玉座の間
ミネルバ国との戦いが始まり一日が経った。
そんな危機的な状況なのにミネルバ国の王妃である私はいまだにシュバイン帝国の皇帝の膝の上にいる。
正直今すぐミネルバ国に帰りカイルや皆の無事を確認し、王妃としての役割を果たしたいと切実に思っているのだ。
しかし私の首に掛けられているこの邪香のネックレスのせいで自分の意思で体を動かす事が出来ない。
どうしてこんな事に・・・お願い!カイル、皆無事でいて!!
そう心の中で必死に願いながらも、私は玉座に座っているダグラスの体に身を預けなすがままにされているのであった。
するとその時、玉座の間の扉が開きそこから今戦場に出ているはずのバライドル将軍が入ってきたのである。
そして壇上の下までやって来ると膝を付き頭を垂れてきたのだ。
「バライドル将軍、まだ戦いは終わっていないと報告を受けているがわざわざ指揮官であるお前自ら戻って来るとは・・・何か緊急の報告があって戻ってきたのか?」
「はっ!直接お伝えしたく戻って参りました」
「ほ~それは一体何だ?ただし報告の内容によってはタダでは済まないと思え」
「っ!・・・ダグラス様のご希望の通りカイル王を生きて捕らえました!」
そのバライドル将軍の報告に私の心の中は激しく動揺しだしたのである。
う、嘘!カイルが捕まった!?そんなはず無いよ!!だってカイルあれでも結構剣の腕凄いんだよ?それに最強騎士シルバだっているのに・・・。
そんな事を思っているとダグラスは私の動揺を悟り抱いていた私の肩の力を強め、さらに私をダグラスの体に押し付けてきたのである。
「・・・予想よりも早かったな。だがよくやった。ではカイル王をここに連れてこい」
「はっ!そう仰られると思いまして扉の外で待機させております。おい!連れてこい!!」
バライドル将軍が扉の外に向かって声を張り上げるとゆっくりと扉が開き、そこから一人の兵士に促されながら縄に縛られたカイルが俯いた状態で入ってきたのだ。
カイル!!!
私はその姿を見て心の中で叫び声を上げ今すぐカイルの下に駆け寄りたかった。
しかし行くことの出来ないこの体に私は歯がゆい気持ちで、ただ近付いてくるカイルを見ている事しか出来なかったのである。
そうして捕らえられたままのカイルはバライドル将軍の隣まで移動させられると、後ろに立っている兵士に肩を掴まれてその場で立て膝をさせられたのだ。
そんなカイルの様子を見てダグラスはニヤリと笑ったのである。
「くく、久しいな。カイル王子、いや今はカイル王であったな」
「・・・・・ダグラス王」
ダグラスの楽しそうな声にカイルはゆっくりと顔を上げ険しい表情でダグラスを睨み付けた。
そしてすぐに視線を私に移しじっと私を見つめてきたのである。
「サクラ・・・」
「ふっ、感動の再会の所悪いがサクラはもう私のモノだ」
「・・・何だと?」
「お前の所に駆け寄ろうとしないのがいい証拠だと思うが?」
そう言ってダグラスはわざと私の体から手を離し両手を上げてみせたのだ。
だがそうされたからと言って私の体が動くはずもなく私はダグラスの体に体を預けている状態のままだった。
するとカイルは眉間に皺を寄せダグラスを鋭く睨み付けたのだ。
「それはサクラに邪香を使っているからだろう!!」
「・・・ほ~邪香の事を知っているのか」
「ああ、その邪香を嗅いだ者は体の自由を奪われるって事もな!だからそれは絶対サクラの意思じゃない!!」
「ふっ、まあそれが分かったからと言ってお前には何も出来ないがな」
ダグラスはそう言うと再び私の肩を抱き寄せ顎を掴むと上を向かされた。
そしてダグラスは私の顔に顔を近付けてきたのである。
「止めろ!!」
そんなカイルの叫びなどダグラスが聞き入れるはずもなくそのまま私の唇はダグラスに奪われたのだった。
お願い!カイル見ないで!!
抵抗する事も出来ずダグラスのキスをただ受け入れるしかない私はただただそう心の中で願っていたのだ。
そうしてダグラスは私から顔を離すとカイルの方を向いて口角を上げて笑った。
「くく、そうそのカイル王の顔が見たくて堪らなかった。どうだ?愛しくて堪らない女を目の前で別の男に奪われる気持ちは?」
「ダグラス!!」
「ふっ、私を呼び捨てか。なら私も呼び捨てで呼ぶかなカイルよ」
憎々しげに見ているカイルをダグラスは余裕の笑みを浮かべながら見ていたのだ。
「さて・・・せっかく呼び捨てで呼び合うような仲になったが、そろそろ別れの時間にしようか」
「何、だと?」
「実はサクラと約束していてな。カイルの首を飾った寝室で初夜を迎えてやると」
「なっ!?」
「安心しろ。その時は邪香を使わず正気のサクラを抱いてやるつもりだ。そうすれば諦めて完全に私のモノになるだろうからな」
そう言いながらダグラスは愛しそうに私の頬を撫でてきた。
「そして同時にミネルバ国も私のモノとなるだろう。さあお喋りはここまでだ。私は早くサクラを抱きたいからな。この場でその首落とさせてもらおうか」
そしてダグラスは玉座から立ち上り私を代わりに玉座に座らせると、ゆっくりとカイルのいる所まで壇上から下りていったのだ。
そんなダグラスの後ろ姿を見つめながら私は必死に心の中で叫んでいたのである。
嫌!!止めて!!お願いカイルを殺さないで!!!
