王子と私

あれから私はカイルに連れ回され色んな所を案内された。


そして夕方になり食堂が忙しくなる時間になるからと言って、なんとか渋々ながら案内を終了して貰えたのだ。


しかし去り際に明日も案内してやるからな!と笑顔で恐ろしいセリフを吐いて帰って行ったのだった。




マジで勘弁してくれ!!




憂鬱な気持ちのまま宿屋に帰ると、案の定女将さんや常連客から質問攻めを受けたのだ。


とりあえずカイルとは出掛けた先で偶然知り合って、私の境遇に同情して案内をしてくれていると説明した。(まあ、大筋は合ってるから良いだろう)


さらに色々質問されたが、これ以上は王子のプライベートに関わるから・・・と言葉を濁したら、みんなそれ以上聞かないでくれたのだ。


その後忙しい夕食時間になりバタバタと働いて、夜二階に有る与えられた自室のベットに倒れる様に横になり、いつも以上に疲れた一日だったと思いながら泥のように眠りにつく。そして次の日の朝を迎え、結局昨日は小説の進行状況を確認しに行けなかった事を思い出したのだった。


気分が落ち込んだまま身支度を済ませ、食堂の有る一階に降りるとカイルがすでに店内で待ち構えていた姿を見て頭を抱えて唸った。




どんだけ暇なんだお前は!!!




結局その日も女将さんに強制的に私の外出許可を取って連れ出されたのだ。


それからほぼ毎日の様に来るようになったのでさすがに朝から一日連れ回されると店に迷惑が掛かるから困る!と怒ったら昼飯と夕飯の間の暇な時間だけ来るようになったのだった。しかし結局そのせいで今だに進行状況を確認しに行く事が出来ないでいたのだ。






「・・・よし!今日こそは見に行くぞ!」




我慢の限界に来た私はそう意気込み、カイルが来る前に宿屋から出掛けた。




ノートをパラパラとめくり話し的にこの辺りか?と当たりをつけてその現場に向かうけどなかなかアイラ達が見付からない。




一体何処まで進んでいるんだ?




そう思いだいぶ見逃している様な気がしながら地道に探していると、漸くアイラの姿を発見する事が出来たのだ。


アイラは街で籠を持って、店主と楽しそうに話ながら食材を買っている所だった。


しかし私はアイラの姿を見て驚愕する。アイラの髪には可愛らしい蝶の形をしたヘアピンが付いていたのだ。




あ、あれは!!




私は急いでノートを取り出し目的のページを開いた。


そこにはアイラとシルバが初めてデートする場面が書かれており、その時シルバがアイラにあの蝶のヘアピンをプレゼントしてあげたのだ。




うそーーー!!この話しリアルで見るの楽しみにしてたのに!!


それに予想以上に話が進んでてだいぶ見逃してる!・・・くそ~これも全てあの馬鹿王子カイルのせいだ!




私がぷるぷるとノートを開きながら怒りにうち震えていると、突然髪の毛を引っ張られ頭が後ろに仰け反る。




「うぎゃ」


「・・・お前~!何故俺が行くのを待っていない!!」




涙目になりながら引っ張った相手を見ると私を睨み付けてきているカイルだった。額に少し汗をかき息もちょっと上がっている様子から多分相当探し回ったのだろう。




「私だってたまには一人で出掛けたいのよ!」




まだカイルに対しての怒りが治まっていなかったので、乱暴に髪を外しカイルから顔を背けた。




「何だと!せっかく俺が時間を割いて相手をしてやってるのに何だその態度は!」


「だから頼んで無いと言ってるじゃん!」


「くっ・・・可愛いげのない女だな」


「別にカイルに可愛いと思ってもらわなくても結構よ」


「お前は~!ああ言えばこう言う!・・・・・・うん?お前何持ってるんだ?」


「あ!ちょっと返して!」




カイルは私の持っていたノートに気が付き、ヒョイっと私の手からノートを奪ったのだ。


そしてパラパラと中を見て怪訝な表情をする。




ヤ、ヤバイ!その中にはこれから先の話も書いてあるから、本人達に読まれると非常にマズイ。




私が慌ててカイルからノートを奪い返そうと手を伸ばすが、私より背の高いカイルが頭上にノートを持った手を挙げてしまったので全く届かない。




「返してよ!」


「・・・お前これ」


「・・・っ!」


「何が書いてあるんだ?」


「え?」


「どうも文字の様には見えるが、見たことない文字でさっぱり読めん」




そうか!小説は日本語で書いてはいるものの、この世界の文字はここ専用の文字で浸透しているから読めないんだ!


私は作者の特権かこの世界の文字も普通に読めていたから何とも思わなかったよ。




「それは私の国の文字だから読めないのは当たり前だよ」


「ニホンと言う国の文字か?」


「そう」


「ふむ、で?結局これは何が書いてあるんだ?」


「あ~え~と・・・そう!それはこの国の案内書なの」




よし!良いこと思い付いた!




「案内書?」


「そうそう!私はそれを見てこの国を観光するつもりだからもうカイルが案内してくれなくて良いよ?ほぼ毎日私に付き合って大変だろうしさ?」


「・・・・」


「それにカイルも一応王子なんだから公務や執務とか本当は色々忙しいんでしょ?」


「・・・また一応王子と・・・執務の心配なら問題はない。城に居る間にさっさと終わらせてある。俺は有能なのだからな。それに公務も今のところ特に重要な物は無いからお前の所に来れているんだぞ」


「え?そうなんだ・・・絶対仕事他の人に押し付けているのかと・・・」


「おい!俺をどう言う人間だと思っているんだ!」


「我儘!俺様!馬鹿王子!」


「お前は~!!」




怒った表情でカイルが拳骨を作って、私の頭の天辺にグリグリと当ててきた。




「い、痛い!ちょっと止めてよ!・・・それよりいい加減ノート返して!」


「ああ、そう言えば忘れていた」




私の頭をグリグリして満足したのか怒りが治まった表情になり、そして持っていたノートをじっと見つめる。




「そんなにこのノートを返して欲しいのか?」


「当たり前!私の国から持ってきた唯一の物なんだから凄く大事な物なの!」




そう私が言うとカイルはニヤリと笑ってきた。・・・あ、なんか嫌な予感。




「そんなに返して欲しければ、これからも俺の暇潰しに付き合うことを約束しろ」




・・・やっぱり暇だったのかーーーーーーい!!!




「さあ?どうする?」


「うぅ・・・わ、分かったわよ。付き合えば良いんでしょ?付き合えば!」


「それで良い」




ニヤニヤしているカイルを睨み付けつつ返されたノートを急いでポケットに仕舞う。




「ではサクラ行くぞ!」


「・・・・」




結局今回も私の腕を取って勝手に歩き出し、街の案内(カイルの暇潰し)に連れていかれるのだった。

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