皇帝の豹変

一夜明け、私は自分の気持ちがハッキリした事と散々泣いた事で今はスッキリした気持ちで朝を迎えている。


アイラも睡眠を取ったことでいくらか顔色が良くなっていた。


とりあえずこの数日後に必ず助けが来る事が分かっているので、今は自分に出来ることをしようとそう心に誓ったのだ。




まず今することは、自分達の身の回りをなんとかする事だと思い、部屋にあった衣装棚を勝手に漁りなるべく簡素な服を選んで着替えさせてもらう。


アイラは最初勝手に着ることを躊躇ったが、このままだとずっと同じ服を着たまま汚れた格好でシルバに会うことになるよ?と言うと一瞬考えてから素直に着替えてくれた。




・・・やはり恋する女の子。好きな人の前では綺麗でいたいものである。




そうして着替え終え暫くすると部屋の鍵が開けられた。そこから簡単なご飯が乗ったトレーを持った兵士が現れたので、私はすごい剣幕で兵士に詰め寄り「お風呂!!それに御手洗い!!」と無理矢理許可を取らせに行かせ、その後ダグラスから監視付きならと言う条件付きで許可を得ることに成功する。




私達はご飯を食べてからさっそくお風呂に行くことに。


扉を叩いて近くにいる兵士を呼び風呂場まで案内させた。


風呂場に着くと、中にまで入ってこようとしていた兵士をすごい形相で睨み付けて外に追い出す。それでもまだ心配だったので、お風呂に一人が入っている間に片方が入口を見張っている事に決めてまずアイラを先に入らせた。


アイラが風呂場に入った事を確認してから入口をじっと見つめ、部屋からここまでに通った所を思い出している。




・・・お風呂場は一階にあった事から、監禁されている三階の部屋からは結構歩く事になったけれど少しこの屋敷の間取りを知ることが出来た!それに、兵士の配置場所と巡回場所も。




私は必ず部屋の外に出してもらえるお風呂と御手洗いを要求したのは、こうして屋敷の中の事や他の兵士の様子を見るためでもあった。少しでも屋敷の事を分かっていれば助けが来た時に有利に動くことが出来るからだ。




よし!これからも細かい所を見逃さ無いようにしないと!




そう思い、風呂から出てきたアイラに替わりお風呂に入っていたのだった。






それから数日お風呂と御手洗いに行くついでに、周りの様子を観察する日々を過ごしているのだが一つ分からない事が起きている。


あのダグラスの執務室に呼ばれてから、何故か時々ダグラスから呼び出され話をする時があるのだ。それも話の内容は主に私の事。生まれや生い立ち果ては何故か私の趣味の事まで聞かれるので、まあ特に言っても問題ないと思い支障が出ない範囲で話した。


ダグラスは私が話している間感情の読めない瞳でこちらをじっと見ながら時々質問をしてくる。と言うよく分からない時間を過ごしていたのだ。






そして昼を過ぎた頃、私はまた呼び出されダグラスの私室で長椅子に向い合わせで座っていた。




「・・・あの~こう頻繁に呼び出されても、そろそろ話す事無いんですが?」




私は隠すこともせず本当に嫌そうな顔をしてダグラスを見る。


しかしそんな私の態度も気にならないのか薄く笑んでいた。




「・・・ならばお前とカイル王子の事を話せ」


「え?」


「いまだにカイル王子から何の返答も来んのだ」


「あぁ・・・国を引き渡せと言う・・・」




・・・まあ、今カイル達は密かに私達の居場所を探し出し救出する為の準備をしている筈だからそりゃ返答来ないよね。それに返答出さなければその間は確実に人質の命は無事だから。




「・・・その様子からだとお前はこの状況を予想済みだったようだな。それはカイル王子に対しての信頼に依るものなのか?お前とカイル王子は一体どう言う風に過ごしてきた?」


「どう言う風にと言われても・・・・・う~ん、最初の頃は口喧嘩ばかりしてたかな」


「口喧嘩?」


「そう、カイルは私の事を馬鹿女と言ってきたから私もムキになって馬鹿王子と言い返していたんだ」


「・・・・」




そんなに前の事じゃ無いのになんか懐かしいな~。




私はカイルと出会って間もない頃の言い合いを思い出し思わず笑ってしまう。しかし、そんな私をダグラスが表情を無くして見てきている事に気が付かなかった。




「それから何故かカイルの案内と言う暇潰しに付き合わされて、街中を連れ回される羽目になったんだよね。ああ、そう言えばカイルに城へ招待されて舞踏会で一緒に踊ったんだった。あれは初めての体験でなかなか恥ずかしかったけど楽しかったな~」


「・・・・」


「あ!その後カイルが働いてたお店に大量の贈り物を送ってきた時はさすがに驚いたよ。まあ、全部送り返したけど。でもその次の日カイルが何故受け取らないんだ!と怒鳴り込んできたんだよね。でも結局そのまま直接私に選ばせる為街に連れて行かれたんだ。そしてそこで・・・カイルが直接買ってくれた初めての贈り物・・・嬉しかったな~」




私は自分の首にかけてあるペンダントを見て薔薇の部分に触れ微笑んだ。




「ただその後・・・・・」




突然されたキスの事を思い出し無意識に唇に触れて頬を赤らめる。


すると突如顔に影が落ちてきた。私が不思議に思い顔を上げると、いつの間にかダグラスが目の前に立っていて無表情のまま見下ろして来ていたのだ。ただその瞳はいつもの感情の分からないようなものでは無く、奥の方でチラチラと怒りの炎が見えるような気がするものだった。




「ダ、ダグラス?・・・んっ!?」




私の背もたれに片手をついたと思ったら急にダグラスの顔が近付いてきて、次の瞬間私の唇はダグラスの唇に塞がれていたのだ。




な、何で!?・・・い、嫌ーーーーーー!!!




私は逃れようと頭を振ろうとするが、ダグラスの手が私の後頭部をがっしり掴まえていて動かすことが出来ない。


それならばと思い今度は胸を必死に叩いたが全然びくともしなかった。




「んんんっ!!」




貪るような激しいキスが暫く続き、漸く解放された時には息が乱れていた。


しかしダグラスは私から離れようとはせず、至近距離からじっと涙に濡れながら睨み付けている私の瞳を見つめてくる。その瞳にはハッキリとした劣情が見えたのだ。




「・・・っ!」


「・・・お前には特別にダグラスと呼ぶことを許す」




そう言うといきなり私を横抱きにして抱え上げ隣の部屋に連れていこうとする。




「い、嫌!離して!!降ろして!!」


「・・・・」




私は必死に暴れるのだが鍛え抜かれた男の人の腕からは逃れられない。


そうしているうちに隣の部屋に入ってしまい、そこにベットがある事に気付いて顔からサーと血の気が引く。


ダグラスは私をベットに乱暴に降ろすと私の上に覆い被さり組み敷いてきたのだった。

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