再びからかわれた

「ふふっ」


 おはようございます。思わず思い出し笑いをしてしまった雀です。

 朝から気持ち悪い? それはすみません。幸せなんだから、許してくれたまえ。


「ご機嫌だね、雀さん。何かいいことでもあった?」

「あっ、仕事中にすみません……。いいことありました! でも、理由は秘密です!」


 今日は奥澤さんのフォローで、今のところ周囲には誰もいない。


 連休最終日の昨日は朝から一回抱かれ、お昼までCSの映画を観たりして一緒に過ごした。朝からはやめてと言ったんだけど、「鬼畜ドSなエロ親父を所望したのは雀だろ?」と言われて抱かれてしまった。

 ……ええ、口は災いの元だと痛感しましたとも。しかも、「また今度朝からやろうな」なんて嬉々として言われてしまった。くそう、エロ親父めっ!

 一緒に過ごしたのがお昼までだったのは、お互いにやることがあったからだ。掃除とか、洗濯とか。

 なので、お昼ご飯を一緒に食べたあとついでに夕飯の支度をして、寺坂さんちを出た。「雀を丸洗いしたい」とか言いやがりましたが、却下して帰って来ましたとも。


 で、日付が変わった月曜日。出勤したわけですが……。


「寺に告白して、あるいは告白されて両想いになったからとか、指輪をしてた理由を聞いて外してあげたから、とかかな?」


 奥澤さんから、内緒話をするようなすっごく小さな声でそう言われて、危うく叫びそうになる。


「な、なんで……!」

「雀さんを見てて寺が好きなのはわかってたし、寺も雀さんが好きなのは知ってたからね。それに、指輪の件は昨日の夜、アイツから聞いたから。オレたちは同期だし、親友でもあるしね」

「うう……私のおバカ。そして師匠のお喋りめ」


 まさか、奥澤さんにまで私の気持ちがバレてるとは思わなかったよ……トホホ。


「指輪の件はオレたちも当事者だから知ってるし、半分はオレたちの責任でもある。だから指輪が外れてホッとしてるけど、まさかあれだけ女性を毛嫌いしてた寺に好きな奴ができるとはオレも予想外だよ。何にせよ、寺を幸せにしてあげて。もちろん雀さんも幸せになってね」

「……はい」


 そんな会話をして奥澤さんにからかわれつつ、商品を抜いていった。一便の出荷も終わり、お昼が一緒になった平塚さんにもからかわれた。

 以前言いかけた話は指輪のことかと聞けば、あっさり「聞いたんだ~? そうだよ~」と頷いた。


「師匠がべっちちゃんに話したってことは、本当に信頼されてるってことだよ~? あの当時、六月に来た二人以外は、本社や支社から視察に来た独身女性はもちろんのこと、結婚している女性すらも毛嫌いしてたから~、ちょっと心配だったんだ~。でも、べっちちゃんに会ってから師匠は変わったよ~。べっちちゃんだけが特別っていうか~」

「そう、なんですかね?」

「うん、そうだよ~。それに、今日の師匠はなんだかご機嫌だったよ~?」


 何かあったの~? って聞かれたけど、「指輪が外せたからじゃないですか?」って誤魔化した。でも平塚さんはチェシャ猫みたいにニンマリ笑い「そのうち聞かせてね~♪」と、私の背中を叩いた。

 ……平塚さん、何気に痛いです。何があったのか話せる覚悟ができてないので、もうちょい待ってください。

 二便の商品抜きも終わり、自宅に帰る。時々寺坂さんから来るメールに返信しつつ洗濯と掃除にご飯を食べ、下着メーカーのショップサイトを見たりオンノベを読んだりしてまったりした。

 ショップサイトには可愛いデザインや色のセットがあったので、それを二組と色を合わせた上下を二組購入。

 そして夜、堺さんにもメールをしたら【旦那と寺坂から聞いたわよ。よかったわね】ってメールが返ってきてガックリした。どこまで話してるんだ、寺坂さんは。

 そしてあの時話せないと言った話は指輪やそれに纏わる話かと聞けば、そうだという返事が来た。


【まさか雀ちゃんが指輪を外してあげるなんて思っていなかったけどね。でも、応援に行った初日に寺坂自ら声をかけていたし、仕事中の様子から絶対二人はくっつくよね、って理恵と話してたの。だから嬉しいわ】


 今度行ったら詳しく教えなさい! とメールが締め括られていた。……嬉しいような、恐ろしいような……。


 翌日は橋本さんのフォローで、彼にも「よかったねー」なんてからかわれた。一体どれだけの人間が知ってるのかと恐る恐る聞けば、「古参の社員は全員知ってるよ?」と言われてしまった。