しかしそんな願いなど通じるはずもなくダグラスはカイルの目の前に到着してしまった。
さらにバライドル将軍はダグラスが斬りやすいように少し離れてその様子を見守っている。
そうしてそこにはカイルが逃げないように後で捕まえている兵士と縄で縛られているカイルと、腰の鞘から剣をすらりと引き抜いているダグラスだけが残ったのだ。
カイルは立て膝を付きながらキッとダグラスを見上げるように睨み付け、そんなカイルをダグラスは冷酷な笑みを浮かべながら剣を振り上げたのである。
「カイル、去らばだ」
そしてダグラスはカイルの首に向かってその剣を振り下ろしたのだ。
しかし次の瞬間、激しくぶつかり合う金属音が玉座の間に響き渡ったのである。
「なっ!?」
ダグラスは驚きの声を上げ目の前の状況を驚愕の表情で見ていた。
何故なら今まで縄で縛られていたはずのカイルが縄から抜け、その手に剣を持ってダグラスの剣を受けていたからだ。
そんなカイルの様子にダグラスだけではなくバライドル将軍も、さらには表情の動かせない私も驚いていたのである。
「何故!?・・・ん?そうかお前は!!」
ダグラスは驚愕の表情のままカイルの後ろにいる兵士に視線を向けそして全てを察したようだ。
その兵士の手にはさっきまでカイルを縛っていた縄を持っていたが、どう見ても切れた様子もなく結び目も無かった。
さらに腰の鞘には剣は無くなっており懐から短剣を取り出しダグラスの方に向けていたのである。
「ふん、漸く気が付いたか。この者は俺の国の密偵だ。俺はわざと捕まってみせてこの者に縛られる振りをしここまで連れらてきた」
「・・・何だと?」
「その方が手っ取り早くお前に近付けるし・・・何よりサクラをこの手で助けられるからな!」
カイルはそう言うなり力を込めてダグラスの剣を押し返すとすぐさま立ち上り体勢を整えた。
そこで漸く事の事態に気が付いたバライドル将軍が慌ててダグラスの下まで走りより、腰から剣を抜いてカイルに向けたのだ。
「カイル王・・・わざと負けたと言ったが、まさかあの一騎討手を抜いていたのか!?」
「ふん、当然だ。俺がお前如きに負ける訳が無いだろう」
「なっ!何だと!!貴様許さん!!」
カイルの言葉に逆上したバライドル将軍は、顔を真っ赤にして怒り剣を振り上げながら一気にカイル向かって走り出した。
そんなバライドル将軍を見て密偵の兵士がカイルを守ろうと前に出ようとしたが、それをカイルが手で制止すぐに剣を構え直してそのバライドル将軍に向かって走り出したのだ。
そして次の瞬間、バライドル将軍の剣を避け素早い身のこなしでバライドル将軍の懐に入ると、その脇腹を深々と斬り裂いたのである。
「ぐあぁぁぁ!!」
バライドル将軍は呻き声を上げその場に倒れ伏したのだった。
すぐさまカイルはバライドル将軍から離れ再び密偵の下に戻ると、剣を構えながらダグラスを見据えたのだ。
しかしダグラスはちらりと床で動かなくなっているバライドル将軍を一瞥すると、すぐさまカイルの方に視線を向けニヤリと笑った。
「ほ~カイル、お前なかなかの腕を持っていたんだな。お前の国はあのシルバしか強くないと思っていたぞ。くく、どうやら少しは楽しませてもらえるようだ。だがそれでもサクラの目の前でお前を殺す事は決定している」
そう言ってダグラスは剣を持ち直しカイルに向かって剣を構えたのだ。
そしてそのダグラスに対するようにカイルと密偵の兵士は並んで剣を構えていたが、カイルが何か密偵の兵士に小声で話し掛け密偵の兵士が小さく頷いたのである。
ダグラスはそんな二人の様子に怪訝な表情を向けていると、突然二人が一斉にダグラスに向かって走り出してきたのだ。
「二人同時と言う事か!まあ良いだろう相手になってやろう!!・・・・・何!?」
そのまま三人での戦いが始まるかと思われたのだが、何故かカイルはダグラスの脇をすり抜けて一直線に私の方に向かってきたのである。
そんなカイルの行動にダグラスは驚くが、すぐさま体の向きを変えカイルの後を追おうとしてその行く手を密偵の兵士が遮った。
「邪魔だ!!そこを退け!!」
「いいえ退きません!」
ダグラスは目をつり上げながら立ち塞がった密偵の兵士を切り捨てようとしたが、密偵の兵士は軽い身のこなしでその剣を避けすぐさま短剣でダグラスに襲いかかる。
その予想外の動きにさすがのダグラスも動揺し暫く密偵の兵士と戦う事になったのだ。
そうこうしているうちにカイルは壇上に駆け上がり玉座に座り続けている私の前までやってきた。
「・・・サクラ」
カイルは私の顔を見て愛しそうに名前を呼び微笑んできたのである。
カイル!!
そして私も心の中でカイルの名前を呼んだのだった。
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