魔導少女の果てなき旅~異世界外交、はじまります!~(旧題:異世界外交、はじめました。)
東条計
第一章 はじめまして、異世界
プロローグ 異世界×異世界
少女の初恋は、物語の中にあった。
彼女が魔導士になる前、ただのアニラ・フルルータだったころ。
就寝前に母親が読み聞かせてくれたおとぎ話に、アニラは恋をした。
地下に広がる、モグラの国のお話。
空に浮かぶ島と、渡り鳥のお話。
そして、宇宙の星々のお話。
そういった空想上の遠い世界を彼女は愛した。
やがて少女が十五歳となり。
一つ星の称号を得てアニラ・リア・フルルータに名を改めてなお、物語への憧憬は灯り続ける。
――いつか、こんな世界に行きたいな。
他愛のない少女の仄かな願い。
それが今ここに、叶おうとしていた。
「ほぁー」
飛行船から降り立った赤髪の少女、アニラの口からのんきな声がこぼれる。
少女の視界に映るのは、文明開化を極めた英知の都市。
空飛ぶ飛行船。
道走る鉄の車。
そして街を埋め尽くす高層建築物。
異なる世界で異なる歴史を歩んだ、未知の文明。
神秘なき世界にて覇権を握った錬金国家――
建築様式から市民の装いまで目新しい異国風景、それを目の当たりにしたアニラは強く実感する。
「私、今異世界にいるんだ……」
アニラが暮らす国、魔導連合ヴィストニアはある日、未曽有の異変に見舞われた。
『大転移』と呼ばれるその異変によって、ヴィストニアは国ごと異世界へ転移。
未知であふれた新世界へと放り出されてしまったのだ。
海から星空まで、外界にあるものすべてが別物になってしまったあの日から、三日目。
アニラたちヴィストニアの特使団は、異世界の文明ファルデンと国交会談を開くべくその首都を訪ねていた。
「あの……ほんとに魔導技術に頼らず、これだけの文明を築き上げたのですか……?」
金髪色白の少女、シアが緊張した様子でファルデン外交官に尋ねる。
スーツに身を包んだ外交官はアニラに視線を向けながら、彼女にこう問う。
「今、彼女はなんと?」
魔導国ヴィストニアと、黎明国ファルデン。
両国は『大転移』が起きるまで別々の世界に存在した。
当然言語も異なるため、シアの言葉はファルデン人には通じない。
しかし翻訳魔導式を操るアニラの通訳が、両者の対話を成立させる。
アニラは通訳士としてシアの言葉を代弁する。
「魔導技術もなしに、これだけの文明を構築したのですか?」
外交官は鷹揚にうなずきつつ、シアに返答する。
「ええ、我々がいた世界では魔法は空想上のものでしたから。ファルデンの発展はひとえに、人間の英明によるものです」
アニラが通訳してシアに伝えると、彼女は「空想小説みたい……」と呟く。
「錬金工学、といったか……」
アニラの師であるオーゲルが、たくわえた髭をしごきつつうめく。
「マナに依存しない、未知の技術体系……興味深いな」
「錬金工学について関心があるんですが、学ぶ機会はあります?」
アニラはオーゲルの通訳というよりも、個人的な興味から質問する。
「もちろん、錬金研究所の見学もスケジュールに含まれております。ご安心ください」
「やった! みんな、見学の時間あるって!」
アニラの言葉に、ヴィストニアの面々は「おお」と期待を露わにする。
「ではヴィストニアのみなさま、大統領がお待ちです。こちらへついてきてください」
外交官先導のもと、アニラたちはファルデンへ踏み出す。
鉄と歯車、蒸気と錬金術の世界へと。
(違う世界、知らない文明、見たことない街並み……!)
アニラは胸に心地よい高鳴りを覚える。
かつて夢見た空想の物語の中に、自分は立っている。
その興奮が、彼女の青みがかった紫色の虹彩を輝かせる。
「これがファルデン――異世界の文明!」
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