脱出劇

「ダ、ダグラス!お願い離して!」


「・・・駄目だ」


「な、何でこんな事?」


「・・・どうしてもお前が欲しくなった。もうカイル王子に渡すつもりは無い」


「なっ!・・・んんっ!!」




ダグラスが強い眼差しで見つめてきたと思ったら、再び唇を激しく奪われた。


私はなんとか抵抗したいのにダグラスがガッチリ組み敷いてきているせいで身動きが取れない。


そのうちダグラスの手が私の体を這い回り始めた。


私は嫌悪感にポロポロと涙を溢し出したがそれでも止めてくれない。


漸く唇を離したダグラスは私の胸元を見ていた。そして徐に手を伸ばし首にかかっていたペンダントを掴んだ。




「止めて!!!」




私の必死の声も届かず、ダグラスは力を込めてペンダントを引き千切りそしてそれを部屋の隅に投げ捨てた。


私は飛んでいくペンダントを、まるでスローモーションでも見ているかのように見ていたのだ。


ダグラスはそんな私に構わず、私の襟元を大きく開き首元に顔を埋めてくる。




「い、嫌ーーーーー!!カイル!カイル助けて!!!」




その時突如爆発音が鳴り響き屋敷が少し揺れた。




「何だ!?」




素早く顔を上げたダグラスは何が起こったのか分からず怪訝な表情になる。すると隣の部屋の扉が激しく叩かれた。




「ダグラス様大変です!敵襲です!」




扉の向こうから焦った兵士の声が聞こえてきたのだ。




「何だと!!」




ダグラスはベットから飛び降り急いで隣の部屋に向かう。だが出ていく直前足を止め私に振り返ってくる。




「・・・逃げることは許さん。ここにいろ」




そう言葉を残し隣の部屋から廊下に出ていったのだった。






私は震える体をなんとか気力で動かし、すぐにベットから降りて乱れた髪と服を整え投げ捨てられたペンダントの元に向かいしゃがんでそれを拾う。


特に目立った傷が無いことに安堵し大事そうに胸に抱き寄せる。そしてそれをポケットに仕舞い勢いよく立ち上がった。




・・・早くここから出ないと。多分あの爆発音はシルバ達が助けに来てくれた筈だから。




小説ではシルバ達が屋敷の離れを爆発させ、そこに敵を誘き寄せている間に屋敷へ潜入する事になっている。




きっともう既に潜入している筈だから私も早く合流しなくては!それにそこにはカイルもいるはず・・・・・早く会いたい。




私は逸る気持ちを抑えつつ足早に寝室を出て隣の部屋から廊下に続く扉をゆっくり開けた。




「!!」




開けた扉の前に何人もの兵士が立っていたのだ。


私が驚愕に固まっていると、私に気づいた兵士が近付いてきた。




「ダグラス様からお前をここから一歩も出すなと命を受けている。大人しく部屋に戻れ」


「なっ!」




兵士は私を部屋に押しやると扉を閉めてしまう。


私は唖然と閉じられた扉を見つめた。




・・・え?嘘?ダグラスって確か冷酷非情で、あの美少女のアイラにも心が動かされないキャラだった筈なんだけど?何で寄りによって私?それもまさかの豹変執着独占系だったなんて!!!




先程のベットでのダグラスを思い出し、ゾッとして再び震え始めた私は自分の体を強く掻き抱いたのだった。




と、とりあえずここにいると違う意味で私の身が危ない!早く逃げないと!




私はそう思いなんとか出れないかと部屋の中を見渡す。すると部屋から続くベランダが目についた。


震える体をなんとか抑え部屋からベランダに出る。


外に出るとどこからか焦げた臭いが鼻についた。多分爆発させた離れがまだ燃えているのだろう。


私はベランダから身を乗り出し下を覗き見た。




・・・あの爆笑のお陰で下には兵士はいないようだけど、やっぱりここは三階だから飛び降りる事は出来ないか。




ダグラスの私室は、私達が監禁されていた部屋の同じ階にあったが遠く離れた位置だった。


他になんとかならないかと見回すとベランダの近くに大きな木がある事に気が付く。




・・・これ頑張れば飛び移れるかも。




私は急いでベランダの柵に登った。下を見ると絶対恐怖で足が竦むと思い目の前の木に集中する。そして一度大きく深呼吸をしてから思いっ切りジャンプし木に飛び移ったのだ。


なんとか無事木に掴まることが出来てホッと息を吐き、そこから足元に気を付けながら下まで降りた。


地面に足を着けサッと身を隠しながら建物に沿って進んで行く。


その時屋敷の中が急に騒がしくなり、刃がぶつかり合う音が聞こえてきたので近くにあった窓からそっと中を覗くとそこにはアイラを庇いながら剣を振るうシルバの姿が!




・・・おお!アイラ無事にシルバに助け出されたんだね!良かった~。・・・あれ?でもカイルの姿が無い?小説では一応この救助部隊に参加している筈なのに?




私は不思議に思いながらも、とりあえずシルバ達に合流するべく入口を探して走り出した。


暫く走ると勝手口が見えてきたのでそこに向かおうとした時、突然扉が外に向かって開く。


突然開いた扉に激突する寸前なんとか足に力を込めて止まることが出来た。


その開いた扉から周りを警戒しながら顔を出してきた人物を見て驚きに目を見張る。




「カイル!?」


「なっ!サクラ!?」




カイルは私の声に気付き驚きながら出てきた。




「お前何でこんな所にいるんだ!?」


「何でって、逃げ出してきたから!」


「逃げ出してきたから!って・・・・・サクラどうしたんだその格好?ボロボロじゃないか!」


「え?」




私は言われて自分の格好を見た。


確かに服は至る所破れたり葉っぱがくっついていたりしてボロボロだった。それに剥き出しになってる肌にも所々擦り傷が。




「ああこれ、三階の部屋から逃げるためにあの木に飛び移って降りたから」


「木に飛び移った!?」


「うん。さすがにちょっと怖かったけどね」


「・・・・」




ちょっと照れ臭そうにしてカイルを見た。カイルは驚いた表情をしていたが次第に頬が緩み最後には吹き出してしまう。




「くく・・・さすがサクラだ。お前は大人しく助けが来るのを待つような女じゃ無かったな・・・くくっ」


「ちょっと!そんなに笑うこと無いでしょ?」


「ああすまんすまん。だけど無事なようで安心した・・・監禁されてるはずの部屋に突入したのにアイラ嬢しか居らず、アイラ嬢からお前がダグラス王の私室に行ったきり帰ってこないと聞いて嫌な予感がしたんだ。すぐにダグラス王の私室に向かい入口に立っていた兵士共を倒し中に入ってみてもお前の姿が何処にも無く焦ったぞ」


「・・・心配かけてごめん」


「本当に無事で良かった・・・」




そう言ってカイルは私を強く抱きしめてくる。


私はカイルの暖かい胸の感触に漸く会えた喜びと嬉しさが込み上げてきて、目から涙を溢しカイルの背に手を回して抱きしめ返した。




「サクラ・・・」


「カイル・・・」




お互いを見つめ合い、そしてカイルが顔を傾けてきたので私は応えるように目を閉じた。




その時近くで素早く風を切るような音がしたと思ったら、何かが刺さる音が聞こえ咄嗟に目を開いて周りを確認すると近くの木に一本の矢が刺さっていたのだ。

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