「は? 全員!?」

「うん。といっても、僕と平賀と所長、奥澤主任と藤井さん、他の事業所に行った堺主任を入れた六人と、寺坂主任の同期だけだって聞いてるよ。今名前があがった人たちは寺坂主任が女を毛嫌いする理由を知っててさ……。昨日メールが来て、指輪が外れたことと、雀ちゃんのことも教えてくれたんだ」

「……ほんっとに、師匠のお喋りめっ!」

「あはは、そんなこと言わないであげてよ。寺坂主任は僕らが心配してたのを知ってるから教えてくれただけだし、僕らも寺坂主任が自分から周りに言うまで、誰にも喋るつもりはないよ?」


 確かに、昨日の奥澤さんといい今の橋本さんといい、周囲に誰もいない状況で、尚且つ小声で話している。心配してた人に伝えるのはわかる。けど、納得いかない部分もあるわけで。


「それに、僕はなんとなくそうなるんじゃないかなー、って予感はあったよ?」

「そう……なんですか?」

「うん。雀ちゃんが来るまでは新入社員の女性やパートさん、視察や応援に来た女性に対して、一歩も二歩も引いた感じのぶっきらぼうな態度をとったり、言葉がどこか冷たい感じだったんだ。結婚してる森さんや山田さんにすら、最初からそんな態度だったんだよ? なのに、あれだけ女性を毛嫌いしていた寺坂主任が、独身女性の雀ちゃんには最初からそんな態度をとることもなく、僕らに教えてくれたみたいに丁寧に教えてた。同期の人以外では、初めて倉庫中に聞こえるくらいの本気の笑い声をあげてたしさ。あれには驚いたなー」


 苦笑しながらそんなことを教えてくれた橋本さん。確かに、そこら中に聞こえるような大きな声で笑ってたね、寺坂さん。


「それにさ。雀ちゃん、入社した時より綺麗になったよね」

「……そう、ですか?」

「うん、綺麗になったよ。それに、痩せたよね。笑うと可愛いし」


 そんな努力をしたのは誰のためかなあ? と橋本さんに小声でからかわれて、照れて顔が熱くなる。真っ赤になってるんだろうなあ、なんて思っていたらメモ用紙を持った寺坂さんがいきなり現れ、「雀、顔が真っ赤だぞ」と言われてドキドキしてしまう。


「だからって、橋本にはやらんぞ」


 どうやら話が聞こえたみたいで、そんなことを言いながら橋本さんの頭をヘッドロックする。


「いたた、寺坂主任、痛いですって。僕には愛する妻と生まれたばかりの息子がいるので、浮気なんかしませんよ。それに、雀ちゃんが綺麗になったのも痩せたのも事実だけど、笑うと可愛いのは寺坂主任の話をした時とか傍にいる時だけですよ?」

「まあ、確かに雀は綺麗になったし、いると可愛く笑うよな」

「うわ、そこを強調します!? てか、惚気!? それとも自慢ですか⁉」

「いや、えと、その……」


「痩せたのは自分のためです」とか、「普通に笑ってるだけです」と言えず曖昧に笑ったら、二人に「照れちゃって、可愛い!」と言われてしまった。いや、寺坂さんが近くにいるから嬉しいけど、照れてません。

 しかも、全部小声で話す二人に脱帽だよ。

 しばらく雑談したあと、寺坂さんに頭を撫でられながら「頑張れよ」と優しい目と声で言われて返事をすると「うわっ……あの寺坂主任がデレた! 僕はお邪魔虫!?」と笑いながら橋本さんに突っ込みを入れられ、からかわれながら仕事を再開した。

 その日の夜、寺坂さんから電話が来た。翌日は祝日でお休みだからと、串揚げ屋さんで食事デートをすることに。その前に話題の映画を観よう、迎えにくるからと言われて頷いた。


 翌日、迎えに来た寺坂さんと一緒にバスで駅まで行って話題の映画を観て、串揚げ屋さんで映画の感想やいろんな話をしながら串揚げを食べる。駅ビルで手を繋ぎながらお店をひやかし、「夜は家でご飯を食いたい」と言われたので戻った。

 冷蔵庫にある食材を物色してご飯を作り、しばらく話してから帰る。ご飯を食べている時に誕生日を聞いたら教えてくれたので、その時は何を作ろう、プレゼントはどうしようなんて、ソファーの上で考えまくったとも。

 そして今日も抱かれるんじゃないかとドキドキしてたんだけど、キスされただけだった。

 ……ざ、残念に思ってなんかいないんだからね!


 なんだかんだと休み明けには藤井さんや平賀さん、挙げ句の果てには所長にまでからかわれたり、出発前の寺坂さんにこっそりキスされたりしながら忙しい週末をすごし、週末は実家に帰る約束をしていたから彼とのデートや食事もなく過ごしたのだった。


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