物語は続く・・・
まず『Fin』と書かれた部分をペンで消す。
するとあんなにぼやけていた視界が鮮明になりカイル達をしっかり見る事が出来るようになった。もう元の世界の景色は見えない。
そして次にまだ余っていた最後の空白ページに文章を書き加えていったのだ。
『ダグラス王の凶刃に倒れたカイル王子。切られた背中から止めどなく血が流れ出している。周りにいた騎士が懸命な応急処置を行ないなんとか止血に成功する。』
そう私が書くと応急処置をしていた騎士からなんとか血が止まったと言う声が聞こえてくる。その声にホッとしながらもまだ予断を許さない状況である事に変わらないのでさらにペンを走らせる。
『血が止まった事でカイル王子の顔に血の気が戻り呼吸も安定したものになっていた。容態が安定した事で命の危険は無くなり周りの者は安堵の息を吐く。するとカイル王子の固く閉じていた瞼が薄く開き意識を取り戻したのであった。』
ここでもう書けるスペースが無くなってしまった・・・。
するとカイルの周りにいた人達がざわめきだしたので、私はノートをポケットに仕舞い急いでカイルの下に近付く。
薄く瞼を開けていたカイルは最初焦点の合わない目をキョロキョロと動いていたが、その目が私を捉えると瞼を大きく開け焦点の合った目で私を見て安堵したように微笑んだ。
「サクラ・・・」
「・・・っ!」
掠れた声で私の名を呼ばれ、堪えきれずボロボロと涙を流しながら膝を付いてカイルの手を両手で強く握りしめた。
・・・暖かい・・・生きてる!!
カイルはそんな私を見ながら手を握り返し笑顔を向けてくる。
「・・・お前凄い顔になってるぞ・・・馬鹿女」
「っ!・・・誰のせいだと思ってるのよ!この馬鹿王子!」
いつもの調子で言ってくるカイルに私も笑顔になり言い返したのだった。
その後用意された馬車にカイルを乗せ、急ぎ城に帰り本格的な治療をしてもらったのである。
ちなみにダグラスはと言うと、カイル王子の怪我でみんな慌て混乱していた間にいつの間にやらいなくなっていたらしい。そしてシュバイン帝国に密偵を行かせ所、どうやら生き残っていた兵士に助け出され自国に戻ったと報告があったようだ。
あの時のダグラスを思い出すと今でも時々恐怖に震えるが、今は好きな人の側にいられる幸福に浸っている。
「カイル大丈夫?」
「ああ、もうだいぶ怪我も塞がってきたからな。城の中ぐらいなら平気で歩ける」
あの怪我から一ヶ月程経ち、カイルはベットから出て城の中を歩き回れるぐらいに回復したのだ。私は怪我で寝たっきりの間、許可を得てずっとカイルの看病をさせて貰っていた。
今は歩けるようになったカイルを心配しつつ二人で中庭を散歩している所だ。
そして東屋のある場所まで行き二人で中にあるベンチに腰掛けた。
「カイル歩けるようになったからって、無理したら駄目だからね!」
「分かってるって・・・・・だけど早くこんな怪我治さないと格好悪いからな・・・」
「え?何て?」
「べ、別に気にしなくて良い!」
「そう?変なカイル」
不思議そうに見るとカイルが照れたように顔を背けた。しかし、ふと何かを思い出したのか再び私を見てニヤリと笑う。
「そう言えば・・・あの時お前が俺に言おうとしてた続き聞いて無いな」
「え?あの時?」
「俺がお前を庇って切られる直前だ」
私は切られたと言う言葉に一瞬顔を苦痛に歪めたが、すぐに何を聞いているか意味を理解し今度は顔が真っ赤に染まった。
「私カイルの事がの続きは?」
「・・・っ!!」
カイルはもう分かっている様子なのに意地の悪い笑みを浮かべて私を見てくる。そしていつの間にか私の腰に腕を回していてグッとカイルに引き寄せられた。
私はカイルの厚い胸に抱え込まれた状態になり身体中が熱を持ったのが分かる。
「カ、カイル・・・」
「言えよ。お前の口から聞きたい」
見上げるとカイルが真剣な表情で見つめてきていた。そしてその真剣な表情を見て私は決心を固める。
