閑話

年始

 カイルと結婚して初めての年明け。


 私はカイルと一緒に、年末から様々な公務に明け暮れ今日やっとゆっくり休める日がやって来た。


 しかしカイルはまだ少し公務がある為、午前中は私一人だけでのんびりと過ごす事となったのだ。


 私は久し振りに、棚に大事に仕舞ってある小さな宝箱を取り出し蓋を開ける。


 その中には、カイルが買ってくれた薔薇の形のペンダントと、この世界に来た時から持っていた大事なノートとペンが入っていた。


 私はその中から、少し血で汚れてしまっているノートを手に取り宝箱から取り出す。


 そしてそのノートを持ってソファに座り、パラパラとページを捲った。




う~ん、やっぱり今考えても不思議だな~。この私が書いた小説の世界に入り込んで、そしてその中の登場人物と結婚したなんて・・・。




 そう苦笑しながらページを捲り一番最後のページまでやってくると、そこが一番血が多くこびり付いているのを見て、あのカイルの生死に関わる大怪我を思い出し胸が痛む。




本当にあの大怪我で生きていて良かった・・・でも、もしここに余白が無かったら・・・きっと助からなかった・・・。




 そう思い、カイルを助ける為に加筆した部分を指でなぞったのだ。


 そうしてそろそろノートを仕舞おうと、裏表紙に手を触れたのだがそこで違和感を感じた。




「あれ?前は気が付かなかったけど・・・なんかここ、一枚捲れそうな?」




 私はそう不思議に思いながら、裏表紙の端っこに爪を立てて捲れないか試す。


 するとペリペリと言う音を立てて、裏表紙から一枚ページが捲れた。


 どうやらカイルの血が付いていた事で、一枚裏表紙とくっついてしまっていたようだ。


 その裏表紙だと思っていた方は血が沢山付いてしまっていた為、もう書き込む事は出来ない状態だったが、裏表紙に隠れていた方はほとんど綺麗な状態だった。




「・・・あれ?これもしかして・・・このページ分何か書けるんじゃ?」




 私はその事実に気が付き、驚きに目を見開く。


 そして暫し思案した後、私はある考えが浮かびニヤニヤしながら宝箱の中に入っていたペンを持ってきて、その発見した空白ページに書き込み始めたのだ。


 そうしてある内容をそのページいっぱいに書き込み終えると、そのノートとペンを再び宝箱に仕舞った私はそれを元あった棚に戻し、またソファに座り直して用意してあったお茶をのんびりと飲み始めたのだった。






