第27話 そして魔女が引き起こす悲劇

 更に一週間が過ぎた。都合二週間が過ぎたわけだが、ドノヴァは帰ってこなかった。連絡もなかった。魔王アイリスは日に日に不機嫌になっていく。自室にこもりっぱなしだった。ソヨンやオブリは、その魔王をなだめ、何とか仕事をさせようと試みた。

「魔王様、ほら、明日には帰ってくるかもしれないでしょう、だから仕事しましょう」

「いやだ!」

 オブリの言葉に、魔王は駄々をこねる。まるで子供そのものだ。

 服装もピンク色のドレスだし、部屋の内装もそんな感じだし、人形があふれかえっている。これが魔王か、改めてオブリは呆れた。

 今なら容易く倒せる。そんな気がした。

「魔王様、怒りますよ」

 ソヨンが言う。その言葉に魔王アイリスは、さらに落ち込む。

「だって~」

 はたから見れば、若い女たちのやり取りだ。恋愛話、仕事上の愚痴。ソヨンと魔王のやり取りはそうとも見えた。くだらない。くだらないくらい、平和だ。

 己はこの平和を脅かそうとしているのか?

 それでいいのだろうか。そんな不安というか決意の揺らぎは、未だオブリの中で燻っていた。

 ドノヴァを倒す。それは確定事項と思っていた。魔王になる。それも確定事項と思っていた。でも本当にそれでいいのだろうか? 揺らぐ。決意は揺らぐ。

そして、悲劇が訪れる。決意などオブリには必要なかった。全ては手遅れだった。

「なんだ……? 何か爆音が聞こえた気がしたが」

 魔王が言った。確かに。

 オブリもそれは感じた。爆発音。そして微かな揺れ。

「……大きな魔力を感じます。喧嘩でもしているの?」

 ソヨンも不安げに呟く。

 確かに魔力が、大きな魔力がある。いや近づいている。

「いや、しかしこれはおかしい。これほどの魔力の主をボクは知らない……」

 そして、再び爆音が響いた。今度ははっきりと認識する。

「また爆音……悲鳴も、何かあったんじゃない……?」

 ソヨンが言う。魔王もオブリも緊張した面持ちだった。そして扉に視線を注ぐ。誰かが来る。三人は一斉に構える。

 ひとりの魔物が魔王の部屋へと入ってきた。ゴブリン種だった。

「……魔王様」

 体中が傷だらけで血も付いている。

「どうした?」

 厳しい声で、魔王が問う。

「とりあえず回復魔法を!」

 オブリは回復魔法を唱え、そのゴブリンの体を癒す。傷口が塞がり、落ち着きも取り戻したようだ。

「ありがとうございます……魔王様、勇者が!」

 ゴブリンが声を上げる。

「勇者?」

 意外な単語が出てくる。オブリは思わず鸚鵡おうむがえす。勇者はドノヴァが倒しに行ったはず。

「え?」

「どういうことだ?」

 ソヨン、アイリスも驚愕きょうがくの表情でゴブリンの次の言葉を急かす。

「勇者一行が城を攻めてきて、城内のモンスターを殺しまわっております」

「なんだと……! 勇者はドノヴァが倒しに行ったはずでは……どうなっておる」

 それに加え、今の今まで、気づかなかったのもおかしい。殺しまわっている? 大人数で攻めてきているならすぐ気づくはずだが、少人数という事か?

「ともかく、城内の様子を見に行ったほうがよさそうだな」

 オブリが言った。ソヨンも頷き、魔王の部屋から出ようとする。だが、

「その必要はないぞ」

 声とともに、男が入ってきた。

 栗色の髪で黄金の剣を腰にさし、宝玉のめこまれた冠を被っている……こいつが勇者か。オブリは直感的に理解する。これが、勇者だ。魔物の宿敵。

「こんにちは、あんたらが魔王か?」

 笑っているそいつは、そう問うた。笑っているが、極めて強力な、強烈な殺気を放っている。

 そしてその後ろに二人の人間が入ってくる。片方は男で剣士らしい姿。重装備で、巨大な剣を引っ提げている。もう一人は女で魔法使いのようだ。

「勇者か。余の城でかなり暴れまわってくれたらしい。死を持ってその愚行を後悔するがいい」

「へー、どうかな? 後悔するのはお前たちの方だと思うけど」

 勇者はにやりと笑う。

「勇者、手抜きや油断はやめろ。全力だ」

 重装備の男が勇者を諌める。

「はいはい、あいかわらずお固い戦士様だこと」

 しかし――勇者がここに居るならばドノヴァは? ドノヴァは勇者と会わなかったのか?

「時に勇者よ、ドノヴァなるものに会わなかったか?」

 魔王が訊ねる。

「殺したよ」

 勇者は言った。

 次の行動は早かった。オブリは知らず知らずの内に火炎魔法を唱えていた。

 魔王も同じだった。両腕からおびただしい魔力が放出され、勇者一行に襲い掛かる。

 が、防がれる。魔法使いが何か防御魔法を唱えたようだった。

「へえ、魔王様のペットともなると、スライムでもそんな魔法使うのか! 強いな」

 勇者が笑う。

 気づけばオブリに肉薄している勇者、その右手には黄金に輝く剣。フラッシュバック。一二六回の繰り返死くりかえし。死という連鎖。またその階段の中に己は入るのか!

 それは嫌だ――

 オブリは寸でのところで回避する。すぐさま、補助呪文で身体強化を図る。

ぜろ!」

 ソヨンも魔法を唱える。強烈な閃光エネルギーが放出される。

「巻き上げろ!」

 だが、魔法使いはそれに対抗して竜巻の魔法を唱える。

「勇者、油断するな! そのスライムも妙だ!」

 重装備の戦士の声。

「わかってるよ」

 勇者は答える。と同時に飛ぶ。

 魔王も飛び勇者に殴りかかる。勇者はそれを盾で防御する。

 ソヨンと人間の魔法使いも魔法合戦をしているようだ。

 オブリは失われた古代魔法の詠唱を始める。高威力だが、威力の割に多大な魔力を使用し、つまり燃焼が悪く、現在では使われなくなった魔法だ。だが、それ故、対抗策が無きに等しい。使われていないのだから。

 魔法が完成する。

「五つの光と矢よ、穿うがち貫け――!」

 体中から力が吸い取られる。そんな感覚をオブリが襲う。

 放たれる五色の魔法光線。それが、勇者や重装備の戦士、そして魔法使いの女へと放たれる。

 だが、だが、ありえないことが起こる。オブリが行使した魔法、五色の光は、勇者に二本、戦士に一本、そしてあの魔法使いに二本向かうように調節した。だが、それは何かに引っ張られるように、全て魔法使いの方へと集結される。そして弾け飛ぶ。

 オブリは愕然がくぜんと立ち尽くした。

 既に失われた魔法のはず。その魔法を知っている? それに対抗する方法をも知っている。

「……そんな……スライムごときがこの魔法を……」

 それをやってのけた魔法使いは悄然とその場にへたり込む。肉体的にも精神的にもダメージもあるようだ。当然だ。あの魔法を封殺したのだから、それほどのダメージは当然だ。むしろ、精神的なダメージはオブリの方が大きい。必殺の魔法だったはずだったのに。

