爆弾を落とされた
抱かれた翌朝、目を覚ますと寺坂さんはまたもや私を上から見ていた。その目と笑顔が優しくて、やっぱりドキドキする。
「雀……おはよう」
「お、おはようございます、師匠」
「お前なあ……二人っきりの時は名前で呼べって言っただろうが。何度言えばわかるんだ?」
「あっ、ちょっ、ごめっ」
腰にあった手が肌を滑って胸に到達すると、胸に悪戯をしかける寺坂さん。
「朝から囀ずる雀も可愛いなぁ……」
クスクス笑いながらも手の動きが激しくなる。
「良裕さんっ!」
そう叫んだところで悪戯が終わるわけもなく……。結局、いつものように翻弄され、朝から疲れてしまった。
「この、鬼畜ドSなエロ親父がっ!」
「……ほう? そんな男をお望みか? だったら出かけないで、鬼畜ドSなエロ親父らしく、このままずーっと抱いて啼かせてやろうか?」
「すみませんごめんなさい勘弁してください夜ならいくら抱いてもいいから今は出かけたいです!」
「言ったな? 覚えとけよ?」
「……はっ! やっちまった!」
朝からそんな話をしつつ、着替えたいからと言えば解放してくれた。今は九時ちょっと前なので、十時に西棟のエントランスで待ち合わせることに。いつもは休みでも、もう少し早く起きるんだけど……どれだけ寝てたんだろうね、私……ははは。
……そもそも、寺坂さんのせいなんだけどね!
着替えてから昨日洗ったものを紙袋に入れたり風呂敷に包んだりすると、鞄を持って家に帰る。スマホの電池量を確かめて充電を始めると、洗濯するものと洗剤を洗濯機に放り込んで早洗いのスイッチを押した。
そのままお風呂に入ってシャワーの栓を捻り、目の前にあった鏡を見て固まる。
マンションの一室の広さの構造上お風呂場の広さや湯船の大きさは違うものの、寺坂さんが住んでいる部屋同様に私が住んでる部屋のバスルームにも鏡がある。その鏡に映っていた私の肌には、あちこちに赤い痕がついていたのだ。
「いつの間に……?」
肩と首、胸の谷間と乳房の上の部分をきつく吸われたのは覚えてる……太股を一度、きつく吸われたことも。
でも、腕の内側とかお腹は覚えていない。もしかしてと思い胸を持ち上げて鏡に映して見れば、その裏側にひとつずつ、胸に隠れる場所にひとつずつあった。
そして太股にも。
「寺坂さん……どうして……」
覚えていないのは、快楽に溺れていたからだっていうのはわかる。けど、なんでたくさんもの赤い痕――キスマークをつけたの?
「……おバカな私には、わかんないよ……」
そっとキスマークを撫でていたら、涙が溢れてくる。彼の家を出る時、「雀に話がある」って言われたからだ。
(夜に抱くって言ったけど、最後かもしれない……)
そんなことを考える自分が浅ましく思えて、酔って流された自分が情けなくて。奥さんがいる男を好きになり、避妊しないで抱かれることを心のどこかで喜び、それを指摘しない醜い女と自覚させられ……。
泣く資格なんかないのに、涙が止まらない。
悪いのは私だとわかってる。
それでも、好きなんだからしょうがないじゃない。
彼がどんな話をするのかわからないけど、最後なら最後でいいじゃない。どうせ玉砕することはわかってるんだから、その時にさっさと伝えて終わらせよう。
一緒に仕事するのはきっとつらいかもしれないけど……何とか忘れる努力をしよう。
今は出かける支度をしなきゃとシャワーを浴びる。着替えたら髪を乾かしながら肌のお手入れをして、洗濯物を干し、紙袋に入れていた食器を片付けた。
髪はシュシュでひとつに纏め、七分袖のチュニックと膝下の長さのキュロットを履き、どうしても見えてしまう場所にあるキスマークは薄いストールで隠すことに。
時間がくるまで財布の中にある金額を確め、充電しながらスマホを弄る。下着を買うつもりだったから財布にはそれなりの金額が入っているし、足りなくなりそうならおろせばいいかと思い、鞄にしまった。
そろそろ時間だとスマホや充電器、ハンカチやらなにやら出かけるのに必要な物を鞄に詰めて持つ。
窓の施錠やお風呂のスイッチなど、諸々の確認をすると家を出て、鍵を閉めて振り向いたら寺坂さんが西棟から歩いてくるのが見えた。彼はチノパンとポロシャツを着ている。
「あれ? 待ち合わせは下でしたよね?」
「そうなんだけど、雀を迎えに来たかったんだよ」
「なるほど……じゃなくて。すれ違ったらどうするつもりだったんですか」
「そこはほら、スマホという文明の利器があるから問題はないな」
スマホを手に持っていたらしい寺坂さんはそれを振る。
「もう……。まあ、いいですけど。そういえば、どこに行くんですか?」
「んー……昨日のことがあるから、食器や鍋、食材なんかを買いたいんだよな。だから大型のスーパーかショッピングモールに行こうと思ってた。雀は何を買うつもりだったんだ?」
「へっ⁉ うー……その……し、下着、です。よく買うメーカーのお店自体は大型のスーパーにもあるはずなので、そこでいいですよ。あと、食器は割っちゃうことを考えると100均で充分なので、隣の市にある大型スーパーに行きませんか? あそこならたいていのものが揃うし、100均も入ってますから」
「ああ、なるほど。だな、あそこなら同じフロアの別の売場に鍋とかもあったな……なら、そこに行くか」
そんな話をしながら二人で下へ行き、駐車場まで歩いて行く。車は黒い四駆だった。
「大きな車ですね」
「友人や会社の連中と、バーベキューやらキャンプやら行くからな。うしろには常時バーベキューセットが積んである」
「へえ……」
「多分だけど、来月の連休あたりに、会社でバーベキューやるんじゃないかな?」
「おー! それは楽しみです!」
鍵を開けた寺坂さんに促され、車に乗り込んでシートベルトをしようとしていたら「……なあ、雀」と話しかけられた。
「なんですか?」
「さっき言ってた話があるってやつなんだけどさ……」
そう言われて鼓動が跳ねる。何を言われるかわからなくて、掌や背中に冷や汗が流れる。
「……はい」
「……指輪の外し方を知らないか?」
そう聞かれて固まった。
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