「私カイルの事が・・・・・好き。大好きなの!」
「サクラ!!」
「んんっ!」
私の告白を受けカイルが破顔しその直後私の唇を激しく奪った。
暫く激しいキスが続いた後、漸く顔を離してくれたが間近で微笑みながら私を見つめてくる。
「サクラ・・・俺も好きだぞ」
「・・・そ、その表情でその言葉ずるいよ!」
「・・・愛している。俺の妃になってくれ」
「・・・っ!」
「返事は?」
・・・そんな愛しそうに見つめられたらもう断れないよ。
「・・・はい。どうぞよろしくお願いします」
私の返事を聞くや否や再び私の唇はカイルの唇に塞がれたのである。
「必ず幸せにする!」
「私もカイルを幸せにしてあげるからね!」
唇が離れた私達はお互い言い合いそして額を合わせながら幸せに笑い合ったのだった。
────半年後。
城の一室で全身真っ白いドレスに身を包み、椅子に座りながら小さな宝箱を開けて中を見ていた。
その中には血で少し汚れてしまったノートとペン、そしてカイルがわざわざ製作者を探させ直して貰ったあの薔薇のペンダントが入っている。
それらを懐かしそうに眺めていると、扉をノックする音が聞こえそろそろ時間であると知らせてくれた。
私は返事をした後、もう一度宝箱の中身を見てから蓋を閉じ棚の引き出しに大事に仕舞う。
そして椅子から立ち上がり部屋を後にしたのだった。
教会の鐘の音が国中に鳴り響いている。
私は白く立派な教会の扉の前に立っていた。
頭から被っている白いベールは顔を覆うぐらいの長さと別に後ろに長く伸びている。手には白い数種類の花で出来た綺麗なブーケを持っているのだがこれはアイラのお手製。
私はドキドキしながら扉が開くのを待っていると、目の前でゆっくり扉が開いていった。
中には沢山の人々が椅子に座りながらこちらを見てくる。
その中にアイラとシルバの姿が。この二人は数ヵ月前に結婚し今は二人で住んでいる。そしてその近くに女将さんの姿を見付けて思わず嬉しさで泣きそうになった。良く見ると既に女将さんの方は泣いているようだ。
なんとか涙を堪え前を見据えて一歩一歩赤い絨毯のバージンロードを歩いていく。
私の目指す祭壇には、もう白い正装姿で私の事を見つめながら待ってくれているカイルの姿が。
逸る気持ちを抑えつつ漸くカイルの元に辿り着くと祭壇に立っている司祭様を二人で見た。
「ではこれより結婚の儀を行う」
司祭様の声が教会の中に響き渡る。
「カイル・ラズ・ミネルバ。貴方はこの女性を如何なる時も愛し続ける事を誓いますか?」
「誓う」
「ではサクラ。貴女はこの男性を如何なる時も愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います」
「では指輪の交換を」
そうして用意された指輪をお互いに嵌め合った。
「では最後に誓いの口づけを」
その言葉で私達は向き合い、カイルがそっと私の顔に掛かっているベールを上げた。
「・・・綺麗だ」
「・・・カイルも格好良いよ」
二人で微笑み合いそして誓いの口づけを交わす。
その瞬間教会内は割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。
唇を離したカイルは私の腰に腕を回して抱き寄せ、拍手を送ってくる人々に手を上げて答えている。
私はそんなカイルを愛しく見つめ、そして沢山の人々に祝福されているこの現実に幸せを感じていたのだ。
切っ掛けは自作小説の世界に入ってしまった事だった。最初は作者として話を見守るだけのつもりだったのに、その中で生きてる人々と出会いそしてカイルに恋をしたのだ。結局小説の物語自体は終わってしまったけれど、これからはカイルと共に幸せな新しい物語を作って行こうと心に誓ったのだった。
◇Fin◇
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