敵襲
次の日、昨日のカイルとのキスと発言が頭から離れず結局今回もあまり眠れなかったのだ。
しかしそんな理由で仕事を休む訳にはいかないと自分の両頬を叩き気合いを入れると、身支度を整え開店準備をしたのである。
そうして開店と同時に続々とお客さんがやってくると私は忙しく店内を走り回っていたのであった。
だが先程から何人かのお客さんの生暖かい視線が私に突き刺さってくるのだ。
よく見るとその人達は昨日カイルが店にやってきた時にもいたお客さん達であった。
するとそのお客さんの中の一人が小声で私に話し掛けてきたのである。
「なあなあサクラちゃん・・・昨日あれからカイル王子様とどうなったんだ?」
「え!?」
「こらこら!野暮な事は聞かない約束だっただろう?」
「だけどよ、気になっちまって・・・」
隣のお客さんに小突かれているそのお客さんの話に私は昨日のキスを思い出し一気に顔が赤くなったのだ。
「お!やっぱり何か・・・」
「な、何も無かったです!!それよりも注文をどうぞ!!」
私は慌てて否定するとそのお客さんに注文を促したのである。
しかしその時、突然外から大きな音が響き渡ってきたのだ。
ドォォーーーーーン!!
その外から大きな爆発音と共に地響きが伝わってきた。
するとすぐに外から沢山の悲鳴と大勢の人が走っているのが窓から見える。
お客さんの一人がその異様な光景に席を立って、外を確認しに行ったのだがその後顔面蒼白になりながら店の中に駆け込んで叫んだ。
「た、大変だ!!隣国のシュバイン帝国が攻めてきた!!」
「何だって!?」
「いやーーー!」
他のお客さんもそれぞれ席を立ち恐怖に顔を強張らせていた。
「お客さん達!お代は良いから早く城に逃げな!」
奥から出てきた女将さんが声を張り上げて言うと、みんなハッとした顔になり急いで外に逃げ出していく。
私はそんなみんなの様子を呆然と見つめながら考え事をしていた。
・・・シュバイン帝国?どっかで・・・あ!!
サッとポケットからノートを取り出しパラパラとページをめくり目的の箇所を見付ける。
やっぱり!物語を盛り上げるため隣国のシュバイン帝国が突然攻めてくる話を書いたんだった!!
シュバイン帝国は軍事国家。次々と武力で国を攻め落として領土を広げている国でこのミネルバ国と並ぶ程の大国。今まで何度かミネルバを狙って国境付近で戦いになった事があるが全てミネルバが勝利を収めている。しかし今回は奇襲をかけられ王都に攻撃をされたのだ。実はこの奇襲この国を攻め落とす為のものではなく、武力国家のシュバインが今までミネルバに勝つことが出来ない原因だった最強騎士シルバの恋人アイラを人質として拐うためのものだったのだ。
そうか・・・もう物語はだいぶ終盤にまできてたんだ。
私がじっとノートを見ていると女将さんが二階に上がる階段の前で大きな声で叫んできた。
「サクラちゃん!何してるんだい!?早く宿屋のお客さんの避難を手伝っておくれ!」
「あ!はい!ごめんなさい!」
急いでノートをポケットに仕舞い女将さんに続いて上の階に上がった。女将さんと手分けして各部屋に回り、お客さんを全員城の方に行くよう避難させ終わってから私達も急いで外に出たのだ。
しかし、外に出て私は足がすくむ。何故ならそこは想像以上に悲惨な状態だった。恐怖の表情で悲鳴を上げながら逃げ惑う人々。街の至る所で上がる炎と煙。そして辺りには何かが焦げたような臭いが漂っていた。
・・・文字でただ攻めてきたと書いただけなのに、リアルはこんなに酷い事になるの!?
私は自分が書いた話の恐ろしさにゾッとし体が震える。
「サクラちゃん!怖いのは分かるけどここに居ても危険だから逃げるよ!」
「・・・っ!はい!」
女将さんの声に我に返り前を走る女将さんに付いて走った。
しかしある程度走った所でふとあることに気付き足を止めそしてクルリと踵を返す。
「女将さんごめんなさい!私どうしても行くところがあるので先に行ってて下さい!」
「え?サクラちゃん!?ちょっと何処行くの!?危ないわよ!!」
「ちゃんと後から行きますからーーーーー!!」
女将さんの制止を無視し目的の場所に向かって全速力で走り出したのだった。
────露店の一角。
私は細い路地の物影に隠れじっとある場所を凝視する。
そこには三人の兵に囲まれて怯え震えているアイラの姿が。
実は私が気になったのはアイラの事だった。確かにアイラはここで拐われる事になっているのだがただ拐われると書いてあっただけなので、もしかしたら拐われるまでに何かあるかもしれないと心配になり様子を見に来たのだ。
そして案の定アイラを囲った兵達が、いやらしい顔つきでアイラの事を見ていたので私は急いでノートとペンを取り出しササっと書き込む。
『怯えるアイラの周りに突然上から外壁の一部が剥がれ落ちてきた。』
「うゎぁーー!」
「ぎゃぁーー!」
「いってぇーー!」
外壁が体の一部に当たり痛がる兵達。
そこに上官らしき人が現れた。
「お前達一体何をしている!!」
「た、隊長!!」
「す、すみません!例の娘を見付けました!この娘がそうです・・・」
「アイラ!!!」
「ちっ!もう見付かったか!」
部下の兵が上官に報告をした時、遠くからアイラの名を叫びながらシルバが走ってくるのが見えた。
「シルバ様!!・・・きゃぁ!!」
「お前達何としてもここで食い止めろ!俺はこの娘を連れていく」
「「「はっ!」」」
上官はアイラを肩に担ぎ上げ、部下の兵達にシルバの足止めを命令してシルバと反対方向に走り出す。
そしてさすが鍛え上げられている兵達だけあって、さっき痛がっていたのが嘘のように剣を構えてシルバを迎え撃つ態勢を取った。
「シルバ様ーーーーー!!」
遠く離れていくアイラが悲痛な声でシルバの名を叫ぶ。
私はその姿を見送りながら心の中で祈った。
アイラ大変な目に会わせてごめんね!ただ、もうこれ以上付いて行けないから見守りながら助けてあげられないんだ・・・絶対助かるから頑張って!!
「アイラーーーーー!!」
漸く到着したシルバがもう姿の見えなくなったアイラの名を叫んでいる。
その様子を見ながら、この場はシルバの実力ならもう大丈夫だと判断した私は見付からないようにその場を後にしたのだった。
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