、私はまたベッドへ沈みました。
「魔力枯渇の後遺症だ。まだ寝てろ。水は飲むか? 」
「……ガイ、ええ。お願いします。」
いつから控えてくれていたのか、ガイが側の椅子に座っています。あれからどうなったのでしょう? 砂竜は?! お嬢様は?! 皆は無事でしょうか?? 私は聞きたい事が山程ありましたが、素直にガイに上体を支えられながら、水を飲ませて貰います。
本当に何処もかしこも痛すぎて、お願いする他無いのです。
「大丈夫、怪我人は出たが皆無事だ。アリアナ嬢も。まだ体力も魔力も充分じゃない。もう一度寝ておけ、話しはそれからだ」
「はい、でも……」
「良いから寝てくれ。本当に目が覚めるのか心配したんだ。俺も少し休みたい」
「分かりました……ガイ、心配かけてすみません。」
「違う、そこはありがとう、だろう? 」
そう言って、ガイは私の頭を撫でます。気恥ずかしい筈なのに、その大きな手に安心すら覚え、私はくすぐったい気持ちで、ガイを見つめます。
「はい。ありがとう、ガイ」
撫でられたまま、私はまた意識を手放しました。
そしてもう一度目が覚めると、部屋には私一人でした。一体どれだけ眠っていたのでしょう? 室内は薄暗く、今は朝方なのか夕方なのかも分かりません。取り敢えず、体の痛みも少しましになった様なので、私はお手洗いへ行き、そのまま着替える事にしました。
体を拭き、寝巻きではなく室内用のワンピースに着替え終えると、扉が突然開きました。気配はしていたのですが、まさか何も無しに開けられるとは思わず、私は胸元の閉めたボタンに手を掛けたまま、直立不動で固まってしまいました。
そこには目を見張ったガイが立っています。
……そのまま謝るでもなく中へ入り、軽食の乗ったトレーをサイドテーブルへと置くと、私に体を向けました。
「……もう良いのか? 」
「……え、ええ」
金縛りから解け、私はガイの前まで行くと、腰に手を当てました。
「ガイ、女性の部屋へ了承も無しに入ってはいけないの、知ってます? 」
「もう2日そんな調子で入っていたから、つい、な……すまん」
「分かればよろしいっ?! 」
ガイが覆い被さって、私を抱き締めるものですから、声が出せなくなってしまいました。相変わらず力が強過ぎです! 私、病み上がりって事忘れていませんか?!
「ガイ、いつも力が強過ぎです! 加減して下さいまし! 」
「いつもって、まだ2回目だろうが……ラナ、良かった。目が覚めて……」
そう言いながらも、緩々と腕の力は減り、私はほっと一息吐きました。
「何処も怪我をしておりませんし、ほら、この通り無事でしょう? 心配し過ぎですわ」
「し過ぎなものか! 事切れるぎりぎりまで魔力を吸われてたんだぞ、お前……」
通りで、あの時は頭がぐらぐらとして死が頭をよぎりましたものね。お嬢様が、魔力吸引を遮って下さった。護衛なのに主人に助けられて……情け無い筈なのに、頬が緩んでしまいます。
魔術の実技が受けられないと零されていたお嬢様に、その持て余していた魔法で誰かを助ける事が出来る。そう思うだけで、嬉しさが込み上げて参ります。
その時、勢いよく扉が開いて、開けた本人と恐らく顔がにやにやしていた私は目が合いました。
「っと、失礼……」
「え?! どうして姉様がいらっしゃるの?! って、違います違います!! 入って大丈夫ですから! 」
静かに扉を閉めようとしているのは、何処からどう見ても、領地に居る筈の私の実姉です。
「ええ? お楽しみ中を邪魔する訳にも……」
「お、お楽しみ?! ちょっと、ガイ! もう手を離して下さいまし! 私は大丈夫ですから、元気になりましたから! 」
そう慌てれば、ガイは私の体を解放してくれました。その顔は文句が言いたげだと分かる程に不機嫌そうです。私はちゃんと元気ですよ?! ちょっと大声出してふらついていますが。
そのまま無言でガイは私の手を引くと、ベッドへ座らせました。そして、トレーを私の膝に置きます。トレーの上にはミルクリゾットがまだ湯気を上げています。
「あ、ありがとうございます」
私は早速食べ始めました。
「ありがとう、ガイ殿。貴殿が妹の看病をしてくれていたと聞く。恩にきるよ、事故の後処理や殿下の護衛で忙しいのだろう? 後は私が」
「いえ、
ぎし? 何故ガイは姉様をそんな風に呼ぶの……?
不思議に思いましたが、ミルクリゾットが余りに美味しいので、私は夢中になって食べ進めました。ガイはそんな私の頭に手をぽんぽんとやると、そのまま部屋を後にしました。あの、身内の前で辞めて下さいまし!! 顔が赤くなりますので!
「ふふ、何だ。上手くいっているみたいで安心したよ。…手本当にラナが死ななくて良かったっ。っこの馬鹿! 魔法に自信があるからって、闇雲に突っ込んで行くな!! 皆どれだけ心配したか分かるか?! 探知ばかりじゃなく、解析もきちんとやれ! 」
……あ、解析…私、余程余裕が無かったのですね、解析魔法を忘れていました。解析魔法や探索魔法などは、学園でも初歩の初歩として教えられる誰もが使える可能性のある、無属性魔法です。
「ごめんなさい、姉様……解析を……」
「解析を? 」
「忘れていました……」
「大馬鹿! 」
こつん、と頭をグーで叩かれ、私は不謹慎にもじゃんけんを思い出し、苦笑します。あの穏やかな時間から、あんな事になって、そして今笑う事が出来る。
ちゃんと生きて帰って来れたんですね、私。安心したら、目に涙が滲んで来ました。
「ほらほら、ちゃんと最後まで食べな。魔力回復のトーキ草が入ってるから。旦那が待ってるから姉ちゃんは明日領地に帰るけど、シズルは置いて行くよ。面倒を見てやって」
「シズル? 昨年生まれた? 」
「シズルはホムラの
「ホムラの番?! そう、そうですか……嬉しい! 」
それを聞いて、また涙が溢れそうになりますが、私はハンカチで目元を押し付け、涙を引っ込めました。残りのミルクリゾットを食べ始め……ふと、ある事を思い出しました。
「王城の方が近いですよね、この学園は」
「うん?そうだね、うちは僻地だからね〜、飛竜でも3時間かかるね」
「王城には、王国竜騎士団が在りますよね? 」
「うん、うちから献上した飛竜の騎士団がね? 」
「王太子様がいらっしゃるのに、何故うちから姉様が派遣されましたの? 」
そう、何故姉様がここに居るのか。確かに身内が生死を分ける床に付いているのですから、見舞いに居ても可笑しくは無いのです。けれど、きっと砂竜を討伐したのはレインの竜騎士団。
顔を上げて姉様の目を見れば、姉様はにやりと悪戯な笑顔を向けました。
「さて、何でだ? 」
この顔をする時、大抵姉様は碌でもない事を考えているのですが、大丈夫でしょうか……。私は言い知れぬ不安と共に、最後のリゾットを飲み込みました。
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