第10話 勇者が死ぬまで

 勇者ピピンに魔法使いドレス、戦士ザンザ。三人は装備を整え仲間を募り、魔王討伐の旅を順調に進めていた。

 半年が経過した。旅の仲間は全部で六人、賑やかなものとなった。勇者ピピンは強くなったし、ドレスも魔法に更なる磨きを掛けた。魔王を倒せるのだ、そんな確信があった。根拠のない確信だった。

 勇者一行はしばらくして、ある魔物と出会う。その魔物は漆黒しっこくの鎧に身を包み、これもやはり漆黒しっこくの剣を持っていた。

「勇者一行? 人間の国にはどれほどたくさんの勇者が居るのだ?」

 漆黒の鎧はそう笑った。

「何……勇者と会ったことがあるのか?」

「ああ、あるさ。オレが殺したよ。強かったが敵ではなかった。お前たちも見れば貧弱な装備だ。精霊の剣もなしに魔王に挑もうとは、愚かにもほどが――」

 殺した……こいつだ。こいつが勇者クエトを殺したのだ。ドレスは体中の血脈が荒ぶるのを感じた。ありったけの魔力を放出し、鎧の魔物へ放出する。絶死の魔法だ。

 出し抜けの一撃必殺。

 そのつもりだった。だが、その魔物はドレスの必殺を受けてなお平然とそこに立っていた。魔物が剣を振りかぶり、目にもとまらぬ速さで動いた。ザンザが切り結ぶ。皆戦闘態勢に入り、その魔物と死闘を繰り広げ、そして……

 そして敗北した。勇者ピピンは死んだ。ザンザも他の仲間も皆死に、最後にドレスが生き残った。漆黒しっこくの剣士は、ドレスに狙いを定める。

「こんなの嘘よ」

 ドレスは泣きながら、呻いた。

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