 昼食を終えて食後のお茶をソファで飲んでいた時、突然慌ただしい音を立てながらカイルが部屋に駆け込んでくる。




「カイル?そんなに慌ててどうしたの?」


「お、お前に謎の贈り物が届いた!!」


「私に?」




 私が不思議そうな顔をしながらソファから立ち上り、まだ動揺しているカイルの下に近付いていく。


 するとカイルの後ろから、沢山の大きな荷物を抱えた使用人達がゾロゾロと入ってきた。


 そしてその荷物を部屋の一角にどんどん置いていき、全て運び終えると使用人達は一礼して部屋から出ていったのだ。




「うわぁ~凄い量だね~」




 私はその山積みに置かれた贈り物を見上げ、感嘆の声を上げる。


 しかしカイルは、その荷物を見上げながら眉間に皺を寄せ怪訝な表情をしていた。




「サクラ・・・お前、この贈り物が何だか分かっているのか?」


「まあ・・・何となく?」


「・・・午前中の謁見で急に商人が、東の国からお前宛に贈り物を預かっていると言われ、一応中を検めたが特に問題無さそうだから受け取ったが・・・これは一体何なんだ?」


「う~ん・・・大まかに言えば、服かな」


「・・・服?平べったい布がいくつも入っているだけで、とても服には見えなかったぞ?」




 私の言葉を聞いても全然納得出来ないらしく、険しい表情で私を見てくる。


 確かに積み上げられている荷物は、一部を除いてほとんど平べったい箱だったのだ。


 しかし私はその箱が、桐の箱である事を知っていて、さらにその中身が何であるかも知っていた。




「まあ口で説明するよりも、見て貰った方が分かりやすいかもね」




 そう言って私はその贈り物の山に近付き、いくつか蓋を開けて一通り必要な物を選びそれを抱えると、この部屋の隣にある寝室に向かった。


 しかしそこで、カイルが私の後ろを一緒に付いてきている事に気が付き、私は後ろを振り返りながらカイルを睨み付ける。




「何で付いてくるの?」


「いや、見て貰った方がと言ったから」


「・・・着て見せてみるって事だよ!着替えるから、カイルはここで待ってて!!」


「そう言う意味か・・・しかしお前が着替えている所を俺が見て、何の問題がある?俺は毎日お前の裸を見てるんだぞ?」


「っっ!!そ、そう言う事言わないの!!それに基本的に女性は、夫であっても着替えを見られるの恥ずかしいもんなのよ!!」


「そう言うもんなのか?」


「そうなの!!だから、カイルはここで待ってて!!」




 そうカイルに顔を真っ赤に染めた状態で捲し立て、急いで寝室に入っていったのだった。






 寝室のベッドの上に持ってきた荷物を並べて置き、私は一つずつ蓋を開けて中身を再度確認する。


 そしてその中で、一番大きな長方形の箱に入っていた物を手に取り箱から取り出した。




「綺麗・・・」




 うっとりと見つめたそれは白い生地に、桜の花びらが美しく描かれている着物だったのだ。


 実は午前中あのノートに、このミネルバ国の王子であるカイルの妃に、東の国から着物の贈り物が送られると書いていたのだった。


 そしてその書いた通りに、その東の国から着物が贈られてきたので、私は特に驚く事はなかったのである。


 私はさっそく着ていたドレスを脱ぎ、下着姿になってから着物を着始めたのだった。


 ちなみに着付けに関しては、元々成人式の時に自分で着物が着たいと思って着付け教室に通っていた時があり、そのお陰で今問題無く一人で着物が着れるのだ。


 そうして私は手際良く着物を着終わると、鏡を見ながら髪を結って簪を挿す。


 そして軽く化粧をし直してから、カイルの待っている部屋に戻る事にした。






 隣の部屋に続く扉をゆっくり開けしずしずと部屋に入ると、カイルはこっちに背を向けた状態で腕を組みソファに座っていたのだ。


 ただその様子から、どうも機嫌があまり良くないように見え、私はそんなカイルに苦笑する。




「カイル、お待たせ」


「遅い!着替えるだけでどれだけ時間・・・っ!」




 カイルが私の声を聞いて、ブツブツ文句を言いながら立ち上がりこちらを向くと、驚愕の表情で固まってしまった。


 その予想通りの反応に、私は気分を良くしながらゆっくりカイルの近くまで歩いていく。




「カイル・・・どうかな?」


「・・・・」


「・・・カイル?」




 私が声を掛けても、カイルは呆然とした表情のまま全く反応をしてくれないので、段々不安になってきた。




「・・・似合わないのかな?」


「っ!そ、そんな事無い!!」




 あまりに反応してくれないカイルを見て、私は自分に自信が無くなり悲しげな表情をカイルに向けると、そんな私を見てカイルが慌てて否定し私の下まで急いでやって来る。




「本当に?」


「ああ、凄く似合っている・・・綺麗だ」


「あ、ありがとう・・・」




 カイルが真剣な表情で誉めてくれたので、私は今度は恥ずかしくなり顔を赤く染めながら俯く。


 するとカイルが私の頬に手を添え、私を上向かせた。




「下を向くな。俺にじっくり見させろ」


「っ!!」




 カイルの熱のこもった眼差しに見つめられ、私の心拍数はどんどん跳ね上がっていく。




「初めて見る服だが、お前のその黒髪と黒い瞳によく似合っているな」




 そう言ってカイルは私の結い上げた髪に優しく触れ、次に頬そして露になっているうなじに手を這わせていった。




「カ、カイル!?」


「・・・・」




 その手の動きに、私のドキドキはどんどん強くなる。


 そしてカイルは再び私の頬に手を移動させると、もう片方の手で私の腰を掴み引き寄せてきたのだ。




「カ、カ、カイル!?」


「黙れ・・・」


「ん!!」




 カイルはそう言うと、動揺している私の唇を自分のそれで塞いできた。


 私は突然の事に驚き、身を捩ってカイルの腕から逃れようとしたが全くびくともせず、結局そのままカイルの口付けに翻弄され続けたのだ。


 暫く続いた激しい口付けから解放された私は、呼吸を整えるべく荒い呼吸を繰り返しながらカイルの胸に身を預けていた。




「なあサクラ・・・この服ってどうやって脱ぐんだ?」


「え?この腰の帯を解けば、簡単に脱げるけど・・・」


「そうか・・・」




 何故カイルがそんな事聞いてくるのか分からず、息を乱しながらカイルを見上げると、劣情のこもった眼差しと目が合ったのだ。


 そして私の説明を聞いたカイルが納得した返事を返すと、私の腰に手を回したまま歩き出す。


 ちなみにカイルが私を抱き寄せた状態で歩くので、必然的に私もその歩みに合わせて歩く羽目になる。


 一体どこに行くんだろうと思っていると、その向かっている先に寝室へ続く扉が見え私は目を見開いて驚く。




「ちょっ!?カイル!?」


「・・・何だ?」


「ど、何処に行こうとしてるの?」


「・・・寝室だ」


「え、えっと・・・眠たいの?」


「そんな訳無いだろう!」


「そ、それじゃ・・・」


「そんなの決まってるだろ」


「っ!ちょっ!!まだ昼間だよ!?」


「今日はもうこの後何も予定が無いんだ、自分の妃と何をしようと誰にも文句は言われない」


「いや、まあそうなんだけど・・・」


「それとも、俺とするのは嫌か?」


「べ、べつに嫌じゃ無いけど・・・」


「それなら何も問題無いな」




 そうご機嫌にカイルが言うと同時に、カイルは寝室に続く扉を開ける。


 そうして私はそのままカイルに寝室へ連れ込まれると、静かに扉を閉められてしまったのだった。

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