 あの魔法は非効率的な燃費の悪さから使われなくなった魔法だ。故に必殺だった。魔法を防がれた場合、もはやオブリに大した魔力は残らない。

「おいおい、大丈夫か? お前ちょっと休んどけ」

 戦士が魔法使いに言う。

「あのスライム、やばいな」

 勇者が剣を構える。二人の人間が今にもオブリに飛びかからんとしていた。

「愚か者め! 余の存在を忘れるとは死に急ぎたいか! 【ジャアクナルイカズチヨ、スベテヲヤキハラエ】!!!!!!!」

 魔王の魔法が行使される。出現する暗黒色の雷。

「黒い雷……!?」

 勇者が叫ぶ。

 うねる黒い雷、一瞬で戦士と魔法使いと勇者を包み込んだ。

「私も忘れないでよ!!!」

 ソヨンが魔法を行使する。僅か一節の詠唱で、両手からほとばしる冷気。それが人間に襲い掛かる。

「ぐわああああああああああ」

 戦士が悲鳴をあげた。だが、勇者にはほぼダメージがないように見えた。ひるみもせず、勇者は跳ぶ。

「な…無傷?」

 魔王が驚きの声を上げる。飛びのこうとするが、遅かった。

「悪いな、聖なる血ってやつだ!」

 勇者の振り上げた剣が、魔王を袈裟斬けさぎる。

「ぐわあああ」

 魔王の悲鳴。

「魔王様!」

 ソヨンが慌てて短剣を引き抜き魔王へと駆ける。

「俺にもその加護くれよ、うらやましいぜ……くそ……ほら、お前は俺が相手だ」

 ソヨンの行く手をはばむのは、魔法のダメージから立ち直った戦士だった。

「魔王様!」

 ソヨンが叫ぶ。が、進めない。戦士が阻む。勇者の二振り目――だが魔王も体勢を立て直す。

「まずい……」

 オブリは慌てて回復魔法を唱える。魔王アイリスを回復させるためだ。

 だが、魔法を行使するも回復はしない。

「何……!」

「どういうことだ……」

 魔王もオブリも驚く。

「はっ! 精霊様のありがたい加護も魔王には呪いみたいだな! 魔王! お前は精霊様に呪われたのだ」

 勇者の二撃目。

「ぐわあああ」

 魔王の傷口から派手に血が潮噴く。

 まずい、まずい、まずい。嫌な未来がオブリの脳裏にちらつく。

 魔力がほぼ底をついたため、オブリは跳躍し、勇者に肉薄。そして打撃を加える。

「っち……」

 勇者は吹き飛んだ。ダメージはあまりないだろうが、とりあえず魔王との距離はとれた。

「畜生! なんだ、そのスライム……回復魔法唱える上に、攻撃魔法も半端ないし……」

 勇者が叫んだ。

 ともかく魔王を守らなければ。疑問はなかった。魔王を殺して、己が魔王になる。そんな考えは既に霧散していた。挟む余地がなかった。支配している感情は、焦燥と憎悪だ。

「厄介ね! 空気を切り裂きなさい!」

 ソヨンが真空波を紡ぎだし、勇者に放つ。

「しゃらくせぇ! 灼熱よ、焼き払え!」

 勇者も魔法を行使する。真空と灼熱がせめぎ合う。

「余のことは気にするな! あの程度では死なん! 殺せ! 全力で!」

 魔王は魔法を唱える。オブリの知らぬ魔法だった。詠唱も聞き取れない。そして、

「潰れろ!」

 黒い塊だった。一目で、その黒いかたまりの重量を感じ取った。魔法は勇者にはあまり効かない。今までの戦闘で、何となく解っている。だが、この魔法ならば話は別だろう。空間に突如としてあらわれた黒いかたまりは、質量を持って押し潰すのだ。魔法でありながら物理攻撃に近い。

 超重量のかたまりが、空間を切り裂きながら勇者に肉薄する。

「ぐわあああああああ」

 鈍い音が聞こえ、勇者が吹き飛ぶ。

「くそ! 皆、しっかり」

 今まで伏せていた魔法使いが立ち上がり、魔法を唱える。回復魔法だった。おそらく勇者やあの戦士の傷が回復したのだろう。

 オブリはもうほとんど魔力を残していない。仕方ないので、魔法使いに接近する。そして、体当たり。

「くそ……」

 魔法使いは寸でのところでかわす。

「く! まだまだ! 全てが消え去れ、暗黒よ、全てを飲み込め!」

 魔王が追撃の魔法を唱える。

 その両腕から放たれたのは黒色のかたまり。それは、先ほどの黒いかたまりとはまた性質を異にする、異様な暗黒球体だった。それが、戦士に肉薄する。いびつな音をたてながら。

「避けろ!!」

 魔法使いが叫ぶ。

「言われなくとも!」

 戦士が飛びのこうとした。確かにアレを前にしたら、どんな生物も回避行動を本能的に取らざる得ない。

 が、

「させない」

 ソヨンが何か魔法を唱える。

 何を唱えたかオブリには分からなかったが、おそらく身体異常か、呪いの類。

「か、体が……!」

 戦士はその場から動けなくなっていた。


「ちくしょ     」


 戦士は消滅した。跡形もなく消え去っていた。

 まずは一人、死んだ。倒した。これならば……あとは、二人。

「?! ……嘘だろう……くそ! 雷よ、精霊よ! 我に力を! すべてを焼き尽くす雷を!」

 勇者が魔法を唱える。まずい、まずい、まずい。敵を一人倒し、安堵あんども束の間、嫌な予感がオブリを巣食すくう。

 勇者の高く掲げられた右腕から、放出される輝き、雷が魔王に襲いかかる!

「魔王様!」

 それをかばったのは、側近ソヨンだった。

「うぎゃああああああああ」

 為す術はなかった。ソヨンは見るも無残な姿。一瞬だった。ドノヴァだけでなくソヨンも失った。

 何だこれは……。

 オブリは茫然ぼうぜんとする。ソヨンは黒こげになり、その場に崩れ落ちた。死んだ。

「なんだよ、これくそ!」

 ここで終わる運命なのか。また、繰り返すのか。今度は百二十八回目。いや、いや、いや。そんな馬鹿な話があるか。

「ソヨン様、魔王様!」

 今まで部屋の隅で震えていたあのゴブリンが動き出した。右手に持った棍棒こんぼうを振りかざす。

「止めろ!」

 思わずオブリは制止の声をあげた。嫌な予感しかしない。

 オブリは静止の声を発すと同時に飛んだ。止めなければ。

 が、止めるにはあまりにも遅いかった。

 ゴブリンの攻撃は確かに不意打ちとして、成功した。でもそれだけだった。勇者に致命傷は与えられない。

 勇者はすぐさま剣を振るう。ゴブリンの首から上が斬り落とされた。

 断末魔もなく、ゴブリンは死んだ。

(弱い者は死んでゆく……結局同じじゃないか)

 オブリは心の内で震える。震えた。死ぬ。脆弱ぜいじゃくな種族は死ぬ。あまりにも呆気なく。今までオブリが必死になってコツコツと積み上げてきたなにかが、あっさりと崩れ落ちた。それが何かはオブリには分からなかった。

