第3話 知らない星空
「シアちゃん、大丈夫!?」
砕けた天蓋とその向こうに出現した夜空に驚愕するのもわずか、アニラは振り返って親友の安否を確認する。
「だいじょうぶ……」
という声が、デスクに寄りかかるシアから返ってくる。
それに頷くと、アニラは探求室内に転がっている掃除用の念動箒を手に取る。
「まずければ助けを呼んで、私は外を見てくる!」
それにまたがると、アニラは箒に刻まれた魔導式を起動させる。
念動魔導式が刻印された箒はひとりでに持ち上がり、乗ったアニラごと浮遊する。
そのまま前進し、アニラは窓から外に飛び出す。
夜風、というにはまだぬるい風を浴びながら空を裂き、上空へと飛翔する。
地上十階程度の高度から首都ルーノンをアニラは見下ろす。
「みんな混乱してる」
都立魔導院、それから眼下の街中から人々の混乱と動揺が見受けられる。
道行く者も屋内にいた者も外に出て、唐突に現れた謎の夜空を眺めている。
「さっきまで昼だったのに……それになんだかこの星空……」
なにかおかしい。
空を仰ぐアニラの視界には、息をのむような満天の星空が広がっていた。
だがどうしてもこの星空に対する違和感が拭えない。
(この星々を、私は知らない……? まさか、そんな)
脳をよぎるある仮説。
けれど、アニラはまだ断定するのは早いと判断し、思考をとどめておく。
「それに、気になることは他にもある」
北の方角をアニラは睨む。
その視線の先には、彼方に輝く謎の光源があった。
海を挟んだ先の大地、その上空に燦然と輝く『星』を発見したのだ。
「まるで小さな太陽みたい。でも星にしては高度が低すぎるし、あんなもの前はなかった」
たしかに、ヴィストニアの北方には別の国家が支配する大陸が存在した。
しかし、そこにアニラが見た『星』はなかった。
「これはもしかすると……お?」
アニラはポーチから魔導式の反応を感知する。
ポーチを開けると数冊ある双子の書のうち、黒い表紙の一冊が燐光を帯びていた。
「師匠だ」
アニラは本を開き、メッセージを確認する。
〈アニラ、無事か?〉
アニラはペンを取り出し、返信を綴る。
〈私は平気です、今上空から観察してます〉
〈それはなによりだ。ならばこれから私の執務室にきてくれ〉
「んー?」
一瞬迷ってから、アニラは返事を書く。
〈私、できればこの異変を調査したいんですけど……〉
そう、今アニラの心の大半を占めるものは知的探求心だ。
この異常事態のただなかにあって、彼女は不安や恐れではなく、好奇心から胸を昂らせていた。
〈おまえさんの気持ちはわしにも分かる。ならばなおのことくるべきじゃ〉
〈どういうことですか?〉
〈わしはこれより緊急対策会議を開くつもりじゃ。そのために今他の三つ星や議員たちにコンタクトをとっている〉
「うぇー、めんどくさー」
アニラは会議などの堅苦しい行事は苦手だった。
オーゲルのメッセージはまだ続く。
〈そこで新事実も明らかになるじゃろう、だから今度は遅刻せんようにな〉
新事実。
この未知の異変にあって、情報は一つでも多くほしい。
その言葉につられて、アニラは渋々承諾の返信をする。
双子の書をポーチにしまい、アニラは謎多き空を眺める。
「私はこれから、なにと出会うんだろう?」
満天の星空の下、少女の鼓動は心地よく弾んでいた。
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