婚約発表した 後編
月曜日の今日。
出勤したら堺さんと前回もいた女性、良裕さんと奥澤さんが談笑していた。堺さんたちはこっちを見てたせいか、すぐに私に気づいて声をかけてくれた。
「あ! 雀ちゃん発見! おはよっ!」
「ほんとだ~。おはよう」
「おはようございます。堺さん、と……」
「あ、ごめんね、澤井です」
「澤井さん、おはようございます。園部です」
「知ってる~。私も雀ちゃんて呼んでいいかな~?」
「どうぞ」
前回来た時に所長から名前を聞かされていたけど、直接話したことがなかったから、今さらながらお互いに自己紹介。
「雀、おはよう!」
「雀さん、おはよう」
「おはようございます」
良裕さんと奥澤さんとも挨拶を交わし、着替えて来ますと中へ入る。準備してタイムカードを打刻し、ホワイトボードで今日の担当を確認してからいつものように使えないダンボールを潰し始めると、あっという間に朝礼の時間だ。
そして所長からサンプルの話や視察に来た人の紹介をされたあとのこと。さあ仕事を始めようかというタイミングで、良裕さんが手を上げた。
話す内容を知ってはいても、やっぱりドキドキする。
「寺坂、どうした?」
「今日は全員揃っていますし、個人的な話をしたいんですが、構いませんか?」
「珍しいね。うん、構わないよ」
「ありがとうございます。雀、おいで」
「ぅ……はい」
今日のフォローは奥澤さんなので彼の傍にいたんだけど、所長の横にいた良裕さんに呼ばれて彼の隣に並ぶ。所長をはじめとした事情を知ってる面々は、良裕さんが私を呼んだだけで察したのか顔がニヤニヤしてるし、知らなかった面々も察しはじめたのか、徐々に顔がニヤニヤしはじめている。
「突然ではありますが、俺と雀は、先週火曜日に結婚しました」
「ちょっ、師匠、まだ結婚してません!」
「あ、間違った。火曜日に婚約しました。しまった……つい、今すぐにでも結婚したい願望が口から出ちゃったよ」
「『つい』で願望を漏らさないでくださいよ! しかもわざと間違えましたよね⁉」
大事な話をしているってわかってはいるんだけど、訂正するべく突っ込みを入れたら、皆さんどころか本社や支社の人にもクスクスと笑われてしまった。くそう、ふざける良裕さんが悪い。
「いつ結婚するか、式をどうするかはまだ決めていませんが、結婚式の際にはこの事業所の皆様や、お世話になった皆様に来ていただきたいと思っています。そして、妻はこの通り相変わらずの突っ込み体質ではありますが、今後とも俺たちを温かく見守っていただければと思いますので、よろしくお願いいたします」
「私の話はスルーですか、ドSが! それにまだ妻じゃないですし、然り気なく話の中に入れないでくださいよ! あ……えっと、こんな突っ込み体質な私ですが、師匠」
「雀、な・ま・え・!」
「職場なので、名前ではなくつい師匠呼びが……。あの、こんな私ですが、良裕さん同様、見守っていただければと思います。もちろん私の名前同様、今まで通り雀のようにチュンチュンと
「さっきの仕返しかよ! しかもネタを入れんな!」
プライベートならともかく、職場だとつい名前じゃなくて師匠って出てしまうのは仕方ないじゃない。それにいいじゃないか、たまにはネタを入れても。
全員に笑われながらも二人揃って「よろしくお願いいたします」と報告をしたら、お祭り騒ぎになっちゃいました……。
ちなみに、本社からは堺さんと澤井さんの他にお二人の上司が、神奈川支社からは支社長が直々に来てます。堺さんと澤井さんは前回同様販促で、上司と支社長は視察なんだそうだ。
「そろそろ仕事を始めよう。詳しい話は、今夜ここでやる宴会で、二人に聞くとしようじゃないか」
根掘り葉掘り聞きたそうな人たちや、今にも私の手を掴みそうだった平塚さんを牽制するかのようなタイミングで、手を叩いた所長の言葉に感謝しつつ、朝礼が終わった。
……え? 宴会? 聞いてないんですけど⁉
そして移動を始めて、いつものように外で奥澤さんを待っていると、平塚さんがにじりよって来た。その目と口がチェシャ猫のように三日月の形になってますよ⁉
「ニシシ……べっちちゃ~ん?」
「今は話しませんからね?」
「うっ! 先に言われた~! 宴会の時に聞くから~!」
「答えられることであれば。あと、宴会やるって聞いてないんですけど、いつ決まったんですか?」
台車にプラコンを乗せてふたつほど組み立てながら、平塚さんと話す。私だけが知らないなんてことがあるのかな、なんて思っていたら。
「さあ~? 私は知らなかったけど、森っちや山ちゃんは知ってた~?」
「聞いてないよー?」
「うん、聞いてない」
お姉様方も知らなかったらしい。
「あれかな~? 支社長が来てるからかな~?」
「そうかも」
「そんなことがあるんですか?」
「あるよ~。支社長や本社から偉い人が来ると、急に宴会を決めてすることがあるよ~」
「準備が大変だけどねー」
苦笑しながら話すお姉様方に、準備が大変なのかと内心溜息をつく。
「前回は時間がなかったけど、今回はバッチリ時間があるからねー」
「あとで所長に何を作るとか~、開始時間を聞いておく~?」
「そうだね。そうすれば、会社で手分けして作れるから楽だよね。四人いるし」
「なるほど」
そんな話をしているうちに二便持ちの四人がチェックリストを持って来たので、それぞれに分かれて仕事を始める。
前回同様に堺さんや澤井さんが奥澤さんにいろいろ聞きに来るから、二人が話している間やいない間に商品を抜いたり、届かない場所の商品名に丸をつけたり。その合間をぬって一緒になった平塚・藤井ペアにからかわれたり、話しかけて来た支社長や堺さんたちの上司と話したりしているうちに、午前中が終わった。
もちろん、出荷も終わって、皆さん出かけましたとも。
そして午後も何事もなく一日が終わり、宴会開始の時間を聞いてその準備を始めた。山田さんと森さんは野菜とお酒の買い出し、平塚さんは揚げ物や焼き物の準備、私はなぜかまたご飯の用意を言い渡されてお米を洗い終わったころ。
「雀さん、ちょっといいかな」
「あ、はい。平塚さん、所長が呼んでいるので、ちょっと行ってきます。お米はそのままにしておいてください」
「わかった~」
所長に呼ばれたので、平塚さんに伝えてから食堂を出る。所長のあとについていった先は先週所長と話をした場所で、そこには支社長と堺さんたちの上司がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます