可愛い雀★
ふと雀を見れば、気持ちよすぎて気絶したのか、目尻に涙を溜めながらピクリとも動かない。俺と彼女の身体の相性は相当いいのかもしれない。
それに、こんなにセックスの相性がよく、ずっと愛し合っていたいと思った女は初めてだった。
今までセックスに対し、淡白だと思っていた俺がそんなことを思うんだから驚きだ。
雀に軽くキスをすると彼女が目を覚ましたのか、腕を掴まれて話しかけられた。
「あ……、良裕さん……? 私……」
「起きたか。俺との身体の相性がよすぎたのか、雀は気持ちよすぎて気絶したんだが……覚えてるか?」
「なんとなく……。というか、良裕さん、何をして……」
「ん? まだまだ雀を抱き足りないから、まあ、アレなことをしてる」
「えっ、ちょっ、もう、無理……っ!」
もう一度抱き、名残惜しかったが行為をやめて彼女を抱き締めると、疲れたのかまた目を瞑って瞬く間に寝息をたて始めた。
その安心したような顔を見て無防備だと苦笑しつつも、そんな雀が愛おしくて、頭を撫でながらこれまでのことを思い出す。
雀が入社してくる前から、彼女の存在を知っていた。初めて見たのは、一年半くらい前だっただろうか……彼女が会社の前の道路を歩いていたのだ。
当時の雀は今以上に太っていて暗い顔で俯き、スーパーの袋を持って背中を丸めながらとぼとぼと歩いていた。その時は別段何も思わず、仕事をしていた。
次に見たのは一ヶ月後くらいだった。相変わらず太ってはいたし俯き加減ではあったが、背中を丸めることはなく、暗い顔もしていなかった。
その次に見たのはやはり一ヶ月後くらいで、相変わらず俯き加減ではあったが、少しだけ痩せたように見えた。
そしてさらに一ヶ月後くらいの四回目に雀を見た時はもう俯いてはおらず、また痩せていた。なんだか観察日記みたいだな、なんて思ったのがきっかけなんだと思う。
息抜きの合間のとある時間に道路を見ると、必ず彼女が歩いていた。だいたい週に一回のペースだ。
何も持っていない時もあれば、買い物をしてきたのかスーパーの袋やエコバッグを持っていることもあったし、雀よりも年上らしき女性と一緒に歩いている時もあった。
見るたびに少しずつ痩せて綺麗になっていく雀に、笑顔を浮かべるようになった彼女に、うちの問題児やどこぞのムカつく女と違って頑張る女もいるんだなと、努力する姿に珍しく好感を持った。入社する三ヶ月前から彼女を見なくなったから、それ以降はすっかり忘れてしまった。
それから入社してくる二週間前、彼女が面接に来て思い出した。最後に見た時よりも痩せていて、その時はさらに頑張って努力したんだな、としか思わなかった。
面接した所長も人事の課長もかなりいい印象を持ったのか、彼女が帰ったあと褒めていたが、他にも面接者がいたしその人たちも褒めていたから、その時は誰が来るかなんてわからなかった。
そして入社してくる前日の朝礼で、『明日から女性のバイトがくる』と所長から発表があった。社員やバイトに限らず、新人教育は主任以上が教えることになっていたが、この倉庫で役職についているのは俺と同期の奥澤、所長くらいだ。
少し前まではもう一人いたのだが、そいつは新しく建てた別の事業所に移動したばかりでいなかった。
だから俺も奥澤も所長が教えると思っていたんだが、まさか初日から俺が教えることになるとは思ってもみなかったし、合格したのが雀だとは思いもしなかった。
正直、女に仕事を教えるのは嫌だし話すのも嫌だった。だが、雀は俺に媚びるどころか一歩も二歩も引き、男に対して壁があるように見えた。
だから雀に対して嫌悪感を抱くことがなく、それに対して内心首を傾げつつも一緒に仕事して話せば、雀は突っ込み体質なのか、よく突っ込みを入れて来た。その突っ込みの内容が予想外で、それが面白くてつい弄ってしまった。
くるくると表情を変えて突っ込みを入れては笑う雀にいつしか惹かれ、車で一緒に来た男に嫉妬したことで自分の気持ちを自覚した。いつの間にか彼女と仲良くなっていた堺が撮った、彼女が頬を染めてはにかんだ笑顔の写真に見惚れ、それを欲した。
そして半ば本気で上半身裸で迫り、胸を揉みたいと言い、俺の胸で泣けと告げ、今日の土鍋で炊いた炊き込みご飯の旨さに完全に陥落した。
確かに俺は酔っていた。雀を抱きたい、啼かせたいと思った気持ちが膨れ上がった。俺を好きになってくれと願い、雀を抱いた。
周囲に男色じゃないかと噂が立つほど、あることがきっかけで女嫌いになった俺が、雀だけが嫌悪感をずっと感じさせなかったのだ。
「雀……好きだよ。だから、俺に堕ちて来い。堕ちてくるまで、何度でも抱くぞ……?」
「ん……よし、ひろ、さん……?」
「俺を……好きになってくれ、雀……」
久しぶりの感覚に愛しさと切なさが混じり、思わず俺の本音が零れ落ちる。それが聞こえたのか、寝惚けている雀が俺を見る。そのあどけない顔が可愛くて仕方がない。
その顔を見ながら彼女の胸に悪戯をすれば、可愛く囀ずる。
「ん……、私は、よしひろさんが……好きですよ……好き……」
そう呟いてまた寝息をたて始め、擦り寄ってくる。その言葉と行動に鼓動が跳ね、じわじわと嬉しさが広がっていく……雀が愛しくてたまらなくなる。
「そうか……もう堕ちてたのか。だが、もっと深く、俺に堕ちて来い……雀」
いくらでも抱いて可愛がってやるよと小さく呟き、雀にキスをして目を瞑る。
確かに俺自身、解決しなきゃならない問題がある。
(雀は問題を解く鍵を知っているかねえ……?)
雀ならなんとかしてくれるんじゃないか、今度聞いてみようか……そう考えながらも、明日も雀を抱きたいと思っているうちに、いつの間にか眠っていた。
翌朝。起きた雀に眠る前に言ったことを然り気なく聞いてみれば、彼女は覚えていなかった。そのことにがっかりするものの口説いてまた言わせればいいかと思い直し、覚えていないことをお仕置きと称して、朝から雀を気絶させるほどたっぷりと堪能したのは言うまでもない。
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