「許さぬ!!!!!!」

 魔王が魔法の詠唱を始める。

「っは、許さぬだって!! それはこっちの台詞だ!」

 勇者も魔法の詠唱を始める。

 嫌な予感はあった。そしてこの戦いにおいて、オブリの嫌な予感は的中しまくりだった。だから、もう、二人が魔法を行使する前、詠唱の時点で、オブリはその嫌な予感が現実のものと認識し、故に立ち尽くしていた。

 魔王アイリスの放つ暗黒物質。それが勇者に肉薄する。魔王の魔法行使が早い。が、遅れて勇者の魔法が完成する。それは雷。ソヨンを下した聖なる雷。魔物を焼き尽くす精霊の雷。雷は暗黒物質をすり抜け、魔王を直撃する。だが、勇者は勇者で暗黒物質を避けられない。

 勇者は消滅し、魔王は黒こげになった

「魔王様まで……」

 オブリは、オブリはその嫌な予感が的中したことを呪った。

 オブリは至らない。思い至らなかった――。今この場で魔法使いを殺し、己が魔王の地位にすげ替わろうなど、そんな発想は出てこない。ちょっと前までは、己が皆を殺す肚積はらづもりだったのに、今はその皆を失った悲しみが大きかった。虚しさが胸を占めていた。

「そんな……最強の防具なのに……」

 人間の女、魔法使いが狼狽えている。

「みんな死ぬなんて……魔王を倒したといえど……こんなはずじゃなかった」

 魔法使いがぶつくさとうめいている。その気持ちはオブリも同じだった。こんなはずではなかった。

「また、やり直すの……もう、嫌なのに」

 そして、魔法の詠唱を始める。何をするつもりだ? 順当に考えれば己への魔法攻撃だろう。オブリは身構える。魔法使いは、ふところから何か青い金属を取り出す。

 あれは! 時の金属、グオチージン!

「時の金属よ! さかのぼれ!」

 女は詠唱を始める。オブリは何が起こるか全く想像できなかった。

 グオチージンがさかのぼる時間は精々十分。十分と言えば……戦闘開始直後か? 確かにその状態なら、勇者もあの戦士もまだ生きているのだろう。

 しかし、グオチージンを使用するときは、微量の魔力を流し込むだけでいい。特別な魔法は不要だった。では、魔法使いが行使する魔法とはいかなる魔法なのか?

 女が魔法を行使する。

「な!」

 オブリは驚愕の声を上げる。

 オブリの体と魔法使いの体が光りだす。正確にいえば、魔法使いの手にする時の金属と、そしてオブリが持っていたオリハルコンと時の金属の合金。これらが光りだす。

「お前、何を――」

 魔法使いが叫ぶ。だが、その先は続かない。



「!? ここは……」

 視界が開ける。部屋だ。全面ピンクの部屋。ぬいぐるみがちりばめられた、女の子らしい部屋。魔王の部屋だった。

「全く、ドノヴァはいつになったら帰ってくるのやら」

「ふふ、魔王様。愛想尽かされたんじゃないですか?」

(戻ってる……? ソヨンも魔王もふたりとも生きている。そして魔王の部屋に、ボクと魔王とソヨン……)

 想い出す。確か戦闘前己は魔王の部屋に居て、ソヨン達と談笑していた。己の持っていたグオチージンで一時間ほど時間をさかのぼったということか? 確かに一時間前は、魔王の部屋にいた。

「い、今何時ですか?」

「え、三時よ?」

(三時……? グオチージンで戻せる時間は、長くても十数分……、勇者たちが来たのは少なくとも四時以降だったから一時間は戻っている……)

 やはり己のオリハルコンとグオチージンの合金で時間が遡ったとしか考えられなかった。しかし己は魔力を注入していない。あの女、魔法使いの魔法のせいか?

「しかしもう一週間経つのか」

「そうですね」

 ソヨンと魔王が呟く。

「え? 何がです?」

 オブリは思わず訊ねる。

「ドノヴァが旅立ってよ」

 ソヨンが答えた。

「一週間……? 二週間ではなく?」

 確か、勇者たちが来る直前、ドノヴァが旅立って二週間経つという話をしていたはずだ。

「え? 何言ってるの?」

 きょとんとした表情で、ソヨンがオブリを見た。

「…………! まさか……」

「どうしたのだ? さっきから変だぞ」

 魔王が心配そうにオブリを覗き込んだ。

「今日は何月何日ですか?」

「ん、十二月二十日だが」

「やっぱり……」

 勇者が攻め入った日は、十二月二十七日だった。つまり一週間時間が遡っていることになる。

「何が?」

「……信じて貰えないかもしれませんが、今から七日後……勇者たちがここにたどり着きます」

「は? 何言っているの?」

 ソヨンがあきれた表情でオブリを見た。

「勇者たちは強く……魔王様とソヨンは殺されます」

「なに……? 予言か?」

「いいえ、ボクは未来から来ました」

「未来……? まさか研究が完成していたの?」

 ソヨンが訊ねる。ソヨンはオブリがグオチージンの研究をしている事を知っているため、簡単にその事実を受け入れたのだろう。

「違います……ボクの研究は完成していない。順を追って説明します。ともかく十二月二十七日、勇者一行が攻めてきました。ボクにソヨン、アイリスが勇者一行と闘い……ああ名前は知りませんがゴブリンもいました。相手は、勇者に戦士魔法使い……。結果はボク以外は殺されました。でも勇者側も損害が激しく、実際勇者も死んだ。だからその結果を快く思わなかった魔法使いが」

 そうとしか考えられなかった。あの魔法使いのせいだ。つまりあの魔法に対し、己の合金も反応したんだろう。本来グオチージンの使用者しか時間が遡らないはずが、オブリまで巻き込んで、時間を遡った。

「まてまてまて、全くわからん。もう少し詳しく話せ」

 魔王は狼狽ろうばいしながら言った。

「わかりました」

 オブリは自分が体験した一部始終を事細かに話す。

 ただ最後の部分、一週間の時間遡行そこうだけがよく分からない。

「信じがたい」

 魔王がうなったった。

「まて……その話だと、オブリ、お前に記憶が残っているのがおかしな話だ。グオチージンを使ったのは、人間の魔法使いなのだろう? なら時をさかのぼれたのは人間だけなはず」

 魔王が訊ねる。

「そうです、そのはずです。なのでこう考えられます。」

 オブリは己が持っていた合金を差し出す。やはり、砕け散っていた。グオチージンを使った時と同じ反応。

「え? それって、あれよね。オリハルコンと時の金属を合成させたペンダント」

 ソヨンが訊ねた。

「そう、ペンダントが砕け散っている。つまり、魔法使いは、単にグオチージンを使用するだけでなく、何らかの細工を施した。直前に魔法を唱えていたし、多分それでしょう。そして、ボクの持っていたこれとその魔法が共鳴した。この合金、本来一時間程度しか戻れないものです……とすると魔法使いがどの程度時間を戻ったか気になります……ボクと同じで、一週間程度なのか……それともまた別なのか……」

