買い物デート
今すぐ行こう、さっさと外そう、と謂わんばかりの寺坂さんを一旦落ち着かせる。
「ちゃんとやりますから、慌てないでくださいよ。指輪を外す道具は百均で買えますから。それに、食器やお鍋、食料品を買うんですよね?」
「……忘れてた」
「メインの買い物を忘れてどうするんですか、もう。それに外すにしても、こんなところで落ち着いて外すことなんてできないですよ?」
「それもそうか。なら、ここは上の駐車場だから、下から上がってくるか?」
「ですね。そのほうがいいかも」
そうするか、なんて話しながら歩き始めたら寺坂さんの手が伸びて来て、指を絡めながら私の手を握って来た。それに驚いて彼の顔を見上げたら、寝起きに見た優しい笑顔で「雀の顔真っ赤」と笑いやがりました。
すみませんねぇ、
恋人繋ぎも初めてだと伝えれば「またひとつ、雀の初体験をゲットした」と嬉しそうに言うと、エレベーター内に誰もいないのをいいことに、唇を霞めるだけのキスをされた。
一階に下りてまずは食料品。カゴがふたつ載る大きなカートを押しながら、寺坂さんに何が食べたいか聞いて食材をカゴに入れていく。あ、カートを押しているのは彼です。
「肉じゃがと山菜おこわが食いたい。あと、ほうれん草のごま和えがまた食いたい」
「了解です」
「あとは、ワカメと玉ねぎの味噌汁と、アサリの酒蒸しかアサリバターな」
「じゃあ酒蒸しにしますね」
「OK。デザートはす……」
「私はデザートじゃないんで、却下です。市販の出来合いの素材を使わないで作れるのは、プリンかゼリーか寒天か水羊羮ですね。焼菓子もできますけど、時間がかかるんでそのうちってことで」
なんで昨日のメールと同じことを言おうとするかな、寺坂さんは。当然却下ですよ、却下。
「……ちっ。なら水羊羮で」
「手作りですか? 市販のですか?」
「うーん……今回は市販のでいいよ。今度作って。あと、プリンも食いたいから、それも今度作って」
結局作るんかいっ! と突っ込みつつも、材料は作る時に買えばいいかとそれらの材料はカゴには入れなかった。
「了解です。あ、今言ってた料理って、お昼ご飯ですか? 夕ご飯ですか?」
「昼にしてくれ。夜はす……」
「デザート同様に私はご飯じゃないんで、昼も夜も却下です。それで、ど っ ち で す か ?」
またネタを挟んで来たのでそれも却下し、わざと一言一言区切って聞けば、不機嫌そうな顔をして「……夜で。昼はうどん、ネギとワカメ、海老と茄子の天ぷら付きの釜玉で」と言ったので、それに返事をしつつも先に材料を入れて行く。
それに合わせて調味料類を買おうとしたら、調味料類は会社で買ったほうが安上がりだというので、間に合わせに一番小さいのをカゴに入れる。
「会社の商品を買えるなんて、知りませんでした」
「あれ? 言わなかったっけ?」
「聞いてませーん。知ってたら、食材はともかく調味料関連は買ってますよ」
「それは悪かった」
そんな話をしながら歩き回り、他にもお肉や魚、野菜や飲み物やお米ともち米を買い、カートに載せたまま二階に上がった。お金さえ払い、袋詰めされしてしまえば、カートごと移動できるのは楽だ。
というか、お肉は冷凍すればいいけど魚は誰が捌いて料理するんですか? 私ですか、そうですか……食べたい時に買えばすむ話じゃないか……ちくせう。
二階には服や下着類などの衣類や装飾品が売ってるお店と有名家電メーカーが入っている。私は下着、寺坂さんは家電が見たいと言うので一旦分かれようとしたら、一緒に家電が見たいと言い出した。
食材は彼が見てるというのでお願いし、ベンチに座って待っててもらうことになった。
ついて行くって言われなくてよかったと思いつつも下着売り場へ行き、ブラとショーツがセットになっているものを三セットほど購入。
お店の人にネットストアがあるか聞くと「ございますよ。こちらをお持ちください」と、URLが書かれているチラシをくれたのでお礼を言い、商品が入っている袋の中に入れてお店を出た。
