夕焼け
カイルの手で馬から下ろされた私は目の前に広がる光景に目を奪われていたのである。
うわぁ~!!凄く綺麗!!確かに小説の設定でアイラの花畑は広大で様々な花が育てられていると書いたけど・・・実際見るとこんなに凄いんだ。
私はそう思いながらも感嘆のため息を溢していたのだった。
「サクラ様、先にお昼にしませんか?」
「え?私何も持ってきていないんだけど・・・」
「私、お弁当を沢山作って持ってきてありますのでご一緒に食べましょう!」
「・・・それじゃお言葉に甘えて頂こうかな」
「はい!是非!」
そうして馬の手綱を近くに結んできたカイルと共にシルバが敷いてくれた大きな布に座り、さっそくアイラのお弁当を頂く事になったのである。
「うわぁ!美味しそう!!」
「そんなに手の込んだ物は作れなかったのですが・・・」
「そんな事無いよ!彩りも綺麗だしどれも美味しそうだよ!」
私はそう心からの感想を述べながら広げられたお弁当箱の中身に目が釘付けになったのだ。
そこには綺麗に並べられたサンドイッチが沢山入っており、中に挟まれている具がそれぞれ違ってどれも食欲をそそる見た目だった。
「アイラのお弁当はいつも美味しいんですよ」
「シルバ様・・・」
「本当の事だよ」
「ありがとうございます」
シルバの言葉にアイラは頬を染めて嬉しそうに俯いたのである。
そんな二人を私は微笑ましく見つつお弁当箱からサンドイッチを一つ手に取って食べたのだ。
「美味しい!!アイラ絶対良いお嫁さんになるよ!!」
「サクラ様!あ、ありがとうございます・・・」
「ふふ、シルバ料理上手の奥さまが出来そうで良かったね」
「ええ、本当にそう思います」
「っ!シルバ様まで・・・」
さらに赤くなったアイラを見て私とシルバは互いに笑い合ったのである。
すると先程から黙々とアイラのサンドイッチを食べていたカイルが、じっと私と手に持っているサンドイッチを見比べている事に気が付いた。
「・・・どうしたのカイル?」
「サクラ、お前は料理はしないのか?」
「え?」
「確かにアイラ嬢のこの手料理は美味いと思う。だが俺はサクラの手料理を食べてみたい」
そう真剣な表情で私を見つめてくるカイルに私は頬を引きつらせていたのである。
「今度俺に料理を作ってきてくれないか?」
「・・・・」
「サクラ?」
「胃薬又は医者常備状態であれば」
「・・・・・は?」
「いやぁ~私さ、昔自分の家族に一度だけ料理を作ってあげた事があったんだけど・・・その家族全員から『お前はもう料理を作るな!』と言われた事があるんだよね」
「・・・一体何を作ったんだ?」
「確か魚の煮物だったかな?私としては本を見てちゃんと作ったつもりだったんだけどね。何故か暫く家族全員寝込んじゃったのよ。・・・それでも食べたい?」
「・・・・・いや、止めておく」
私の話に皆なんとも言えない表情で私の事を見てきたのであった。
そうしてアイラの美味しいお弁当を平らげた私達は、お弁当のお礼にアイラの花畑の手伝いをする事になったのである。
「ではすみませんが、カイル王子とサクラ様であちらのお花達に水を撒いて頂けませんか?」
「ああ分かった」
「任しといて!」
私とカイルは教えて貰った小屋で水やりの道具を取ってくると、二人で協力して花に水を撒いて回った。
「・・・意外と重労働なんだな」
「そうだね。売られている花を見てるだけではこんな大変な仕事だとは思わないもんね」
綺麗に咲き誇る花を見渡しながら私はアイラの凄さに感心していたのである。
するとその時向こうの方でアイラとシルバが収穫作業をしている姿が目に入り、その仲睦まじい様子に私は自然と笑みを浮かべたのだ。
「サクラ・・・前から気になっていたんだがあの二人を見ている時のお前の目が、何だか我が子を見守る母親のような眼差しになるのは何故なんだ?」
「え?そ、そんな眼差しになってる?私は普通に見てるつもりなんだけど?」
「最初はシルバに惚れてじっと見ているのかとも思ったが・・・明らかに慈愛に満ちた眼差しなんだよな。正直全く意味が分からん」
「・・・私も分からない」
カイルは困惑した表情を私に向けてくるが、私もどう答えていいか困り苦笑いを浮かべる事しか出来なかったのである。
まあ・・・あの二人は私の小説のキャラ達だから私の子供みたいなものなんだけどね。あれ?でもそうなるとカイルも私の子供?・・・いや全然そんな風に思えない。むしろ・・・・・異性。
私はカイルの顔をじっと見つめ感じた思いを考えたのだ。
するとそんな私の視線に気が付いたカイルが怪訝な表情で私に近付いてきた。
「どうしたサクラ?」
「え?ああううん!何でも無いよ!!」
目の前までやってきたカイルに私の心臓が突然早鐘を打ち始め落ち着かなくなってしまったのである。
そんな私の状態を悟られたくなかった私は、慌てて顔を反らし水やりの続きを始めたのだ。