「ともかく……このままではまずいのだな」

 魔王が呟く。

 そして、オブリはまだ話していない話があるのを失念していた。ドノヴァの事だ。

「そうです……そして、あの……ドノヴァが」

「ドノヴァ?」

「……ドノヴァは死にました」

「なに……?」

「正確なところはわかりませんが、勇者たちはそう言っていた」

「つまり……それはオブリが体験した話、未来の話よね……」

 ソヨンが訊ねた。

「そうです……ボク、ドノヴァ探してきます! 勇者はいつドノヴァを殺したかは、言っていなかった……今なら……まだ間に合うかも! 未来を変える……!」

 そう、これはチャンスだ。助けなければ。もうあんな悲劇はまっぴらだ。魔王が死にソヨンが死に、ドノヴァが死ぬ。嫌だ。そんなのは嫌だ。

「ならば、私もいくわ」

 ソヨンが言う。

「余も行こう!」

 魔王も賛同する。

「しかし、お二人は仕事が」

「何言っているの、一大事よ! このまま行けば魔王様も私も死ぬんでしょ?」

 ソヨンが怒声をあげる。

「ええ」

「それに……今の話を聞いていると……もしや勇者側にとっても、今回の時の金属は想定外だったんじゃないか?」

 魔王がふと呟くように言った。

「え?」

「一週間も時間が戻る……。魔法使いがもしそんな魔法を完成させているなら手の打ち用がない。しかしお前のそのペンダントと共鳴して、何らかの要因によって一週間戻ってしまった、こうは考えられぬか」

「無論そういうことも考えられますが……あ、そういえば、魔法使いは、魔法を行使する直前、またやり直すしか無い、と言っていた……もしかしたら、ボクたちが知らないところで、実は何度も戦っているのかもしれない。あるいは……今までの彼らの冒険はその時の金属のやり直しでできているとか……」

「いずれにせよ厄介ね……どうしたらいいのかしら。今回オブリ、あなたがいたから良かったわけね。相手の時間巻き戻りに巻き込まれたっていった感じかしら?」

 ソヨンが腕を組み、唸った。

「わかりませんね。ともかく対策しなければなりません。向こうも時間が戻っている以上、何らかの対策をしてくるでしょう」

「だから……ドノヴァが殺される前に、余達が勇者たちを殲滅せんめつするのだ」

「わかりました……では魔王様とソヨンは勇者討伐に……ボクは保険として……またあれを作ります。グオチージンとオリハルコンの合金」

「そうだな……時間が戻ればグオチージンはなくなるから、量産しておく必要があるかもな。まあいい、我々は勇者だ、行くぞソヨン」

「了解です、魔王様。でも勇者たちは何処に居るんでしょうね?」

「勇者たちを探すというより、ドノヴァを探したほうが簡単かもしれんな」

「そうですね、ともかく行きましょう」

「じゃあ、城の守りはボクに任せてください」

「うむ」

 そうして、魔王とソヨンはドノヴァと勇者を探す旅に出た。



 オブリは研究室にこもる。念のため、グオチージンとオリハルコンの合金を作る。これで一、二時間程度は時間を巻き戻せるはずだ。そして研究に取り掛かる。七日という時間をさかのぼったあの現象。あれを再現は出来ないのだろうか。

 魔法使いの魔法がそのトリガーであろうが、どんな魔法か想像もできない。

「……魔法使いは何をしていた? 確か時の金属が光り……そしてボクの持っていたペンダントも光り……二つのグオチージンが反応した。そして魔王様の言うように、あれは、あの共鳴反応はおそらく魔法使いにとっては不測の事態……だめだわからない。魔法か……どんな魔法だ? 想像できない……しょうがない、少なくともボクはオリハルコンと時の金属の合成で二時間の巻き戻しに成功したんだ。合成という方向で行こう」

 しかし、オリハルコンは神の金属と呼ばれる貴重な金属だ。魔王の武器庫に眠る伝説の槍――これもオリハルコンで作られていると聞く。それに、勇者が装備していた剣。あれもおそらくオリハルコンであったろう。

「考えろ……神聖……神の金属オリハルコン、比率の問題か? 時の金属とオリハルコン」

 他に金属と言えば、金属の王様である金か……あるいは、魔法の金属と呼び称えられる水銀……。地道に実験するしかないか。

「誰か! 居ないのか!」

「っは、ここに、オブリ様!」

 オブリの言葉に、すぐに誰かが駆けつける。

「水銀と金を用意しろ」

「了解いたしました」

 駆け付けたそいつは、あの時勇者に殺されたゴブリンだった。

 殺された……そうか、こいつも殺されたのか。いや、こいつだけではない。あの時多くの魔物が殺された……

「ここに、持ってまいりました」

「ああ、すまない。ご苦労様。これで……実験を。まずは金を溶かさなければ」



 そうしてオブリは研究室にこもり、時の金属グオチージンの研究に没頭する。

 魔王及びソヨンは、軍を動員しドノヴァと勇者一行の捜索。オブリは繰り返し実験を行うも、オリハルコンとグオチージンの合金による時間遡行そこうは二時間以上の成果を上げられなかった。

 金・銀・水銀・鉄、あらゆる金属を試す。あるいは、金属ではなく他の物体でも試してみる。あらゆる比率を試す。三日ほどが過ぎるが、何の進展もない。過去の研究、つまり先人の研究で、正四面体が最もグオチージンの効率的な能力を発揮する形というものがある。それが間違いではないか? そう考え、あらゆる形を試してみた。が、このアプローチも失敗に終わる。おそらくオブリが今失敗して通った道は、既に先人が失敗しているのだろう。その積み重ねの結果が、この正四面体。

 以前オブリが作ったペンダントも、形としては正四面体ではない。それでも一時間の遡行そこうができるが、正四面体の場合、二時間の遡行そこうが可能だった。それはもうわかっている。分かっているが、それ以上の事は皆目見当がつかない。やはり魔法か? あの魔法使いの魔法。あの謎さえ解ければ、少なくとも一週間の時間遡行そこうは出来るのだ。

 それからオブリは、文献を掻き集め読み始めた。既に読んだものが大半だが、何かヒントがあればとすがる思いで探す。時空に関する魔法、グオチージンの研究、時間操作の魔法。

 だが、結局はなしのつぶて

 そうして一週間が過ぎた。オブリは何の成果も上げられなかった。それに魔王もソヨンもまだ帰ってこない。何の音沙汰おとさたもない。嫌な予感しかしない。何もかもが上手くいかない。そして……一週間。という事は、本来なら今日、勇者たちがこの魔王城に攻めてくる予定だった。だが、その様子はない。未来が変わったのだろう。時間を巻き戻したことにより、魔王やソヨンが勇者とドノヴァを捜索しに行くことになり、未来が変わった。それに、魔法使い側も何らかのアプローチをしているはずだ。あちらはあちらで、その戦いの結果を回避するためにグオチージンを使ったのだから。

 あの時の出来事をもう一度吟味ぎんみしてみる。

 魔法使いがグオチージンを使うつもりで、しかし一般的な使用ではなく、何らかの魔法を唱えた。おそらくグオチージンの能力を高める魔法と推察される。

 しかしその魔法に、予想外にも、オブリの持つグオチージン合金が反応。二つのグオチージンが共鳴? 共鳴なのか……同時に使用……?

