おまけ ラナ、最終討伐試験 1


今日は騎士科の試験、しかも3年間の集大成でもある、最終試験です。


石蜥蜴バジリスク討伐は比較的簡単であるし、教官方もいる。今日だけは『片割れ』である、飛竜のホムラに手伝って貰う訳には参りません。


一応、私は竜使いの魔法騎士。ホムラと共に石蜥蜴を退治しても問題は無いのですけれど、ここは自身の腕を見たいですからね、何とか力を借りずやって行きたいです。



只、私には不満が1つございます。



何故、何故にガイ・セレンディスまで同じ班なのでしょうか?!



騎士科は3組ございますが、彼と私は成績が似通ったものです。普通分散させませんか?? 力が偏りますよね? いえ、得意な魔法属性は違いますけれど。



「まーた、ラナは剥れてるの?いい加減に許してやんなよー、彼可哀想だよー」


そう言って私の頬を突くのは、級友のペティです。


トラン準子爵家のペティは、王宮騎士団に入る為にこの学園で勉学に励んでおります。


親の代で消えうる爵位ですから、何としても手に職を!という気概は、私も子爵家の次女として、そして侍女職を目指さない辺りからお互い通づるものがありますから、最初から好感を持てたお友達です。彼女とも今日は同じ班でございます。


その他に、同じく同学年のデニス・ハウンテンとチャーリー・ミドルガが一緒です。騎士科は圧倒的に女性が少ないので、この班割りでも女性が多い程で、他は男性のみの組み合わせもあります。


そう思えば、成績は置いておいても、男女の力量差を鑑みれば、丁度良い組み分けなのでしょうか?私としては不満ですけれど。


「今日は宜しくな、ラナ・レイン」


屈託無く笑うガイ・セレンディスですが、私は彼を前にするとどうしても笑顔が引きつってしまうのです。





あれは、まだ入学したての時でございました。


入学試験で組み分けされた学級クラスで、一期の集大成にと手合わせが開催されたのです。それまでは級友としてガイと会話も普通にしておりました。彼は裏表がなく、既に伯爵位を譲り受けていたにも関わらず鼻にもかけない人柄で、まあ少しガサツな面も有りましたが、基本的に面倒見の良い方だ……と私は感じておりました。

ですから、それまでは私達の間柄に何も問題は無かったのです。



しかし、竜使いとしてホムラと共に試合する事。それが彼の出した試合での条件でしたので、私はその通りに致しました。まさか、それで彼の印象が変わってしまうとは、私も思ってもみなかったのです。


彼は少し私を侮っていた様でございました。


飛竜の為、そして領地の安寧の為に魔物狩りを常にする土地で育った私です。いくら、彼が王太子殿下の護衛だとしても、恐らく場数が違います。

そこで私は全力で挑ませて頂き……彼に膝を付かせたのです。


慌てて膝をつく彼に駆け寄り手を差し出したら、彼は爽やかな笑顔で言い放ちました。


『ラナ・レイン、お前このまま…………と、結婚出来なそうだなぁ』


慌てて立たせていたものですから、あまりよく聞き取れなかったのですが、私はその言葉にかっと頬が熱くなるのが分かりました。


『は?死にたいんですの?お手伝いいたしますわよ』


なんて、売り言葉に買い言葉。

私はついそんな返しをしてしまったのです。だって、いくらなんでも年頃の婦女子に対して酷いと思ってしまったのですから仕方ありません。

いえ、酷いの一言に尽きます。恐らく、この調子だと、とか失礼な言葉が間に入っていたに違いありませんから。


そうでなくとも、騎士科に通う女性は行き遅れだのなんだのとからかわれる傾向があるのです。魔法科や政経科を専攻する方々に比べて、女性らしさに欠ける……とも影で言われているのは、いくら噂に疎い私だって知っています。


『いや、そうじゃない。ちゃんと人の話を……』


『いいえ。セレンディス様のご意思はよーく分かりましたわ。これからも、級友として手加減せずに参りますので、宜しくお願い致します』


『はっ?! 今ので何で家名呼びになるんだ?!だから、人の話を……』


『そこ! 早くけろ!! 次が支えてるだろう! 』


『申し訳ありません! 教官!!』


教官に注意され、私は踵を返しました。


『ラナ・レイン、話をっ』


『さあセレンディス様、移動せねば他の方々に迷惑ですわ。私は友人達が待っておりますので、失礼致します』


『…………』


あれ以来、適度な距離を置き接して来た訳です。


彼はそれから暫くは何か言いたげに此方を伺う様子も見受けられましたが、一度放った言葉は変えられません。あれは彼の考えだと思っても差し支え無いと判断していますので、私の態度は自然なものと言えるでしょう。