お店には可愛いデザインや色がなかったので、一人の時にじっくりと探してみたいと思います。
「お待たせしました」
「じゃあ行くか」
カートを押す寺坂さんの横を歩きながら、何を買うのか聞いてみた。
「とりあえず、炊飯器といろいろ作れるホットプレート、卓上で天ぷらができるやつかな」
「炊飯器やホットプレートはわかりますけど、卓上のフライヤーなんか何に使うんですか?」
「ん? 目の前で串揚げをしてほしくてな」
「……誰がやるんですか、そんなもの。良裕さんですか?」
嫌な予感がして聞いてみれば、案の定私だと答えが帰って来た。
「串に刺したりとか面倒だしすごく時間がかかるから、やりませんよ。お店に行って食べればいいじゃないですか。食材の値段を考えたら、そのほうが安上がりです」
「店だって、自分で揚げたり目の前でやってくれるとこは、この辺じゃあんまりないだろ?」
「ありますよ? 駅をちょっと離れたビルの中に入っているお店なんですけど、知りませんか? そこは時間制限はありますけど食べ放題・飲み放題付の定額制、たくさんある串の中から自分の食べたいものを持ってくるバイキング方式で、持って来たものを卓上に設置されてるフライヤーを使って自分で揚げるんです。自分で焼くお好み焼き屋の串揚げバージョンって言えばわかりやすいですかね?」
そんな説明をしてからお店の名前や制限時間と値段を告げると、ちょっと考えながら知らないと言い「今度一緒に行くか?」と聞いてくれたので頷いた。
結局、炊飯器とホットプレートを買って三階へと上がる。
三階は百均とお鍋や食器がある売り場、文房具屋さんと手芸屋さんとフードコートがある。フードコートには用事がないし、仕事で使う指サックがないことを思い出したので、先に文房具屋さんに寄ってもらった。
百均に先に行くと鍋の存在を忘れそうだというので、先に大きさの違う鍋をいくつかと、三人前の土鍋に大小ふたつのフライパン、包丁やまな板を購入してから100均へと向かう。蒸し器や蒸籠、パスタ用の鍋もと言ったけど、大きな鍋さえあればやり方次第でどうにでもできるからと却下した。
百均ではご飯茶碗にお椀と箸置きと箸、様々な大きさのお皿や小鉢に麺用の食器、ガラスのコップやマグカップといった食器は色違いで合計ふたつずつ。そして、菜箸やお玉、ザルやボウルなどの調理道具と、デンタルフロスを購入。
忘れものがないかレシートを見ながら確認し、足りないものは自宅近くのスーパーに行けばいいかという話になったので、カートを押したまま駐車場に戻り、車に荷物を積んだ。
寺坂さんの車が大きくてよかったよ……部屋まで持って行くのが大変そうだ。近所のスーパーでもよかった気もするけど、寺坂さんが買ったサイズの鍋のは置いてないし、あそこに入ってる百均も規模が小さいから、ここよりも種類が少ないのが難点なのだ。
「そう言えば、どうして食器類をふたつずつにしたんですか? 色違いとか、柄違いのものとか。気分に合わせて使うんですか?」
「雀……本気で言ってるのか?」
「もちろん。何かありましたっけ?」
帰りの車の中で話をしながら、食器なんかは気分によって使い分けるのかな、なんて思っていたら。
「雀が俺んちで作ってくれた時、お前と一緒に食いたいからに決まってんだろうが。昨日みたいに、俺一人で食えってか?」
「あ……。全然、考えてませんでした」
「はあ……だと思った。お前、時々変なとこが抜けるよな。天然というか」
「……どうせ、おバカでマヌケで天然で小さい雀ですよーだ」
「そこまで言ってねーし、拗ねんなよ。つか、その突っ込みは可愛いな」
「あら。今度、会社でも拗ねバージョンの突っ込みをします?」
「たまにならいいが、できれば二人っきりの時にしてくれ」
なんて、普段と変わらない話をしているうちに、マンションについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます