戴冠式
お城にあるカイルの執務室でカイル、シルバ、ロイの三人が難しい顔で向かい合い話をしていた。
「・・・最近のシュバイン帝国の動向はどうだ?」
「はい。探らせていた密偵からの報告によりますと・・・兵力を増産し武器を大量に仕入れているようです」
そうロイは言い手に持っていた資料をカイルの前の机に置く。それに続くように今度はシルバが口を開いた。
「そして近隣諸国を次々と襲撃しさらに領土を広げています」
「そうか・・・あのダグラス王があのまま大人しくしているとは思っていなかったが・・・やはり動きだし始めたか」
「・・・カイル王子どう致しますか?」
「今の所こちらに何か仕掛けてくる様子を見せない以上不用意に手を出すのは得策では無いな」
シルバの言葉にカイルは険しい表情で答え腕を組んだ。
「だが・・・ダグラス王がいつどう動くか分からん以上警戒は怠らない方が良いだろう。特にもうすぐ戴冠式を控えている。各国の要人が集まりどうしても警備が追いつかなる可能性があるからな。そこで奴は動いてくるかもしれん・・・シルバ、シュバイン帝国との国境付近の警備をさらに強化させておけ。それからロイは引き続き密偵と連絡を取り合い何か動きがあり次第直ぐに報告させるように」
「「はっ!」」
二人は揃って肯定の返事をしそして一礼してからカイルの執務室を出ていった。
そうして部屋にはカイル一人が残ると、カイルは机の上に広げられた資料を見つめさらに難しい顔になる。
「ダグラス王・・・サクラに異様な執着を見せていたからな。このまま諦めるとは到底思えんのだが・・・」
あのサクラを熱く見つめていたダグラス王の目を思い出しカイルは眉間の皺を深くしたのであった。
◆◆◆◆◆
ミネルバ国の各地ではお祝いムードで大いに盛り上がっている。
何故なら今日は新しい王が誕生する日であったからだ。
「サクラ様!そろそろお時間ですので王広間までお急ぎください」
「わ、分かっているわミランダ!でも・・・私変じゃない?」
私はそう言って何度も姿見に映る自分の姿を確認したのである。
「大変お綺麗ですからご心配ございまでん!!」
「でも・・・今日から王妃になる事だし、ちょっとでも変だとカイルに恥をかかせちゃうから・・・」
「いえいえ!サクラ様はもう充分王妃様として立派に見えますし行動もされています!ですが・・・この大事な式に遅れるのは王妃様として非常に宜しく無いかと思いますよ!!」
「そ、そうよね!!ごめんねミランダ、急いで向かうよ!!」
ミランダの言葉に私はもう一度だけ自分の姿を鏡で確認してからミランダに続いて慌てて部屋から出たのだ。
・・・確かにミランダの言う通り戴冠式と言う重要な式典に遅れる王妃なんて何処にもいないよね。でもやっぱり・・・私が王妃になると思うとまだ不安しか無いんだよね。
私はお城の廊下を足早で歩きながらもただただ不安ばかりが募っていたのである。
そうこうしているうちに戴冠式が執り行われる王広間までやって来ると、私は不安を隠し小さく深呼吸をすると扉の横に立っている兵士に開けるよう指示を出した。
すると王広間に続く大きな扉がゆっくりと開き、すでにそこに集まっていた沢山の貴族達や招待した他国の王族達の視線が一斉に私に集まってきたのだ。
私はその視線を受け思わずごくりと唾を飲み込んでしまった。
うう・・・やっぱり何度体験してもこの瞬間は慣れないな・・・。
まるで見定めているようなその視線に私は背中に冷や汗をかいていたのである。
しかしいつまでもここに突っ立ている訳にもいかないと自分を奮い立たせ、その王侯貴族達の間を教え込まれた足取りで優雅にゆっくりと歩いて進んだのだ。
すると目の端に見慣れた二人組の顔が見えた。
そこには心配そうな顔で私の方を見ている綺麗に着飾ったアイラと正装姿のシルバがいたのである。
私はその二人の姿を見て少しホッとし緊張が和らいだ。
そしてそのお陰で私は問題なく先頭の自分が立つ場所まで到着する事が出来たのである。
そんな私の耳に王侯貴族達のこそこそとした話し声が聞こえてはくるが、予想はしていた事なので敢えて気にしない振りをして前だけをしっかりと見据えていた。
そうして暫く待っていると、数段高くなっている壇上に現国王であるカイルのお父様が現れ堂々と立ったのだ。
すると続いて入口の扉が開き、そこに真っ赤なマントを肩に掛け真っ白な正装姿のカイルが立っていた。
私はその姿を見て大きく心臓が跳ねたのである。
か、格好いい・・・・・。
そのカイルの姿に思わず見惚れ頬を熱くさせながら心臓を高鳴らせていたのだが、よく見ると回りにいる女性達(アイラを除く)も同じように顔を赤らめてカイルに見惚れている事に気が付いた。
そんな女性達を見て私は一瞬ムッとしたがすぐに王妃になるのだからと顔を振って表情を戻したのだ。
しかし再びカイルの方を見ると、真ん中に敷かれた真っ赤な絨毯を堂々と歩きながらもチラリと私の方を見ていたのである。
そして私と視線が合うと口の端を少し上げて笑ったのが見えた。
っ!!・・・絶対私の今の気持ち見透かされている!!!
