終幕
カイルを見上げると険しい表情で前を見据えている。
私はその視線を追って首だけ振り返った。
そこには沢山の兵士を従え、弓を手にこちらを激しく睨み付けてくるダグラスの姿が。どうやら先程の矢はダグラスが放ったようである。
カイルは私を背に庇い腰の鞘から剣を抜いて構えた。
ダグラスも弓を他の兵士に渡し剣を抜いて構えてくる。
「カイル王子・・・まさかこんな形で相見えるとはな」
「ダグラス王!」
「この人数差では勝ち目が無い事は目に見えて分かっているだろう?さあサクラをこちらに渡して貰おうか」
「断る!お前になど渡すものか!」
「カイル・・・」
「・・・ならばカイル王子、お前を殺し力ずくで手に入れるまで!」
そう言ってダグラスは兵士を引き連れこちらに向かって走り出してきた。
「サクラ、お前は俺が絶対守る!」
カイルは真剣な表情で剣を構え直しダグラスを迎え撃つ体勢を取る。
「カイル王子ーーー!!」
その時ダグラス達の後ろから剣を手に持ち、数人の騎士とアイラを引き連れこちらに駆けてくるシルバの姿が見えた。
そしてすぐにダグラス達に追い付くと激しい交戦が始まる。
アイラは数人の騎士に守られながら私達の所にやって来た。
「サクラ様!良かったご無事で!」
「アイラ・・・貴女も無事で良かった」
私達はお互いの無事を確認しあって抱き合った。
カイルはそんな私達の様子を見てから、護衛の騎士達に二人を必ず守るようにと命じ今も激しい戦いが行われている場所に行ってしまう。
「カイル!!!」
私は思わず追いかけようとしたが、護衛の騎士達に前を塞がれ近付くことが出来ない。私は不安になってオロオロとしていると私の手をアイラが握ってきてくれた。アイラを見ると不安そうな表情をしていたが私を励ますようになんとか笑顔を作ってくれたのだ。そんなアイラの優しさに冷静さを取り戻しカイル達の無事を祈って戦いの行方を見守る事にする。
確かに自分でも言ってた通りカイルは強かった。しかし、そのカイルよりもものすごい勢いで敵を倒していくシルバが凄い。明らかに多勢に無勢だったのにどんどん敵の数が減っていって今ではほぼ互角・・・いやシルバ達の方が多いぐらいだ。
・・・小説で最強騎士と書いたけどまさかここまで強いとは。そりゃダグラスがアイラを人質にしてシルバを押さえ込もうと思うのも納得出来るよ。
そんな事を考えているうちに殆どの敵が倒れ、後はダグラスを残すのみとなった。
今はシルバとダグラスが対峙し睨み合っている所だ。
そこでふと気が付いた。
あ!ここ小説のクライマックスの場面だ!!
そう思ったと同時に二人は一気に駆け寄り、お互い剣を振り払ってすれ違い背を向け合って固まる。
そして一瞬の静寂の後にダグラスが横腹から血を流しその場に倒れ伏したのだ。
シルバはそのダグラスを見下ろしながら静かに剣を鞘に戻した。
「シルバ様!!」
隣にいたアイラが堪えきれないと言った表情でシルバに駆け寄り抱き付いた。シルバもそんなアイラを愛おしそうに見つめギュッと抱きしめ返している。
そんな小説通りの二人の姿に感動しながら、私も二人の近くにいるカイルの元に向かった。
「カイル大丈夫?」
「サクラ・・・俺は大丈夫だ。お前の方こそ怪我は無いか?」
「大丈夫だよ」
「そうか良かった」
そう言って微笑んでくるカイルに心臓が大きく跳ねる。
そして、早鐘を打つ胸を抑えながら私の気持ちをカイルに伝える事にした。
「あ、あのねカイル・・・」
「どうした?顔が赤いぞ?」
「そ、その・・・私・・・カイルの事が・・・」
「・・・俺の事が?」
段々恥ずかしくなって俯いてしまったのだが、カイルの優しい声での問い掛けに意を決して顔を勢い良く上げた。
「・・・・・・え?」
何故か目の前のカイルがぼやけて見えるのだ。他の所に視線をやってもそこもぼやけて見える。
ハッとしてアイラ達の方を見ると二人は嬉しそうにキスをしている所だった。他の騎士達は空気を読んでみんな背を向けている。私はそこでこの場面が私の小説の終わりの部分で『Fin』と書いて終わらしていた事を思い出した。
ま、まさか!物語が終わったから私、元の世界に戻されているの!?
そう思っていると視界に元の世界にある自室の机が重なって見え出してきたのだ。
「サクラ?」
私の只ならない様子に怪訝な表情でカイルが見てくる。
「カイル・・・」
せっかくカイルが好きだと自覚したのに、こんな形で別れなければいけないなんてそんなの無いよ!
泣きそうな顔でカイルを見つめた。
「サクラ一体どうし・・・・・!」
「・・・俺のモノにならないのならいっそうこの手で!!」
「サクラ!!」
突然後ろから掠れた声が聞こえたと思ったら、カイルに腕をいきなり引っ張られカイルの腕の中に閉じ込められた。
「ぐっ!!」
「カイル!?」
私はカイルの横からその後ろを見るとさっきまで私が立っていたすぐ後ろに、血の流れる脇腹を押さえながら額に冷や汗を浮かばせニヤリと笑うダグラスが立っていたのだ。それも片手には血の付いた剣を持って。
・・・血!?
するとカイルが力を無くしてその場に崩れ落ちた。その背中は大きく斜めに切られていてそこから止めどなく血が溢れてくる。
「い、嫌ーーーーーー!!!」
私は急いで手を傷口に当て押さえるが、そんな事で血が止まるわけもなく次から次に血が流れていく。
カイルの顔を見ると段々青白くなっていくのが分かる。
私の声で異変に気付いた他の人達が集まってきてくれ私の代わりに応急処置を施していく。だが傷が深いせいか血を止めることが出来ないでいた。
そんな中私の視界はどんどん元の世界の方がハッキリ見えだしてきたのだ。
私はこんな状態のまま元の世界に帰らないと行けないの?それにこのままじゃカイルが死んでしまう!これじゃ終わった物語の先ではカイルが生きていない!!・・・・・・そんなの・・・作者である私が許さない!!!!!
カイルの血で濡れた手でポケットからノートを取り出し、『Fin』と書かれたページを開いてペンを走らせたのだった。
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