 確かに二つあるいは複数のグオチージンを同時に使用するという実験は過去に行われ、それで遡行そこう時間は伸びている。しかし、精々十分が十一分。その程度だ。三つ使っても、同じ程度。四つ同時使用で、ようやく十二分とかその程度。ならば、オリハルコンとグオチージンの合金ではどうだ? それを同時に二つ使用する。

 同時に使用すること自体は難しくない。同時に魔力を流し込めばいいだけ。流し込む魔力も、多くなくていい。グオチージンの合金とオリハルコンを用意する。そして、同時に魔力を流し込む……二つの金属が光る。そして、景色がゆがむ。時間が戻っている。巻戻りだ。

 しかし……オブリが戻った場所は研究室だった。時間を確認する。

 二時間……二十五分。それが戻った時間だった。念のため、日付を確認する。が、やはり同日の二時間二十五分前に戻っただけだった。

 共鳴……時の金属とオリハルコン。

 考えても答えは出ない。半ばやけくそになって、グオチージンとオリハルコンを並べる。合金ではなく、純正なオリハルコンと時の金属だ。

 オリハルコンに魔力を流し込んでみる。当然それで特別何か反応を示すわけではない。そもそも、オリハルコンは魔法に対して絶大な抵抗を持つ。貴重な金属であり、神の金属と呼ばれる所以でもある。防具を作る際、少しこのオリハルコンを混ぜてやれば魔法耐性が付与された強力な防具の完成である。純粋なオリハルコンに多大な魔力を流し込んだところで、結局弾かれるだけだ。

 では……グオチージンと合成した時、何故すんなり魔力が流れ込んだのか。それはグオチージンの効果によるものだろう。

 あらゆる魔法を弾く絶縁体に近いオリハルコンと、微弱な魔力さえを通してしまうグオチージン。相反する二つの金属。片や神聖を持つ、神の金属としあがめられ、事実希少価値も高い。方や時の金属と称せられながら、その効用は精々十分という、希少価値においては低くはないが左程高くもない。

 ぼんやりと考える。行き詰まりだ。訳が分からない。そもそも、今の状況はどうなのだろう。魔王やソヨンは? 勇者は? ドノヴァは?

 魔王やソヨン、ドノヴァが生きているならば、こんな研究今すぐ完成させる必要はないのだ。

 しかし嫌な予感しかない。そう、嫌な予感。

 音沙汰おとさたがないのがまず、おかしい。何かがあった。そのはずだ。

 オブリは再び魔力をオリハルコンに流し込む。それはほぼ無意識の行動だった。そして当然のように、魔力は弾かれる。苛立ちだけが募った。また金や、銀、水銀を使ってみるか。あれらにも魔力を流してみるか……いや、その結果は知れている。知れているのだ。

「オブリ様……」

 その時、ゴブリンが研究室に入ってきた。

 ゴブリンだけではない。集中するため独りにさせろ、と命令を下していたはずなのだが、研究室勤務の魔物が何人かゴブリンに続き入ってくる。皆、いい加減仕事をしたいという事か、それとも何か時間に関する魔法やグオチージンについてひらめきがあったのか、あるいは……魔王様やソヨン、ドノヴァについて知らせが届いたのか。

「どうした?」

 だが、ゴブリンは何も言わない。それに続く魔物たちも何も言わない。おかしい、ゴブリンの後ろの続く魔物の一人は確かに見覚えがあるが、その後ろに続く他の魔物には見覚えがない。誰だ? 彼らは、どこの部署だ? やはり魔王やソヨンに関する知らせか?

 ゴブリンは何も答えない。そしてそのまま倒れこむ。見覚えがあると思た魔物も倒れこむ。死んでいた。残っているのは見覚えのない魔物達だった。

 謀反むほん? 

 まさか、……いや、あり得る話。魔王が長く不在である城だ。

 謀反むほんが起きてもおかしくはない。しかし、しかし、事態はもっと最悪だった。

「あとは、お前だけだ」

 魔物の一人が言った。聞き覚えのある声。そしてそれは魔物の声ではない。魔物たちの姿が揺らめく。ああ、それらは人間。魔法使いそして勇者に戦士、あとは知らぬ顔の人間が二つ。

 人間だった。魔法か何かで変装しているという事か――

 オブリは戦慄せんりつした。

 ここに人間が居る。あの人間が居る。そして、あとは、お前だけだ、という台詞。

「魔王様は……」

 オブリは茫漠ぼうばくと立ち尽くした。

「殺したよ」

 魔法使いが言った。そして、杖を向ける。オブリの体内に憎悪が駆け巡る。

 だが、憎悪はすぐに霧散する。すぐさま別の感情が巣食すくった。

 恐怖だ。死ぬ。死だ。

 魔王が死に、おそらくソヨンも死に、ドノヴァも死んだ……。そして自分も死ぬ……

 ほぼ反射的だった。オブリはグオチージンに魔力を込める。せめて十分前に戻る。そしてやり直す。

 魔法使いが魔法詠唱を始める。

 オブリはグオチージンとオリハルコンを無意識のうちに掴み跳んだ。刹那まで居た場所に、業火ごうかほとばしる。魔法使いの火炎魔法だ。続けざまに、戦士が剣を振るう。

 グオチージンが光る。ああ、過去に戻れる。十分前に戻り、その後は……視界が揺らぐ。時間遡行そこう

 だが、そこでそれは起こった。オリハルコンが輝く。共鳴。純正なオリハルコンと純正なグオチージンが共鳴を起こす。感じた、オリハルコン金属の正四面体に流れ込む多大な魔力。

 あれだけ頑なに魔力を拒んでいた金属に、今やグオチージンを通して魔力が流れ込んでいく。そしてゆがむ空間。時間が巻戻る。ああ…………、巻戻る。

「…………!」

 次の瞬間、視界が暗転する。咄嗟とっさに叫んだ。

「誰か! 居ないのか?」

 時間が巻戻った。それは確かだ。しかしどれくらい時間が巻戻ったのか。十分なのか、一時間なのか。それを確かめねば。

 もしも十分程度ならば、すぐさま逃げ出さなければ勇者たちに遭遇してしまう。

「スライムよ、どうした? 突然叫んで」

 そして声が降りかかった。

「魔王様?」

 オブリの視界が確かになる。飛び込んでくるのはフリルのレース。ピンク色の部屋。そしてぬいぐるみ。己と等身大のスライムぬいぐるみ。

「ぼーっとしちゃって、オブリらしくないわね」

 ソヨンの声もする。という事は時間が戻った。いや、しかし。ソヨンや魔王は勇者とドノヴァ捜索に行っていたはずだ。

「魔王様、今日は何月何日ですか?」

 オブリが大声で訊ねる。

「どうした?」

 魔王は目を大きく見開き、オブリを見た。

「いいから、早く! 今日は何月何日ですか? 十二月二十日ですか?」

 魔王やソヨンが居るという事は、少なくとも十二月二十日以前という事になる。なにせ、十二月二十日に魔王やソヨンは捜索に出立したのだから。

「どうしたの? 今日は十二月十七日ですよ」

 オブリの問いに答えたのはソヨンだった。

「十二月十七……」

 オブリは愕然とした。時間が戻っている。戻っている……二人とも、生きている。ドノヴァは分からないにしても、少なくとも二人とも生きている。

「よかった」

 思わずオブリは安堵した。

「どうしたのだ、オブリよ」

「ふふ、怖い夢でも見たのかしら」

 ソヨンはからかう様に言って、しゃがみこみオブリをでる。ソヨンの身長はオブリの七倍程度あるのだ。

「ソヨン……魔王様、聞いてください」

「ん、なんだ? 夢の話か?」

 魔王も笑いながら訊いた。

「夢……のような話です、信じてもらえかもしれませんが、一刻の猶予ゆうよもありません……まずはオリハルコンとグオチージンを持ってきてください。加工された正四面体の物が研究室にあるはずです」