思わずカイルに見惚れていた事と他の女性がカイルへ向ける視線に嫉妬していた事をどうやらカイルに気付かれているようで、私は何だか凄く恥ずかしくなってしまったのだ。
そんな私を見られたくなくて急いで顔をカイルから外し国王のいる壇上に顔を向けた。
するとカイルは私の横を通っていく時に小さな含み笑いを私にだけ聞こえるように溢していったのである。
私はすぐにカイルの顔を見ようとしたがその時にはすでに壇上に上がる階段を上っていたので、もうカイルの背中しか見えなかったのだ。
カイル!後で覚えておきなさいよ!!
国王の前まで到着したカイルが膝をつき頭を垂れているその背中に向かって私は心の中で吠えたのであった。
「我が息子、カイル・ラズ・ミネルバよ」
「はっ!」
「今日この時よりこのミネルバ国の王の座をそなたに譲る事とする」
「はい。慎んでお受けいたします」
「うむ。新たな国王としてこの国をしっかりと導くように」
「はい」
「では王冠をこれに」
国王であるお義父様がそう言うと、王冠の乗せられた赤いクッションを手に臣下が近付き恭しくお義父様に捧げ持ったのだ。
そしてその王冠をお義父様が両手で持ち顔を上げたカイルの頭にゆっくりと乗せたのである。
「これにてカイル王の誕生である!」
そう声高々にお義父様が宣言をするとカイルは立ち上り私達の方に体を向けると右手を上げた。
すると一斉に王侯貴族達は頭を垂れ新王になったカイルを敬ったのだ。
勿論私も事前に聞いていた事だったので他の人と同じようにカイルに向かって頭を下げたのだが、内心では心臓が飛び出しそうなほど激しく動いていたのである。
ヤバイ!ヤバイ!なんか国王になった途端さらに格好良さが増したんだけど!!!
ただ王冠を乗せただけで特に見た目は変わっていないのに、何故かカイルが何割か増しに光輝いて見えてしまったのだ。
・・・私、本当にあんな人の奥さんでやっていけるんだろうか?
何だかここに入ってくる前よりも不安が増してしまったのだった。
そうして滞りなく戴冠式を終え、国中に新国王が誕生した事が伝わると一気にお祝いムードが広がったのである。
そしてその夜執り行われた祝賀会も王妃となった身でなんとか無事に立ち回る事が出来、漸く私はカイルと共に新しく用意された王と王妃の為の部屋に戻ったのだ。
「はぁ~疲れた!」
「ふふ、カイルお疲れ様」
部屋に入ったカイルはすぐにマントを近くにある椅子に投げ掛け、首元を緩めてマントを掛けたのとは別の長椅子にドカッと座った。
そんないつものカイルの姿に私は何だか笑いが込み上げながら椅子に掛かったマントを取りミランダに手渡したのだ。
「・・・何がそんなにおかしい?」
「ん?いや、いつものカイルだな~と思って」
「俺はいつだって俺だが?」
「まあそうなんだけど・・・ちょっと戴冠式のカイル・・・違って見えてたからさ」
私は戴冠式でのカイルの姿を思い出しまた顔が熱くなってきてしまった。
するとそんな私の手をカイルが掴みぐっと引き寄せてきたので、そのままの勢いでカイルの膝の上に座らされてしまったのだ。
「カ、カイル!?」
「俺がどういう風に見えたって?」
「え?あ~べ、別に何だって良いじゃん!」
「聞かせろよ。お前の嫉妬顔の時の気持ちも一緒にさ」
「っ!やっぱり見てたのね・・・」
「そりゃお前の一喜一憂を見逃すわけないだろう?」
「うう・・・」
「言えよサクラ。俺がどう見えたって?」
「うっ・・・・・格好、よかった・・・」
「ふっ、サクラも王妃としての立ち振舞いをしてる時、凄く綺麗だったぞ。ああ勿論今も綺麗だがな」
「っ!!」
微笑みを間近で見て囁かれた私は一気に顔を赤くし固まってしまったのである。
そんな私を見てカイルはふっと笑い軽く私の額にキスを落としてきた。
「俺の為に王妃教育頑張ってくれてありがとうな。完璧だったぞ」
「・・・ありがとう。カイルも戴冠式お疲れ様。そしておめでとう」
私はカイルに向かってお祝いの言葉を言い微笑んだのだ。すると今度は私の唇を塞いできたのである。それも深く。
「ちょ・・・待っ・・・・・ん!・・・ミランダが・・・まだいる・・・」
「・・・ミランダならとっくの昔に気を利かせて出ていったぞ」
「え?」
カイルの言葉に慌てて部屋の中を見回すと確かにそこにはミランダの姿はなく、私とカイルの二人っきりになっていたのだ。
するとカイルは私を横抱きに抱き抱え椅子から立ち上がるとそのままの足取りで寝室に向かったのである。
「カ、カイル!?」
「さて夜はまだまだこれからだ。覚悟しろよサクラ」
「ええ!?いや、カイルさっき疲れたって・・・」
「サクラに癒されるから大丈夫だ」
「いやいや、絶対さらに疲れるから!!」
「なら試してみよう」
そうニヤリとカイルは笑うと器用に寝室の扉を開け中に連れ込まれたのだった。
◆◆◆◆◆
翌日────。
カイルの隣でぐっすりと眠るサクラの頭をカイルが優しく撫でている。
その幸せそうなサクラの寝顔を見てカイルは微笑んでいたが、ふと真顔になりじっとサクラを見つめたのだ。
「・・・何も仕掛けてこなかったか」
カイルはそう呟き視線をカーテンの隙間から朝日が差し込んでくる窓に向けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます