東屋

カイルの案内で城の色んな所を見せて貰えた。


しかし、行く先々で出会う人々がみんなミランダさんの様な表情で見てくるもんだから正直うんざりしている。しかも途中で会ったロイさんもそうだったのだ。ただ不思議なのがカイルが特に気にした様子が無い事。




・・・これは多分噂の事を全く知らないな。




多分知ってたらこんなに風に案内してくれるとは思わないので、カイルの態度になんか納得した。






広い城の中を歩き回り少し疲れてきたので、カイルが中庭で休む事を提案してくれその案に乗ることにする。


お城の中庭は隅々まで手入れが行き届いておりとても美しかった。私達は中庭の真ん中にある東屋に向かったのだがそこには既に先客が居たのだ。




「シルバ!」


「カ、カイル王子!」




東屋のベンチに二人仲良く座っていたのはアイラとシルバだった。二人は私達に気付き慌てて立ち上がって頭を下げる。




「良い、二人共頭を上げろ」


「はっ!」


「はい・・・」


「しかし、シルバお前がこんな所に居るとは珍しいな。それも女性を連れて・・・うん?その女性は最近良くシルバと一緒に居る女性じゃないか」


「彼女は私の恋人です」


「ア、アイラと申します」




シルバの恋人発言でアイラが頬を染めながら名前を名乗った。しかし、私は今シルバの発言を聞いて動揺をしている。




・・・こ、恋人!?そ、そうだノート!ノートを見たい!・・・ああ!!駄目だ!今ガーターベルトに挟んでいるからスカートを捲り上げないと見れない!さすがにここでそんな事出来ないよ!!




「シルバに恋人が居るなど初めて知った。いつから付き合っていたんだ?」


「だいぶ前から時々会ってはいたのですが、正式にお付き合いを始めたのは昨夜の舞踏会からです」


「シルバ様・・・」




顔を真っ赤に染めて恥じらうアイラが凄く可愛いく、そしてそのアイラを愛しそうに見つめて腰を引き寄せ頬笑むシルバが凄く幸せそうだった。




舞踏会!?あ!そうだ!!


舞踏会の途中二人で中庭に抜け出し、月明かりの下でシルバがアイラに愛の告白をする。そしてアイラもシルバに気持ちを告げ晴れて二人は恋人同士になった場面があったんだった!!


しまったーーーーーーー!!!重要な場面見逃したーーーーーー!!!




私は昨日酔っ払ってしまった自分に対して、後悔と悔しさで泣きそうになり上を向いて涙を堪えたのだった。




「ちなみにそちらの女性はもしかして、昨夜の舞踏会で王子と踊られていた方でしょうか?」


「ああそうだ。ニホンと言う遠い国からこの国に旅行に来ている。サクラと言う名前だ」


「あ、サクラです。よろしくお願いします」




突然私の話題になり、なんとか気を取り直し涙を引っ込めて笑顔を作って挨拶した。




「シルバです。こちらこそよろしくお願いします」


「アイラです。よろしくお願いします」




・・・だけどまさかここで二人に直接会うとは思わなかった。確か告白の後は場面が変わって数日後の事を書いていたから、舞踏会の後の二人がどうしてるかは考えていなかった。・・・あぁ、この様子から二人で甘い時間を過ごしたんだ。良かったね。




私は二人を微笑ましく思いながら見ていた。しかしそんな私の表情を二人は不思議そうに見てきたが気にしない事にする。




「ちなみにサクラは普段街にある宿屋の食堂で働いている」


「あ、私聞いたことあります。黒髪で黒い瞳の看板娘が居る宿屋の食堂があると・・・サクラ様の事でしたのね」


「ああ、それなら私も同僚から聞いたことがあります」


「・・・お前意外と有名人だったんだな」


「私も今初めて知ったよ・・・」


「しかし、その看板娘の女性が王子の恋人だったなんて知りませんでした」


「「恋人!?」」




私とカイルは同時に驚きの声を上げた。




「え?違うのですか?今城中でそう言われてますよ?」


「私も街のみんなから王子様が宿屋の看板娘と恋仲になってるとお聞きしてますが?」


「なっ!?」




カイルが驚きの表情をしている。やはり全く知らなかったようだ。私は予想以上に話が膨らみ過ぎてて頭が痛くなってきた。




ちょっと待ってくれ~!!私は作者であって、ここの住人じゃ無いから困るんですけど!?




「あの~それじゃカイル王子とサクラ様は恋人同士では・・・」


「「無い!!」」


「そ、そもそも私がこんな俺様王子好きになる筈が無いから!」


「っ・・・!お、俺だってこんなガサツで人の事馬鹿にしてくる女、好きに・・・・・なるはず・・・・・・・無ぃ・・・・・」




私は何故か胸がチクリと痛むのを不思議に思いながら激しく否定したのに、カイルは最後の方段々声が小さくなりそして俯いて一人考え込んでしまった。




「カイル?」


「・・・・」


「どうしたの?」




結局黙りこんでしまったカイルが気になり、私は下からカイルの顔を覗き込む。




「カイル?」


「なっ!うわぁーーー!!」




カイルは私が覗き込んできた事に驚き後ろに大きく飛び退いた。


しかしその顔は凄く真っ赤で目が泳いでいる。




「一体どうしたの?もしかして体調悪い?」


「体調・・・ああそうだ!体調が悪くなってきたから俺は部屋に帰る!シルバとアイラ嬢、それにサクラすまないがこれで失礼する」




そう言ってクルリと踵を返しそのまま凄い勢いで城の中に入って行ってしまった。




・・・体調悪いのにあんなに動いて大丈夫なんだろうか?




ちょっと心配になりながらその後ろ姿を見送っていると、後ろでアイラとシルバがコソコソ話しているのに気が付き振り返った。


二人は顔を近付けて小声で話していたが、私が振り向いた事で離れそして二人から例の生暖かい目を向けられる。




「これは時間の問題だね」


「そうですね」


「???」




そうして二人から謎の言葉を貰ったのだった。






その後カイルは体調が悪いせいか部屋に閉じ籠ってしまう。結局私はカイルへのお見舞いの言葉を伝言して貰うことにして宿屋に帰っていった。

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