「え……何で?」

 ソヨンがオブリに訊ねる。しかし、オブリには焦燥感以外持ち合わせていなかった。勇者たちは魔王を倒しソヨンを倒しそしてオブリの前に表れたのだ。しかも、人数が増えていた。最初戦った時と異なり、二人知らない顔の人間がいた。相手は時間遡行そこうでこちらの先手先手を取っている。そんな感じがする。根拠はないがそう直感した。少なくとも、いい未来はない。

「いいです、ボクが取りに行きます。二人はここに居てください」

 オブリは慌てて研究室に向かう。とりあえずオリハルコン、そしてグオチージンの金属を手元に持っておこう。それが保険だ。原理は分からないが、グオチージンに流れた魔力が、グオチージンを介しオリハルコンの正四面体にも流れた。そして共鳴し十二月二十七日から十二月十七日に時間遡行そこうした。それはつまり、十日もの時間を巻き戻したことになる。あの時の魔法使いが行った時間遡行よりも三日伸びた。

 研究室の資材庫へ向かう。グオチージンとオリハルコンの正四面体を手に取る。これでひとまずは安心だ。少なくとも十日は戻れるのだから。

 あとは戻って、魔王やソヨンに経緯を説明しよう。そして己もドノヴァ捜索に加わろう。最悪、このグオチージンとオリハルコンの共鳴を使い、十日戻ればいい。そしたらドノヴァはまだ出立していない。ドノヴァの出発を止めればいい。

 オブリは安堵の息を吐いて、魔王の部屋に戻ろうとする。

 だがそれは叶わなかった。

「ここが、研究室ってわけね」

 ぞっとするような冷たい声が、オブリのすぐ近くで響く。つい先ほど、聞いた声だ。

「たいそうな研究室ね。それを自由に、使えるわけね。羨ましいわ、オブリ」

 オブリと呼ぶ声。

 オブリは振り返る。知っている声だ。そして決して聞きたくない声だった。

 魔法使いの、あの人間の女が杖を構えて立っていた。赤髪の女。女はオブリを睥睨へいげいする。

「どうしてボクの名前を……」

「今あなたが資材庫から持ち出したのが、オリハルコンとグオチージンの合成物ね、合成なんて考えてもみなかったわ」

 魔法使いはオブリの問いには答えない。

 どういうことだ? 何故この女がここに居る。そして合金について知っている?

体が固まる。思考が停止する。

「動かないほうがいいわよ。魔王たちのところにも私の仲間が行っている。あなた達は私達によって殺されるの」

「そういうことです」

 今度は男の声。聞き覚えのない声だ。見れば武闘家らしき男が立っていた。拳を構えている。

 あの男……あんな男は最初の戦闘ではいなかったはずだ。いいや……前回見た。前回見知らぬ男が二人いてその内の一人だ。

「ねえ、本当に、このスライムが強いんですか?」

 そしてもう一人女が居た。その女は修道女といった出で立ちだ。長い髪をしている。その女も杖を構えていた。そしてそれも知らぬ顔。最初の戦闘で居たのは、勇者と戦士、それに魔法使いだけ。あとの武闘家のような男と、この僧侶の如き女は知らない。

「ああ、あなたはここへ来る前に死んだから、初対面よね。でも気を付けて、このスライムが一番厄介だから」

 魔法使いが、修道女にそっとささやく。

 何故ボクの名を知っている。そう叫ぼうとしたが、止めた。理解したからだ。この魔法使いは、何度も何度も時間を巻き戻し、魔王城へ乗り込んできたのだろう。失敗する度にやり直しているのだ。そしてその過程でオブリの名前を知った。それだけの話だ。

 最悪だった。何度もやり直しているという事は、完璧に対策ができるという事だ。

「魔法使い、お前の名前は何という」

 オブリは毅然と訊ねた。まだだ。こっちには切り札がある。最悪それを使えばいい。

「私? 私の名前は、アーキュラス・アラ・ドレスよ。ドレスって呼んでね」

 女は片目でウィンクをする。黒色のハットをかぶり、長い赤い髪。服装も真っ黒の装束に、ただ袖の部分が白いだけ。赤い髪黒い服、そして白い袖、白い腕、杖は赤色。オブリは直感的に魔女を連想した。

「ドレス、お前、何度目だ」

 オブリはそう問うた。そのオブリの言葉に、ドレスの目つきが鋭くなる。それはドレスの後ろにいる、武闘家らしき男と修道女らしき女も同様だった。

「なるほど、ただのスライムではないってわけね」

 髪の長い女が杖をオブリに向ける。

「憎ったらしいですね」

 拳を構える短髪の男。そして、憎しみの感情を目線に込め、ドレスがオブリをにらみつけた。

 オブリが看破したという事を、三人とも理解したのだろう。

 つまりこの三人は、何度も時間遡行そこうをしている。修道女と武闘家は、本来は魔王城へ辿り着く前に死んでしまった仲間の二人なのだ。だが時間遡行そこうを行い、魔法使いドレスはこの魔王討伐の旅をやり直した。おそらくは先延ばしに、装備を整え、力をつけ、効率的な方法で、何度も何度もやり直してきたのだ。彼女は、万全を期し、今ここに立っているのだ。

 先程のドレスは、オリハルコン合成について言及した。彼女はオリハルコンとグオチージンの合成金属を知っていると見える。前は知らなかったはずだ。それはつまり、己が……喋ったのだろう。おそらくは、オブリの知らない時間軸の中で。だが純正オリハルコンとグオチージンの共鳴は知らない様子だった。

「何回目だ」

 再びオブリは問う。問いながら、あたりを見渡す。五感を研ぎ澄ます。何か隙が……隙が必要だ。武闘家と修道女の実力は分からない。しかしドレスの魔法の腕は、オブリに引けを取らない。いや、あるいは凌駕りょうがしている。

「……私は既に二十五回……二十五回もやり直している。何度も何度も同じ一時間、そして同じ一週間をやり直している。皮肉ね、あなたのお陰で私は、せいぜい一時間しか戻せなかった時間を、一週間戻すのに成功したわ。そのせいで、そのせいで……同じ一週間という……内容は違っても結末は同じ一週間という悲劇のような繰り返しを味わったわ……」

