仕返し
くっそー!カイルめーーーー!!
あれから散々暇潰しに付き合わされてだいぶ鬱憤が貯まった私は、夜自室でノートをめくりカイルが登場する場面を探す。
そして、公務で街の視察にシルバを伴って出かける場面を見付け、私はニヤリと笑いながらボールペンを持って余白にある事を書き加える。
・・・たしか明日はカイルが公務で街の視察に行くから来れないと言ってたし、多分この事だと思うから見に行くか!これはリアルで見るのが楽しみだ!
私は明日を楽しみにしながら眠りについたのだった。
────次の日の街のある通り。
私は建物と建物の影から隠れて、シルバを含めた沢山の騎士達を伴って歩くカイルを見ている。
カイルは公務中とあっていつもと違いキリッとした表情と立ち振舞いをしていた。そんな姿を見てやっぱりちゃんと王子なんだと改めて思う。
カイルが頭を下げている人々に声をかけ、街の様子を伺いつつ歩みを進めていると突然強い風が吹き民家の二階の鉄柵に置いてあった花びんが倒れ丁度その下に居たカイルの頭に水と花が降り注いだのだった。
カイルは頭がずぶ濡れとなり呆然としている。
回りの人々も突然の事に驚き固まっていた。そして最初にその硬直から溶けた一人の人が顔面蒼白になりながら凄い勢いでカイルに謝っている。多分花びんを置いていた住人なんだろう。
カイルはキリッとした表情のまま問題ないと言ってその住人を赦していた。
しかし私はそんな姿を見て堪らなくなり建物の間の奥に入り、片手でお腹を押さえもう片方の手で壁を軽く叩きながら笑いを堪えていたのだ。
ひぃーーー!お、お腹痛い!あの、あのカイルが花びんの水を頭から被って必死に王子の顔を作ってる姿なんて!!!
あれは絶対凄く恥ずかしいと思ってるはず!あ~暫くこれを思い出して笑える!
私がさらに声を挙げずに笑い続けていると、突然後ろから頭を片手でガシッと掴まれた。
「サ~ク~ラ~!!」
「ひぃーーー!」
恐ろしいカイル声に笑いは止まり、恐怖に戦きながらゆっくりと振り返る。そこには髪から水滴を滴ながら恐ろしい表情で私を見ているカイルがいた。
「ど、どうしてここに居るのが分かったの!?それにお伴の人達は?」
「お前がこの奥に行くときに黒髪がチラリと見えたからな。それから他の者にはその場で待機を命じてある」
「・・・今度から頬っ被りでもしておくか」
「お前は~!!」
「い、痛い痛い!」
カイルが掴んでいた手の力を強める。
「ご、ごめん!笑ってごめんてば!」
「本当にそう思っているのか?」
「思っているから!赦して!!」
「ふん!」
漸く頭を離してくれたので痛む頭を押さえて俯く。
「しかし、何故毎回俺が恥をかく時に近くに居るんだ」
「・・・偶然だよ」
まあ、本当は必然だけどね。
俯いていたらカイルの足元に、水滴といくつかの花びらが落ちている事に気が付き顔を上げてカイルの顔を見る。
そして、カイルの髪に花が一輪突き刺さっているのに気が付いて・・・私は堪らず腹を抱えて笑いだしたのだった。
「な、何故笑う!先程もう笑わないと言っただろ!」
「ご、ごめんごめん・・・で、でも我慢出来なく、て・・・ぷくくくくく」
「サクラ!!」
「くく・・・ごめん、怒らないでよ・・・とりあえず頭下げてくれない?」
「何故俺がお前に頭を下げないといけないんだ?むしろ頭を下げるのはお前の方だろ!」
「いや、謝罪の意味じゃ無いから。良いから頭下げる!これ以上は恥かきたく無いんでしょ?」
「・・・・」
カイルは訳が分からないと言う表情をしながら渋々頭を下げてくれた。私は笑って涙の溜まった目を拭い、カイルの髪に刺さっていた花を取ってあげる。
「ほらこれが髪に刺さっていたんだよ」
「なっ!?」
「それにいい加減髪濡れたままだと風邪引くよ?」
さすがに仕返しの意味を込めて小説に書いた事のせいなので罪悪感が沸く。
私は花を見て固まっているカイルの髪をポケットから出したハンカチで拭ってあげる。
その行動にカイルがビックっと体を反応したが大人しく身を任せていた。チラリと顔を見ると私の視線に気が付いたのか視線を逸らす。だけどうっすら頬が赤かい。どうやら照れているようだ。
・・・な、なんか可愛いぞ!!
「ふふふ」
「・・・また笑ったな!」
「ああごめんね。照れてるカイルがなんか可愛らしく思えてきて」
「か、可愛いだと!?」
「その顔を赤らめてる所とかね・・・ふふ」
「お、俺は男だぞ!可愛いと言われて嬉しいわけ無いだろう!・・・もう良い!俺は戻る!後は自分で拭くからこれは貰うぞ!」
「良いよ。ちゃんと拭くんだよ」
「ふん!」
カイルは私のハンカチを奪い取り踵を返して歩き出した。しかし、数歩進んでから立ち止まり顔だけ少し振り向いてボソリと呟く。
「・・・お前・・・笑えば少し本当に少しだけだぞ!・・・可愛いな」
「えっ!?」
その言葉に驚いてカイルを見るが、もうカイルは顔を前に戻してそのまま振り返らず去っていった。
そして私は意外なカイルの言葉に、顔を真っ赤にして暫くその場から動くことが出来なかったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます