贈り物

予定より早く宿屋に帰った事で女将さんに驚かれたが、私が元気になっていた事で安心したと言ってくれた。そして、一日休みを頂いていたけどすることも無かったので夕飯時からバリバリ働いたのだった。






結局それから数日経ってもカイルは現れない。代わりに現れるようになったのはアイラだった。そして何度か店に来てくれるようになった事で今ではすっかり仲の良い友達になったのだ。時々シルバと一緒に来てくれる事もあるのでその時にカイルの様子を聞いてみるが、何故か歯切れが悪い言い方をされ言葉を濁される。


その様子に相当体調が悪いのかと心配するが、そうでは無くちょっと色々忙しいらしいと複雑な表情で言われた。


とりあえず良く分からないが体調が悪い訳では無さそうなので少し安心する。




まあ、あのカイルの事だからそのうちひよっこりと現れるだろう。




私はそう高を括り、カイルの居ない間にまたノートを見つつ物陰からニマニマと進行状況を確認する日々を過ごしていた。


そんなある日、昼時のピークを過ぎて今日も出掛けようかとしていた時、食堂の窓から豪華な馬車が店の前に停まったのが見える。




・・・あれ?とうとうカイルが来たのかな?でもカイルはいつも馬車使わないし・・・まさかまたロイさん?




私がそう思案していた所入口の扉が開き、そこから予想していた通りロイさんが入ってきた。




「サクラ様お久し振りです」


「あ、お久し振りです。・・・今日はどんなご用でしょうか?まさかまたお城にとか言わないでしょうね?」


「いえいえ、今日はサクラ様に別のご用事で伺いました」


「別の?」


「はい・・・では例の物をここに」




ロイさんはパンと手を叩き後ろに声を掛ける。すると後ろからゾロゾロと沢山の男の人が包装紙に包まれた箱やお花等沢山店内に運び入れてきたのだ。




「な、何これ!?」


「なんだいなんだい?これは何の騒ぎだい?」




女将さんもあまりの騒ぎに奥から出てきてその荷物の量に目を見開いて驚いている。


そして荷物を全部運び終えると男達は外に出ていった。




「あ、あの~ロイさん、これは一体何でしょうか?」


「これはカイル王子からサクラ様への贈り物でございます」


「はい?」


「ですからカイル王子からの贈り物でございます」


「・・・全部?」


「はい。全部です」


「・・・・」




私はロイさんの有無を言わせない微笑みと高々と積み上げられた贈り物の山を交互に見て絶句した。




「ちょっとサクラちゃん!これ凄い宝飾品よ!」




女将さんが近くにあった小さな箱を開けて興奮した様子で中を見せてくる。確かに中には大きな碧色の宝石が中心にあり、回りを小さな宝石で囲っている豪華で高そうなネックレスが入っていた。他の箱も大きさから言ってドレスとか靴とか色々入ってそうだ。




「・・・ちなみに贈り物を贈られる理由をお聞きしても良いですか?」


「この前お城にご招待した時、お城の案内を途中で止めてしまった事へのお詫びだそうです」


「・・・・」


「本当は王子自ら直接お詫びに伺いたかったそうなのですが・・・ここ最近忙しくてなかなか行けそうに無かったので、このように贈り物をする事にしたそうです」


「・・・・」


「・・・サクラ様?」




私は頭を抱え唸った。




・・・あの馬鹿王子!!!!久しぶりだからもう一度!!馬鹿王子!!!!!!




「・・・全部持って帰ってください」


「え?サクラ様?」


「全部持って帰ってください!!こんなの頂いても正直大迷惑です!そもそもこんな量置くとこ無いしドレスや宝石等着ていく場所も無いので要りません!それに花もこんなにあっても困ります!」


「そ、そんな事言わず王子のご好意受け取って下さい!」


「要りません!」




私はロイさんがどんなに困ろうとも受け取る気は全く無い。






結局ロイさんは私の頑ななまでの拒否で諦め、もう一度男の人達に贈り物を店から運び出させて落ち込みながら帰っていたのだった。


女将さんは少し勿体無さそうにしていたが、確かにあの量は困るわよねと最後には同意してくれたのだ。






そして次の日の同じぐらいの時間、激しく店の入口が開きそこから怒り心頭のカイルが入ってきた。




何かこの登場に慣れてきたよ・・・。




「あ、カイルお久し振り~」


「お久し振りじゃ無い!サクラお前何故受け取らなかった!!」


「・・・何を?」


「俺からの贈り物だ!!」


「・・・あんな量受け取れるわけないじゃない。それに断った理由はロイさんから聞いてるでしょ?」


「着る所が無いから要らないと聞いている」


「あれは夜会に良く行く貴族のお嬢様方なら喜ばれたでしょうが、私は貴族でも何でもないから着ていく場所が無いの!だから必要ないと言ったんだよ」


「それならば俺が夜会でも舞踏会でも何でも招待してやる」


「それも舞踏会の時に言ったよね?ああ言うのは一回限りで良いと。それに、これ以上私と一緒にそんな所に行くとさらに噂になって結局困るのはカイルだよ?」


「・・・・」


「それに、カイルはこの国の王子で将来は王さまになるんだから、何処かの国の王女かこの国の令嬢を・・・・・・お妃に・・・迎えないと・・・いけないんでしょ?」




何で私こんなに胸が苦しくなるんだろう・・・。




「・・・お前何で泣きそうな顔してるんだ?」


「そ、そんな顔してない!」


「してるぞ」


「してない!」


「・・・まあ、良い。とりあえずそんな噂になることはお前は気にしなくても良い」


「え?」


「それに、妃の件だが俺は別に身分にこだわって結婚する気はない。妃にする女は俺が望んだ女と決めている。父上にもそう伝えてあるし了承も得ている」




・・・何でカイルはそんな真剣な目で私を見てくるんだろう?




「だからどんなに噂になろうともお前は気にしなくて良いからな」


「・・・要は周りにどれだけ噂されようが、カイルが望んだ女性を妃に出来るから私との噂が広まっても問題無いと言うことなんだよね?」


「・・・合ってるようなちょっと違っているような気もしないでもないがまあ良いだろう」


「???」


「とりあえず!あの贈り物が気に入らないのなら直接お前の欲しい物を買ってやる」


「え?いや良いよ!」


「遠慮は要らん!今から買いに行くぞ!」




そう言って結局いつもの通り店から連れ出される羽目に。


ただ、迷惑な筈だったこのいつも通りの行動が今は何故か嬉しく感じているのだった。

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