兄からの意外なお誘い
あっという間に十月が過ぎた月曜日。出勤すると、男性社員はネクタイをしていた。
六月の初めから先週の土曜日までクールビズ期間というかノーネクタイだったから、なんだか初出勤した時みたいで新鮮だ。
というか、ネクタイをしていると雰囲気が変わって皆さん二割増し格好よく見える……なんて、失礼なことを考えてたり。まあ、惚れた弱みで良裕さんが一番格好よく見えるんですけどね!
そして良裕さんの誕生日が十一月だから、プレゼントの候補のひとつとしてネクタイを頭にメモしておく。
いつものように朝の諸々もすみ、商品も集め終わった。新規で小規模のチェーン店の取引が各ルートで始まるとかで、いつも以上に商品の数が多い。
そして例によって例の如く、読めないお店だった。ちなみに、今日のフォローは良裕さんだ。
「師匠ー、新しい取引先の名前が読めません」
「ああ、それ。
「ポンド? 重さの? それともお金の?」
「さあ……。他にも藤井のルートで
「へえ……。いろいろあるんですね」
「ただなぁ……奥や橋本、一便のルートで、
「……」
おおぅ、お金なのか重さなのか、長さなのか距離なのか、なんの単位なのかさっぱりわからない。
そんな会話をしつつも商品を取引先ごとに分配し終え、良裕さんはサンプルを持って出かけて行った。午後も何事もなく……はないけど、一日を終えた。
単にダンボールで指を切っただけなんだよ。紙で切った時のようにヒリヒリした痛みだった。
そして帰ってから長兄に電話すると土曜日まで予定が入ってるというので、良裕さんと話し合ってまた連絡することを伝え、彼にメールをした。
【俺は土曜の夜でもいいぞ】
【じゃあ、そう言っておくね。時間はどうする?】
【だいたいいつも七時には終わってるから、七時半か八時でどうだ? ただ、時間が時間だから、日曜でも構わない】
【だよね。なら、その方向で聞いておくね】
そんなやり取りをしてから長兄に連絡すると、日曜も朝から予定が入っていて無理だという。結局兄から「夜の八時に来い」と時間を指定されたので、それを良裕さんにメールをした。
そして土曜日。
「お前ら、一軒家を買う気はないか?」
「「は?」」
挨拶もそこそこに晩御飯をすすめられ、ご飯を食べてなかったのでそれを食べていたら、そんなことを言われたのだ。
「一軒家って……兄さん、どこの? 会社から遠いなら無理だよ?」
「近いから大丈夫だ。公園のとこにある住宅街に隼人が住んでるだろ? そこ」
「え……なら、隼人兄さんはどこ住むの?」
隼人とは次兄の名前だ。そして目の前にいる長兄は
「都内に引っ越すそうだ」
「でも、なんで急にそんなことに……」
「転勤になるのかね。隼人に修行させるために、院長の知り合いの大きな病院に行くんだと。自宅からでもいいが、緊急の呼び出しがあった場合片道二時間かかるのは問題だろ? だから引っ越すんだとさ。ちなみに、嫁さんや子供たちもな」
「なるほど……」
次兄たちは既に引っ越し先が決まっていて、ぼちぼち荷物を運んでいるそうだ。なので、その場で次兄と連絡をとってやり取りをしたあと、家を見せてもらってから次兄を交えて話し合うことに決める。
そのあとは長兄夫婦や両親と雑談をしてから帰宅した。
翌日の日曜日に次兄と話し合って日にちと時間を決めようとしたけど、結局そのまま家に招待された。あちこちを見せてもらった結果、良裕さんは部屋数と間取り、駐車場や庭が敷地内にあったのが気に入ったようで、そこに住むことに。
一番気に入ったのはお風呂の広さみたいで、良裕さんちにあるのよりも一回り大きい。
まあ、次兄は良裕さんよりも身長が高いうえに体格もいいから、それに合わせたんだろうけど……何を考えてるんですか、良裕さん。顔がニヤけてますよ? そして私の身長が小さいのは、きっと兄二人に持っていかれたに違いない。ムキーッ!
そして引っ越しする時期など諸々のことを決め、引っ越しは次兄の引っ越しが終わる十一月になってからになった。
そして去年よりも寒かった十月も終わり、とうとう十一月になった。引っ越しも家の名義変更も次兄への支払いもつい先日終わった。
次兄への支払い金額は私と良裕さんの貯金を合わせても余裕で支払える額で、二人で話し合った結果折半になった。ただ、そのまま現金で支払うわけにはいかないので、次兄や良裕さんと一緒に銀行に行き、銀行員と話し合いをしながら次兄の口座に支払うこととなった。
おかげで私の貯金の大半が消えましたよ……トホホ。また貯めればいいだけだし、税金とかの問題はあるけどまだ先だし。その辺りは私たちの家になったわけだし、名義は良裕さんなわけだから、二人で話し合っていろいろ決めればいいだけと決めた。
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