王子襲来

私はあれから暫く外出を控えている。


もし出掛けてカイルとバッタリ出くわしたらちょっと面倒そうだったから。


しかし、話の進行状況は気になるのでそろそろ様子を見に行こうかなと考えながら昼時の食堂でバタバタと働いていた。




「お待たせしました!特製ソースのステーキです」


「おお!美味そう!サクラちゃんありがとね」


「いえいえ、どうぞごゆっくり」




常連のお客さんに料理を運び笑顔で接客しその場を去る。


そして次の料理を取りにカウンターに向かおうとした時突然入口の扉が勢いよく開いた。


私はビックリしながら入口を見ると・・・。




げっ!カイル!!何でここに居るの!?




入口から入ってきたカイルは何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回し、そして私の姿を見ると真っ直ぐにこちらに向かってきた。




や、やばい!あの表情は相当怒ってる!と、とりあえず店の奥に逃げよう!




私は踵を返して店の奥に逃げ込もうとしたがその前にカイルが私の腕を掴んで引き留める。




「・・・漸く見付けたぞ」




腹の底からの低い声に背中が冷や汗をかく。




「ど、どうも数日ぶり!・・・だけど、別に見付けてくれなくても良かったんだけど・・・」


「何だと!?」


「そもそも、何でそんなに怒ってるのよ」


「それはお前があの時!」


「あの時?ああ、王子が派手にころ・・・むぐ」




私がわざとカイルが派手に転んで恥をかいたことを、言葉にしようとしてカイルの手で口を塞がれた。




「・・・お前わざとだろ」




あ、バレてたか。




「おい!ここの店主はいるか!」


「は、はい!あたしです!」




カイルは私の口を塞いだまま店の奥にいる女将さんを呼び、呼ばれた女将さんは焦った表情で慌てて出てくる。




「こいつに用が有る。このまま連れていくが良いな?」


「え?あ、は、はい」


「むぐぐぐぐ!!」




カイルの有無を言わせない問いかけに女将さんはただ頷くしか出来ず、私は抗議の声を上げたいのに口を塞がれているため変な声しか出なかった。




「なら、行くぞ!」


「ちょ・・・ちょっと!」




漸く口から手を離してくれたと思ったらそのまま掴んでいた手を引っ張って店の外に連れていかれたのだ。


店を出るときチラリとお客さんを見ると、みんなポカンとした表情で固まっていたのが見えた。・・・後で戻った時説明大変そうだ・・・。




カイルは店を出てからも無言のまま私の腕を引っ張って歩き続けている。


道行く人々がそんなカイルの姿に驚愕し、そしてハッと気が付いて頭を下げていく光景がさっきからずっと続く。




・・・これ、悪目立ちしてるから凄く嫌なんですけど。それにいい加減掴まれてる腕も痛くなってきたし・・・。




「ちょっと!一体何処まで行くの?それに腕痛くなってきたんだけど!」


「・・・いちいち煩いやつだな!」




そう言って人通りが少なくなった路地で漸く腕を離してくれた。見ると掴まれていた所が少し赤くなってしまっている。




「もう少し女性に優しくしないと嫌われるからね!!」


「ふん!余計なお世話だ!俺は元々女性には紳士的に接している」




確かに小説では俺様だけど女性には紳士的に接している所を書いたが・・・うん?私にはそんな態度取ってないぞ!私も女性だぞ!?




「ちょっと待って!私には紳士的じゃ無いんだけど!!」


「お前は馬鹿女で、普通の女性じゃないからそんな必要は無い」


「なっ!失礼な!それにまた馬鹿女って言った!この馬鹿王子!!」


「俺は馬鹿王子では無い!」


「私も馬鹿女では無い!ちゃんとサクラって言う名前があるんだから!」


「サクラ?・・・変な名だな」


「変とか言うな!私はこの名前気に入っているんだから」


「ふむ・・・まあ良い、馬鹿王子ともう言わないのなら馬鹿女では無くサクラと呼んでやろう」




呼び捨てかい!・・・まあ、馬鹿女と呼ばれるよりはましか。




「・・・仕方がないわね・・・ならカイルと呼んであげる」


「王子の俺を呼び捨てだと!?」


「嫌なら馬鹿王子に戻すけど?」


「くっ、分かった。その呼び方で許してやろう」


「それにしてもカイル一応王子なのに供も付けないで一人で出歩くなんて危ないんじゃないの?それに何で私があそこに居るの分かったの?」


「一応王子って・・・ま、まあ良い。供を付けないのは俺が強く一人でも問題無いからだ。だから、どこへ行くのも俺の自由で本来供など必要無いのだ」




凄いだろう!と自慢げな表情で見てくるけど、結局勝手に出歩いているって事だよね。お付きの護衛の人いつも大変だろうな・・・。




そう言えば、一応カイルは強いと言う設定にしてあった事を思い出した。




「それから、お前の居場所は部下に言って探させたのだ。黒髪に黒い瞳などここらでは見掛けないからな。数日掛かったが漸く見付ける事が出来たのだ」


「・・・・」




カイルの部下さん我儘に付き合わされてお疲れ様です。




「しかし、本当にその黒髪と黒い瞳は今まで見たことが無い。お前どこの国から来たんだ?」


「え~と・・・凄く遠い東の方にある小さな国から」


「国の名は?」


「・・・ニホン」


「ニホン?・・・聞いたこと無いな」




まあ、そうでしょうね。この世界の外の国だからね。




「ほとんど誰にも知られていない小さな国だからね」


「そうなのか・・・ではその国からお前は何しにこの国に?」


「・・・旅行だよ」


「だが旅行者なら何故あの宿屋で客ではなく働いているんだ?」


「えっとそれは・・・実はこの国に来てからすぐに引ったくりにあってお金と荷物全部取られ無一文になったから、宿屋の女将さんが同情してくれて住み込みで働かせて貰ってるの」


「何だと!俺の国でそんな事が!衛兵には届けたのか?」


「いや~一瞬の出来事で犯人ちゃんと見れなかったからどうにもならなくて」




だって、本当は盗まれて無く最初っから無かったんだから届けようが無いんだもんな~。




「しかしそんな事があったのか・・・ムカつくただの馬鹿女だと思っていたから、例の笑った件を謝罪させるつもりでわざわざ来てやったのだがそんな不幸が・・・よし!」


「ちょっとまた馬鹿女って聞こえたよ!この馬鹿・・・」


「サクラ!今から俺がこの国を色々案内してやろう!」


「・・・はぁ?」


「この国に来てすぐ引ったくりにあったのならほとんど観光してないのだろう?」


「まぁそりゃあ・・・」




そもそも観光する為に自らの意思でこの世界に来た訳じゃ無いから。




「ならば俺自ら案内してやる。有り難いと思え」


「いやいや頼んで無いし!有り難迷惑だよ!!」


「遠慮するな。では行くぞ!」


「遠慮してなーーーーーーい!!」




嫌がる私を無視してまた腕を取り歩き出したのである。一応先程痛いと言ったことで掴む力は抑えられていたが。




ちょっとーーー!!こんな事私望んでない!私はリアルタイムに小説の進行を見たいだけで、裏でこんな話の展開をしたい訳じゃないんだけど!!




私の腕を掴みながら上機嫌に前を歩くカイルを睨み付けながら、絶対そのうち仕返ししてやる!と心に誓ったのだった。

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