 オブリはしばし考える。やはり、こいつらは何度もやり直し魔王城に乗り込んでいる……しかし……しかし、考えてみればそれだけ失敗したという事だ。つまるところ、あいつらは……勝てないのだ。あいつらが望む未来でなかったから、時間を遡行そこうしている。そういう事なのだ、とオブリは考える。

「なるほど……過去の……いや未来か?  ……どうでもいいか、ともかくボクはきみに合成金属のことをべらべら喋ったんだね」

「そういうことよ。もう、進むの。これ以上の繰り返しはまっぴらごめん。あなたにはわからないでしょう。二十五回、何度も何度も繰り返す……ただ悲劇の結末を繰り返す……この辛さ」

 オブリは隙をうかがう。話を引き延ばしているのも、相手の隙を作るためだった。しかし、今しがたドレスの言葉に、オブリは感情を高ぶらせてしまった。そして口にする。

「お前は! たかが二十五回! 一週間そこらを繰り返しただけだろう! ボクは……」

 その先の言葉はつぐんだ。感情を落ち着かせる。三人相手に冷静さを欠けば死ぬだけだ。

「どういことだ……? まずいかもしれません、このスライムもさっきの合成金属で時間を巻戻ってここに来ているんじゃないですか?」

 武闘家が不安げにドレスを見た。

 その時、どこか遠くで激しい爆発音が聞こえる。いや、遠くではない。方角的にいえば魔王の部屋。魔王やソヨンが危ない……。ならば早くここを切り抜けなければ。助けに行かねば。

「死になさい、私は未来へ進むわ!」

 ドレスが叫ぶ。そして右腕を差し出す。その右腕から何か赤いものがともる。何らかの魔法だ。

 オブリはつぶさにドレスの口元を観察していたが、魔法詠唱はない。無詠唱で魔法を行使したのだ。何の魔法か見当もつかない。

 オブリは咄嗟とっさに跳んだ。その場所を、赤い炎が襲う。

 炎の魔法か――

 そのオブリを待ち構えたように目の前には男が拳を構えていた。

「ボクもね、魔王を倒して未来へ行きたいんだ!」

 男は叫びながら拳をオブリに叩き込む。オブリは吹き飛んだ。

 畜生! オブリは悔しさでいっぱいだった。

 未来へ行くだって? それは己だ。己は一週間どころではない。二十回どころではない。百二十六回も「人生」という単位でやり直しているのだ。未来に進むのは己なんだ。

 絶望的な気持ちが、オブリを締め付けていたが、泣き言は言っていられない。オブリは魔法詠唱を始める。

 それに気づいた修道女が、二人に注意を促す。

 そしてその修道女も魔法詠唱に入った。オブリの魔法はすぐさま完成する。空間圧搾爆発魔法だ。

 それを三人の前に放り投げる。球体のそれはけたたましい音を上げ、空間を圧縮し、そして弾け飛ぶ。魔王城が揺れた。爆発音が部屋中に響き渡る。

 だが、その爆発を潜り抜けて、拳が飛び出す。

 寸前でオブリは後ろに飛び跳ねた。だが、煙の中から氷の刃が飛び出す。魔法だった。

 オブリは避ける術を持たない。無残にもその刃を受ける。吹き飛ばされながら死を予感する。

 でもあきらめはしない。再び魔法詠唱に入る。詠唱しながら、飛び跳ね、距離を詰める。未だ視界は悪い。しかし何とかあの武闘家の男に肉薄していた。

「くっ……」

 武闘家が呻く。オブリは至近距離で魔法をぶっ放す。巨大な灼熱しゃくねつの柱、それが男に襲い掛かる。

「ぐわあああああ」

 武闘家の悲鳴が響き渡った。そしてすぐさま、跳ぶ。今度はドレスだ。ドレスに向かって体当たりをかます。

 ドレスは吹き飛ぶ。

 最後に修道女だ。オブリが僧侶に向かい、魔法詠唱を始めた。

 だが、すぐさま強烈な衝撃がオブリを襲い、詠唱は中断せざるを得なかった。

 武闘家の拳がオブリにめり込んだのだ。オブリは吹き飛ぶ。その時、オブリが持っていた二つの金属が床に落ちる。

 オブリは焦燥と絶望を感じた。あの二つの金属は、今では唯一の希望であるのだ。

 ともかく体勢を立て直す。オブリは飛ばされながらも回復魔法を行使していた。

 そして、武闘家を見る。あの至近距離で火炎魔法を喰らったのに……無傷……? いや、おそらくは後方にいた僧侶の回復魔法で、無理やり耐えたのだろう。

 どうすればいい。オブリはもはや勝ち目を見つけられないでいた。ともかく攻撃を。そう思ったが今度は鋭い風がオブリの体を切り刻んでいく。ドレスが何らかの魔法を使ったのだろう。

 もう、過去へ戻るしかない。オブリはそう思った。そう思ったが、グオチージンはオブリから離れた場所にある。あれに触れなければ……

 オブリは跳ぼうとした。だが、叶わない。

 武闘家の拳。それが眼前にあった。

 避けられない。激しい痛みが全身に走る。

 オブリは再び吹き飛ぶ。

 畜生。畜生。オブリは心の中でそう呻いた。

 続けざまに、火炎がオブリを包む。

 ドレスの魔法と男の拳が交互に繰り出され、そして、オブリの攻撃は僧侶に防がれるか、あるいは回復でカバーする。勝ち目など無かった。

 オブリは我武者羅がむしゃらに跳んだ。だが、それも武闘家の男に捉えられている。

 武闘家がオブリに近接している。拳だ。また拳が飛んでくる。

 が、だが。

 その拳が飛ぶより早く、氷の刃が男を襲った。

「あ?」

 武闘家は不思議そうな表情を作った。氷の刃は彼の胸にブズリと突き刺さっていた。

「な……」

 彼は声もなく倒れ込んだ。

「え、どういう事よ!」

 ドレスが叫んだ。それと同時に別の声も聞こえた。

「ドレス、皆、逃げろ!」

 男の声が背後から響く。オブリが振り返ると、白髪の男が走ってきていた。

 知らない男だった。いや、確か前回会っている内の一人か! 白髪の男はドレスの元へと走っていく。

 だが、それは叶わなかった。白い光が矢のように伸び、男の頭部を割砕する。一瞬だった。頭を吹き飛ばされた男は襤褸布ぼろぬののように、床に崩れ落ちる。オブリは何が起こったのか理解しようとする。あの男は……人間、つまり、ドレスの仲間、勇者一行? という事はつまり……

「何でよ、何でよ……」

 ドレスがうめいた。

「オブリ、またせたな」

 声。女性の声。朗々ろうろうと響く声。

 声はソヨンのものだった。右手には男の首がある。その顔には見覚えがあった。勇者だ。勇者の首だ。

「さすが余の側近、勇者の仲間相手三人によくぞ持ちこたえた」

 そして声がもう一つ。それは魔王のものだった。

 魔王は何かを放り投げた。それは、――それも人間の首だった。

 それにも見覚えがあった。幾重もの鎧に身を包んだ戦士のものだ。

 つまり魔王側が勝利したのだ。人間を下したのだ。勇者を倒したのだ。

「嘘よ!」

 ドレスが叫ぶ。あとは、あのドレスと、もう一人の非力そうな女を殺すだけだ。

 簡単な話だ。しかし、急いで確実にやらねばなるまい。ドレスは時間を巻き戻せる。それだけは阻止しなければ。

 オブリは魔法詠唱に入る。ソヨンや魔王も同じだった。

「させないわ!」

 あと一人の女修道女、そいつが叫び、手に持っていた杖を魔王へ投擲した。

 悪あがきを……とオブリは思った。完成した魔法、氷雪魔法をその女へ向けて放つ。

 だが、その女は、ソヨンへと突っ込んでいく。オブリの氷雪魔法はかすめた程度に留まった。だが、魔法詠唱しているソヨンや魔王へと突っ込んでいくのは自殺行為はなはだしい。