「ラナ・レイン、聞いているか? 」


「えっ?! きゃあ! 」


目の前にガイの顔があり、私は自分でも驚く程情けない悲鳴を上げてしまいました。少し昔を思い起こし過ぎた様です。彼の気配も察知出来ないとは。

試験中だと言うのに、何たる不覚っ!


「ぶふっ、ガイ殿、『きゃあ! 』だと。そろそろ諦めても良いんじゃないか? 」


そう楽しげに笑うのは、デニスです。彼は剣の腕は中々なのですが、人をからかうのが趣味の様な、少し癖のある方です。


「まあまあ。ラナさん、ぼんやりされては困りますよ、今は大事な試験中なんですから。デニス殿は、からかうのも程々に」


そう窘めて下さったのはチャーリーです。

彼は細身の体と相まって、魔法科の方が似合いそうなのですが、魔法騎士としてとても優秀な方です。そして、温厚な方でもあります。この方のお陰で、今日の班はまとまっていると言っても過言では無いでしょう。


「申し訳ありません、お三方。今後は大丈夫ですわ。早く石蜥蜴を見つけて、本陣に戻りましょう」


私は取り繕ってお礼を述べました。石蜥蜴は尻尾の先にある魔力貯めのこぶから石化の魔法を繰り出してくる魔物です。5人の力を合わせなければ、今日の試験は突破出来ないでしょう。

それどころか、体を石化されたら一溜りもありません。


そう、いくらガイが居ようとも。私は試験に集中しなければいけないのです!


「…………」


「セレンディス様、頑張ですよー。後、デニスうざー」


「はあ?事実を言っただけだろ? 」


「それがうざー 」


何故ペティとデニスが喧嘩に……。これでは先が思いやられます。いえ、元々輪を乱したのは私ですね。ここは、淑女として場を収めなければ。


「あの、本当に気を付けますから、2人共辞め……」


そう言い掛けた所で、掛けていた探知魔法に反応がありました。それは皆も同様で、各々顔を見合わせました。どうやら、石蜥蜴が近くに現れた様です。



私は目線で合図すると、先だって林の中に進み入ります。


林を抜け出ると、ごつごつとした岩場が顔を出しました。

その中の一際大きな岩の上に、目標である石蜥蜴が警戒態勢で林を見下ろしています。……これは……中々の大きさです。



「どうする?裏手に回るか」


「あっちから見えてない今が好機だろ?足場を凍らせて身動き取れなくするのは? 」


「確かに動きは止められるが、瘤はどうする?放たれたら終わるぞ」


先程とは打って変わって、ガイとデニスが相談しています。全く、戦力に何故女性を入れていないのでしょう? これは5人1組でこなさなければなりませんのに。


「じゃあ、私が魔力吸引ドレインしようか? 」


「まあ。じゃあ私が尻尾を燃やして切ってしまいましょうか? 」


そう私とペティが進言すれば、チャーリーが手で制しました。


「魔力吸引は良いとして、相手は石属性だから炎では切れないかも。だから、僕はガイ殿が氷魔法を発動したら合わせて混乱魔法を掛けるから、デニスが走ってラナさんの魔法で燃えている場所を切り取ると言う事で」


「は? それ俺が一番危ないじゃないかっ」


デニスが慌て出しましたが、私含め4人はチャーリーの意見に賛成でした。魔法発動には時間差が多少ありますから、感知されて逃げられては勿体ないですものね。


「うん、それで行こう。中々良い作戦だ。な、デニス殿?」


「おまっ、さっきの根に持ってるだろう?! 」


「デニス殿、早く裏手へ行ってくれないか?時間が惜しいからね。」


ガイとチャーリーに促されて、デニスは渋々単独行動へ出ました。


彼はああは言っても、この作戦で大丈夫そうだと私は思います。



デニスを見送り、ガイの魔法発動に合わせて私達は魔力を練るのでした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る