そうして私はまだ不思議そうに見てくるカイルを急き立てて言われた範囲の水やりを終わらす事が出来たのであった。
「では俺達は先に帰るからな」
「はい。カイル王子にサクラ様、手伝って頂き本当にありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそこんなに沢山のお花タダでくれてありがとうね」
「むしろ足りないようでしたら明日お届け致しますから」
「ううん、十分だよ!」
「カイル王子、護衛で付いて行けず申し訳ありません。どうぞお気を付けてお帰りください」
「そう気にするな。べつに俺一人で大丈夫だ。ではサクラ行くぞ」
「アイラにシルバまたね!」
色とりどりの花がいっぱいに入った籠を馬の背に括り付け、私は再び馬の上でカイルに支えられながらアイラの花畑から去っていったのである。
さすがに二度目で慣れた事と行きと違いそんなに早い速度を出して馬を走らせていなかった事で、私は回りの景色を見る余裕が出来ていたのだ。
「・・・もうすぐ日が暮れるね」
「ああ・・・」
「なんだかんだあったけど、今日はとっても楽しかったよ。誘ってくれてありがとうね」
「・・・・」
私は顔を上げて素直な気持ちでカイルにお礼を言い笑顔を向けた。
しかしカイルはそんな私の顔をじっと見つめたまま何も言ってくれなかったのである。
「カイル?」
「・・・サクラ、もう少しだけ俺に付き合え」
「え?っ!きゃぁ!!」
カイルは突然馬の腹を蹴り一気に走り出させたのだ。
私は小さな悲鳴を上げながら慌ててカイルの体に掴まり落とされないように必死にしがみついたのである。
そうして暫く馬を走らせてから小高い丘の上で漸く止まってくれたのだ。
すると先にカイルが私の後ろから地面に降り立ち続いて私を馬から降ろしてくれた。
「・・・ここは?」
「俺のお気に入りの場所だ」
そう言ってカイルは私の手を握るとそのまま歩きだしたのだ。
「ちょっ、カイル一体何処に?」
「ついてくれば分かる」
私は戸惑いながらもとりあえずカイルに続いて丘の上を歩いていった。
そして丘の上に一本だけ生えていた大きな木の場所まで到着すると、カイルは目の前を指し示したのである。
「ここをお前に見せたかった」
「・・・うわぁ~!!」
感嘆の声を上げながら目の前に広がる光景を目を見開いて魅入ったのだ。
何故なら夕陽に彩るミネルバ王国の街がそこから一望出来たのである。
そのなんとも言えない幻想的な光景に私は目を反らす事が出来なかった。
すると突然私の後ろからカイルが私を包み込むように抱きしめてきたのである。
「カ、カイル!?」
「サクラ・・・俺が贈ったペンダント付けてくれているんだな」
「っ!!」
カイルは片手を私の首元まで移動させ、チャラリと音を立てながら首に掛け胸元に入れていたペンダントを引っ張り出したのだ。
「やはりサクラに良く似合っている」
「あ、ありがとう」
「サクラ・・・」
「ちょっ、待っ!んん!!」
そのカイルの手が今度は私の顎に移動しその手で無理矢理カイルの方を向かされると、そのまま唇を塞がれてしまったのである。
さすがに無理な体勢からのキスに私は苦しさを訴えるべく、腰に回わされているカイルの手を何度も叩くが一向にキスを止めてくれない。
するとカイルはキスをしたまま私の体を反転させ向かい合わせの状態で抱きしめられたのだ。
さらにそんな私を後ろにある木に押さえつけるように移動させられてしまった。その間も全く唇を離してくれない。
むしろ木に押さえつけられた事で今度は何度も角度を変えてキスを繰り返してきたのだ。
「お、お願・・・ん!・・・っもう・・・止め・・・んん!!」
キスの切れま毎に私はなんとか声を出して制止を促したがむしろキスが深まるばかりで苦しくなる一方だった。
極めつけは舌を差し込まれ私の舌を絡め取ろうとしてきた事だ。
さすがにその初めての経験に私は激しく動揺していたのである。
そうして漸く唇を離してくれた時には私はぐったりと木に背中を預けていたのであった。
そんな私を見ながらカイルは濡れた自分の唇をペロリと舐めたのだ。
「っ!!」
「ふっ、まだし足りないがサクラが限界のようだしここまでにしてやろう」
「し、し足りないって・・・そもそもこう言う事は恋人同士になってからするものじゃないの!!」
「・・・俺はもうサクラを恋人と思っているがな」
「なっ!私は何も・・・」
「確かに俺の告白の返事は聞いていない。ならば今答えられるか?」
「そ、それは・・・」
「まあどうせサクラの事だ、まだ自分の気持ちに答えが出て来ないんだろう?」
「うっ・・・」
「・・・安心しろすぐに答を出せとは言わない。だが俺は我慢するつもりはないから覚悟はしておけよ」
「なっ!!」
私を見つめニヤリと笑ってくるカイルの顔を唖然と見ながら、私は顔を赤くしていたのだった。
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