「ドレス、後は頼みました! あなたならやり直せるでしょう!」

 それがその女の最後の言葉だった。

 自殺行為はなはだしい、ではなく、彼女は初めから自殺するつもりだった。

 まずい。そう思ったが、遅かった。突如巨大な爆発が襲う。オブリは吹き飛ばされた。あの僧侶が如き女だ。あの女が何か、強力無比の魔法を唱えたのだ……自分の身とエネルギーと魔力全てを放出する自己犠牲の魔法を。

 魔王やソヨンは? あの二人は生きているのか?

 オブリとは異なり、二人は至近距離で受けたはずだ。……自己犠牲をするほどの、強大な魔法……。ソヨン……アイリス……。だがオブリはもはやソヨンや魔王を気に掛ける余裕はなかった。

 声が聞こえた。呟くような小さな声。

 魔法詠唱だ。

 ドレスだ。ドレスが何らかの魔法詠唱に入った。それはつまり時間遡行そこうだろう。

 それはさせてはならない。対策される。また、あいつらは殺しに来る。おそらく魔王城の構造を既に把握しているのだろう。より効率的に、あいつらはやってくる。仲間を増やすかもしれないし装備を整えるかもしれない。阻止しないと。それだけは阻止しなければ!

「グオチージンよ!」

 ドレスが叫ぶ。遅かった。もはや遅い。

 オブリは床を見渡す。先の爆発で視界は悪い。

「【我が命に応え、時を遡れ!!!!!!!】」

 その時光がぼうと現れる。一つはドレスから。グオチージンの輝きだろう。

 そしてもう二つ。床から。それは……オブリが持っていたグオチージンか、あるいはオリハルコンの正四面体。どちらがどちらか分からなかった。ともかくオブリは跳ぶ。光の方へ。

 床に着地しそれを拾う。

「ふふ……私の魔法が、……オリハルコンと時の金属合金の効用をより際立たせる。そして……あなたのその合金、私の合金、たぶん共鳴ね。私の魔法と二つの合金。この三つの合わさりは、どれくらいさかのぼるのかしら? 私の魔法はとただの時の金属であれば、二時間程度しか戻らなかったわ。そしてあなたは、オリハルコンと時の金属の合金で二時間程度しか戻らないとあなたが言ったわ……過去のね。二時間しか戻らない合金と魔法の共鳴で一週間以上時を遡ったの、さて、今回はどれくらい時間が戻るのかしら?」

 ドレスの体が光り始める。オブリの体が光り始める

「やめろ……」

 違う。オブリの持っているのは合金ではない。純正なオリハルコンだ。それが反応している。想像ができなかった。二時間戻る代物が、ドレスの魔法を使えば一週間という時間を遡るのだ。今オブリが持っているのは、グオチージンとの反応で十日をも時間遡行そこうできるオリハルコンだ。

「今度はどの程度時が戻るのかしらね」

 再びドレスが呟く。その声は怨嗟えんさに満ちていた。憎しみだ。

 それはオブリも同じだった。全く、想像ができない。どれほど時間が戻るのか……二か月? あるいは一年? それ以上の時間遡行そこうか?

「……! え……時が戻らない? いや、それに三つ? 共鳴が三つ?」

 ドレスが狼狽うろたえる。そう、もう一つの光。グオチージンの純正正四面体。ドレスの持つ合金と、オブリが床に落としたグオチージンの純正金属、そして今オブリの持つオリハルコン。この三つが反応を起こす。共鳴を起こす。

 そして景色がゆがむ。くる、時間遡行そこう、巻戻り、押し戻される。

「何だこれ……」

 オブリは愕然がくぜんとした。

 始まらなかった。時間遡行そこうは始まらない。

 いや、おかしい。何度もグオチージンで時間を巻き戻したオブリだったが、これは今までの時間遡行そこうとは異なる気がした。

「何だこの光景」

 目の前に風景が映し出される。オブリとドレス、そして僧侶、武闘家の男が戦っている光景だ。それが逆再生で繰り広げられている。

「何これ……」

 ドレスも愕然がくぜんと呟いた。

「時間がさかのぼっている?」

 確信はなかった。本当に遡っているのか? 

 さらに風景がゆがむ。

「あれは……」

 オブリとソヨンが楽しそうにお喋りをしている。オブリと魔王アイリスが今後の方針を話し合っている。オブリとドノヴァが紅茶を飲み談笑している。

「ボクの過去?」

 オブリが今まで経験してきた映像が矢継ぎ早に流れていく。それはドレスも同じであるようだった。眼前の風景が揺らぐ。ドレスが勇者と楽しそうに話している。ドレスがあの重装備の戦士と喧嘩けんかをしている。

「私の過去?」

 ドレスはうめいた。

 オブリは火炎魔法を唱えソヨンを驚かせている。オブリはドノヴァと一緒に魔王城を目指していた。オブリはドノヴァに出会った。オブリは旅に出ることを決意した。オブリは長老と話している。

 オブリは、今誕生している――

「ボクの誕生……」

 ドレスは戦士と話している。ドレスが火炎魔法を唱えモンスターを蹴散らす。ドレスは買い物をしている。ドレスは氷雪魔法を練習している。ドレスは勇者と出会った。ドレス五歳の誕生日、ケーキを食べている。ドレスは優しい女性に抱かれている。ドレスは今生まれている。

「私が……生まれている?」

 記憶がさかのぼっている。それは理解できる。

「生まれるところまでの……いったいどういうこと?」

 ドレスが呟く。

 生まれるところまで? だとすれば、まだ終わりではない。ドレスはここで終わりだろうが、オブリにはまだ残っていた。

「え?  なにこれ」

 ドレスが茫然ぼうぜんと指さす。ゆがむ風景。

 あるスライムがは自殺した。そのスライムは誕生した。スライムが殺された。そのスライムは誕生した。スライムが死ぬ。そのスライムが誕生する。スライムの今まで百二十六回の人生が、風景の中に流れていく。殺されては誕生し、殺されては誕生し、殺されては……

「ボクの人生だ」

 悪夢のような人生だ。

「あなたの?」

「ボクは……今まで、百二十六回人生を繰り返してきた。何度も何度も殺される……ただそれだけの人生を。あるときは目の前で両親を殺され、あるときは、娘を殺され、妻を兄弟を息子を……殺された。あるときは……仲間であるはずの魔物にさえ殺された……そんな最弱スライムの、百二十六回の人生、そして今が百二十七回目の人生――」

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