王子襲来再び
結局朝方まで眠ることが出来なかったのだが、さすがに寝ないと仕事に支障が出ると思い少しだけどなんとか無理矢理眠ることが出来たのだ。
私は睡眠不足で少し頭がフラフラしたがなんとか気力を振り絞り、なるべく昨日の事は考えないようにして働く事にした。
「お待たせしました!ジャガイモとキノコの特製スープです!」
「おお!美味そう!サクラちゃんいつもありがとう!・・・あれ?今日は綺麗なペンダントしてるね?サクラちゃんに良く似合ってるよ!」
「・・・っ!」
私はカイルに買って貰ったペンダントを首にかけていたのだ。やっぱり凄く嬉しかったから。しかし、お客さんからカイルの去り際の言葉と同じ事を言われ、瞬間的にカイルとのキスを思い出し顔が真っ赤に染まった。
「サクラちゃん?」
「な、何でも無いです!どうぞごゆっくり召し上がってくださいね」
怪訝そうに見てきたお客さんに誤魔化すように無理矢理笑顔を作り、逃げるように足早にその場を離れる。
私は料理を受け取る為のカウンターの前で、胸に手を当てて動悸が治まるように何度も深呼吸をした。
奥から女将さんが心配そうに見ていたが、何となく察しているのか声を掛けないでいてくれている。
なんとか落ち着いてきたので、私は次の料理を運ぼうと手を伸ばしたその時───。
「サクラ来たぞ!」
「っ!!」
大きな音を立てて入口の扉が開きそこから上機嫌な顔のカイルが店の中に入ってきたのだ。
そんなカイルの顔を見て私は昨日のキスが頭に浮かび一気に顔が赤くなってしまった。
私はそんな顔をカイルに見られたくないと慌てて店の奥に行こうとしたのだが、一歩遅く私の腕が掴まれてしまったのだ。
「・・・何処に行く気だ?」
「い、いや~ちょっとお手洗いに・・・」
カイルに掴まれた部分がどんどん熱くなっているのを感じながらも、私はカイルの顔を見る事が出来ず顔を反らし続けていたのである。
するとカイルは掴んで無い方の手をするりと私の顔に回してきたのだ。
「一体いつまで俺の顔を見ないつもりだ?」
そう言ってカイルは呆れた声で私の顔を無理矢理ぐいっと振り向かせた。
しかし私の顔を見てカイルは目を瞠りそしてニヤリと口角を上げたのである。
「ふっ、サクラどうした?顔が赤いぞ?」
「あ、赤くなんて無い!!」
「そうか?だが・・・頬が熱くなっているぞ?」
「っ!!」
私の頬を確かめるように顔のラインに沿って撫でてきたカイルの行動に、私は息を詰まらせ固まってしまったのだ。
な、何で私こんなにカイルの事で動揺しちゃってるの!?そ、そりゃ人生初の告白とキスは受けたけど・・・相手はあのカイルだよ!?それに・・・・・元々私は作者であってこの世界の住人じゃ無いし・・・・・。
その事を思い出した時、何故か私の胸がズキンと痛んだのである。
しかし私は何故そんな痛みが走ったのか分からず不思議そうに自分の胸を押さえたのだった。
「サクラ?どうかしたのか?」
「え?ああううん、何でもないよ」
私の様子を訝しんだカイルに作り笑顔を向けて誤魔化したのだ。
「まあそれなら良いが。・・・それじゃあ行くか」
「へっ?何処に?」
「何処にって・・・一緒に街に出掛けるに決まっているだろう?」
「・・・はぁ!?今!?」
「当然だ!!」
「ちょっ、見て分からない?今忙しい時間なんだけど!!」
そう目くじらを立てながらカイルから腕を外し店の中を手で示した。
しかしその時、漸く店にいたお客さん全員が私達に注目している事に気が付いたのである。
そしてチラリと女将さんの方を見ると何故かニヤニヤした顔で厨房から覗き見ていたのだ。
私はその状態に再び顔を真っ赤にさせ俯くと、正直今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
「泣きたい・・・」
「何がそんなに悲しくなる事がある?」
「・・・カイルには私の気持ちは分からないよ」
「よく分からん。それよりもいい加減行くぞ」
「あ~!もうだから今は忙しいから行けないの!!いくら王子でも人に迷惑を掛けちゃ駄目な事ぐらい分かるよね!!」
「うっ」
「ちょっ、サクラちゃんべつにあたし一人でも・・・」
「いいえ女将さん!昨日の夜も手伝えなかったんだから今日はしっかりと手伝うよ!!」
そうキッパリと言い切ると置かれていた料理を持ってお客さんの所に運び出したのだ。
「あ、おいサクラ・・・」
私を呼び止めてくるカイルの声が聞こえたが私は敢えて無視する事に決めた。
「大変お待たせしてすみません。どうぞごゆっくり召し上がってくださいね!」
「あ、ありがとうサクラちゃん・・・」
そう言って料理をお客さんのテーブルまで運ぶと戸惑っているお客さんに営業スマイルを向けたのである。
するとその時、大きな音を立てて椅子に座る音が聞こえてきたのだ。
私はその音に怪訝な表情で振り返ると、そこにはカイルが不機嫌な表情でしっかりと椅子に座っていたのである。
「・・・何?カイル」
「俺もここで食事を取る」
「・・・・・え!?」
「・・・何故驚く?」
「だって・・・カイルは仮にも王子だよね?それが庶民の食堂でご飯を食べるなんて・・・」
「何処で食べようと俺の勝手だろう。それに・・・一度評判だと噂のこの店の食事を味わいたいと思っていたからな」
そう言ってカイルはニヤリと笑いさっそくテーブルに置かれたメニューを手に取って見始めたのだ。
私はそんなカイルの様子を戸惑いながら見つつその視線を厨房の女将さんの方に向けた。
すると女将さんは青い顔でお玉を持ち固まってしまっていたのである。
そんな女将さんを見て申し訳ない気持ちになりつつもう一度カイルの方に視線を戻したのである。
「カイルやっぱり・・・」
「よし!この一番人気だと書かれているベーコンときのこのクリームスープを頼む」
そう楽しそうな笑顔で注文してきたカイルを見て私はもう止める事が出来なかったのであった。
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