第二部
即位
カイルと結婚してから三ヶ月程経った。
その間に初めてこの世界で年を越し新たな気持ちで新しい年を迎えたのである。
しかしそれから数日後私は衝撃の言葉を聞かされた。
「・・・え?即位?」
「ああそうだ」
「・・・・・誰が?」
「俺に決まってるだろ!」
「あ、ああそうよね。驚き過ぎて一瞬カイルが王太子だった事忘れてたよ。・・・え、でもお義父様ってまだそんなにお年じゃ無かったよね?それかもしかして何処かお体が悪いの?」
「忘れてたって・・・その王太子の妃にお前はなったんだろう。まあいい・・・父上は確かにそこまで年じゃない。それに体は至って健康だ」
「だったらどうして・・・」
予想以上に早い即位の話に私は戸惑っていたのだ。
するとカイルは大きなため息を吐きながら呆れた表情で何かを思い出していたのである。
「・・・隠居して母上と二人っきりでイチャイチャしたいんだとさ」
「・・・・・は?」
「俺達の方が新婚なんだぞ!まだイチャイチャしたいのはこっちの方だ!それなのに王位を俺に譲るって・・・それじゃあ忙しくなってサクラとの時間が減るじゃないか!!」
「ちょっ、カイル落ち着いて!」
眉間に皺を寄せながらブツブツと怒りだしてきたカイルに私は慌てて落ち着かせようとしたのだ。
しかしそのカイルは私の方を見ていきなり私を抱きしめてきたのである。
「カ、カイル!?」
「はぁ~正直色々投げ出してお前と何処かに逃亡したい」
「いや、さすがにそれは・・・」
「・・・分かっている。ちょっと言ってみたかっただけだ」
そう言いながらもカイルは私を抱きしめながら私の肩に顔を乗せてきたのだ。
私はそんなカイルを見て苦笑いを浮かべながら優しくカイルの背中を擦った。
「・・・サクラ、悪いな。そう言う訳だからお前には王妃教育を早急に受けて貰う事になった」
「・・・・・やっぱりそうなるよね。うう、頑張ります・・・」
それでなくても結婚前から続いている王族としての教育や教養やマナー、さらにはダンスのレッスンなど色々やらされているのである。
・・・カイルと結婚すると決めた以上仕方がない事と覚悟してたとは言え、まさかこんなに急ピッチで色々詰め込まれるとは思っていなかったよ。
私はさらに忙しくなる日々を予想し小さくため息を溢したのだった。
それから一ヶ月程が過ぎ、私は連日続いた王妃教育によってすっかり疲れきっていたのである。
私は少し休憩を貰い気分転換に中庭を散歩する事にした。
「・・・あはははは、何だか花の一つ一つが大きな文字に見えてくるなんて・・・相当参ってるな私」
そうから笑いを漏らしながら中庭の中を侍女長となったミランダと共に歩いていたのだ。
「サクラ様・・・やはりお部屋で休まれた方が宜しいのでは?最近ずっと夜遅くまで勉強されていてあまり眠られていないようですし・・・」
「いや、さすがに今ベッドに入ったら明日まで起きれない自信があるんだよね。それに、もう来月に迫った戴冠式の準備でほとんど部屋で寝れてないカイルに比べたら・・・」
私はそう言いながらここ最近会う事も出来ないでいるカイルを思い浮かべ気分が少し落ち込んでしまった。
「サクラ様・・・」
「まあ、今は仕方がないよね!さてせっかく貰った休憩時間なんだからしっかりと気分転換しなくは!!」
心配そうに見てきたミランダに私は大丈夫だとアピールするように元気に振る舞い、さらに中庭の奥に進んだのである。
そうして中庭の奥にある東屋まで到着すると私はその中のベンチに腰掛けたのだった。
「では私はお茶の用意をして参りますので少しお待ちください」
「べつに急いでないから慌てなくて良いからね」
「はい」
ミランダはペコリと私に頭を下げお茶を取りに向かったのである。
そんなミランダの後ろ姿を見送った後、一人になった私は心地よい風に吹かれながらボーッと中庭を眺めていた。
・・・日差しは暖かいし風は気持ち良いし・・・正直ずっとここで何も考えずのんびりしてたいな・・・。
私はそんな事を考えながらただひたすら静かに流れるこの時間に癒されていたのだ。
しかしさすがに連日の睡眠不足と疲労が溜まっていた事で私の瞼がどんどん下りてきたのである。
「駄目だ・・・寝ちゃ・・・・・」
そう呟きながらも私はそのまま眠りに落ちてしまったのである。
それからどれくらい時間が経ったのか私はふと眠りの底から意識が浮上してきたのだ。
「んっ・・・」
私は重い瞼を開けまだボヤける視界でぼーっと目の前の光景を見ていた。
「・・・起きたか」
「・・・・・え?」
とても近くから久し振りに聞く声が聞こえまだハッキリしない頭で声のした方に顔を向けたのだ。
するとそこには会いたいと思っていた愛しの夫であるカイルが私を覗き込むように上から見ていたのである。
私は何度も瞬きをし意識をしっかりと覚醒させると私が今置かれている状況が理解出来たのだった。
「っ!!」
「こら、まだ起き上がるな。疲れているんだろう?ゆっくり横になっていろよ」
どうしてこんな状態になっているのか分からないが、私はカイルに膝枕をされて寝ていたようなのだ。
さらに私の体にはカイルのマントが掛けられていたのである。
「・・・カイルありがとう」
「いや気にするな。俺としては久し振りにサクラの寝顔が見れて満足している」
そう言ってカイルは私の頬を撫でると優しく微笑んできた。私はそんなカイルを見て心臓がドキドキしだしたのである。
するとカイルはじっと私を見つめふっと笑うと顔を下げてきたのだ。
そして私の唇にそっとキスを落としてきた。
私は久し振りのカイルとのキスに嬉しさが込み上げてきたのだが、何故かすぐに唇が離されてしまったのである。
その短さに私は物足りないと思ってしまった。
「・・・カイル?」
「今はこれぐらいにしておく。そうしないと止まらなくなりそうだからな」
カイルはそう言って苦笑いを浮かべながら何かに耐えているような目をしていたのだった。
そんなカイルを見た瞬間、私は弾かれるように身を起こしカイルの首に腕を回して私の方からカイルの唇にキスをしたのである。
「なっ!サ・・・クラ・・・・んん!」
私の突然の行動に驚きの声を上げたが、それでも私はキスを止めるつもりは無かったのだ。
するとカイルは私の腰と頭に手を回し今度はカイルの方から深いキスをしてきたのである。
「っ・・・煽ってきたのは・・・お前だからな!」
「カイル!カイル!あ・・・っんん!!」
一度唇を離し熱のこもった眼差しで私を見つめてきたカイルはすぐに私の唇を塞ぎ、さらに激しいキスを繰り返してきた。
そして私はその激しいキスに応えているうちにもう何も考えられなくなったのである。
それから暫くした後、私達は着崩れた服を直すと寄り添うようにまったりと二人の時間を過ごしていたのだ。
「それにしても・・・どうしてカイルはここにいたの?」
「少しだけ時間が出来たからな。サクラの顔が見たくて探していたらミランダからここにいると教えられたんだ」
「あ、そう言えばミランダがお茶を用意してくれるって言ってたんだった」
「ああそれならそこの机に置いてある。ミランダと共にこの東屋に来たらお前が気持ち良さそうに寝てたからな。後は俺がやると言ってミランダを下がらせたんだ」
「そうだったの・・・」
「だが・・・結局冷めてしまったようだし後で替えをミランダに用意させとくからな」
「ありがとう。でも・・・私そろそろ戻らないと」
「そうか。・・・あまり無理はするなよ」
「それはカイルもだよ!」
そうして私達はお互いを見て笑い合い今度は軽くキスを交わしてから立ち上がると、一緒にお城の中に戻っていったのであった。
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