第3話 アノ・モニカ・ラム
『名前』を付けるというのは、いかがでしょうか?
「なまえ?」
「はい、うっすらとした記憶ですが…私が昔住んでいた地には、名前で呼び合うという文化がありました。」
黒犬は遠くを見つめながら説明をします。
「月夜ノ村の皆さんは、種族でお互いを呼び合っていますよね。それとは別に呼び方を決めるのです。その方を区別して表す呼び方と言えばいいのでしょうか。」
黒犬は、なんだか少し悲しそうな目をしています。
「それいいな~。僕も名前欲しい。」
そう発言したのは、たぬきでした。
たぬきは、名前に興味を持って目を輝かせています。
そんなたぬきの横でうさぎも言いました。
「わたしも!名前欲しい!」
名前の存在を知っている者も知らないものも、子猫達の名前候補や自分の名前を考え始めます。集会所の動物たちは、みんなが名前というものに魅力を感じていました。
「ね!黒犬さんは何ていうお名前なの?」
みんながぶつぶつと名前の候補を口ずさんでいる中、うさぎが黒犬に近づいていきます。
ちょこんと黒犬の横に座り、その顔を見上げます。
「私の名前ですか。それが、思い出せないのです。」
「あ…記憶が無いって言ってたね…ごめんなさい。」
ペコっと頭を下げて、うつむくうさぎ。
そんなうさぎの頭を撫でながら、黒犬は優しく言います。
「気にしないでください。それより、名前を考えましょう。」
うさぎは、ぱっと明るくなりました。
「うん!」
集会所では、次々に動物たちの名前が決まっていきます。
特徴を表す名前、好きな物や事から文字をもらってつくった名前。
みんな素敵な名前を付けていきます。
「僕も決まった!僕の名前は『ぽん太』」
「たぬきくんらしい、名前だね~。なんか可愛い。」
可愛いと言われ照れるたぬき。
「うさぎちゃんは?名前決まった?」
「決まったよ!私の名前は『優雨』」
「ゆうさ?」
「うん!うさぎって呼ばれてきたから、響きを残したくて。それと、優しい雨が大地を潤す様に、みんなに良い影響を与えられる存在になりたいなーって。」
たぬきがぽーっとうさぎを見ていると、うさぎは「なんてね」と冗談交じりに笑いかけました。
「お父さん!お母さん!私たちのナマエは?」
「可愛い名前がいいな…」
「呼びやすいのがいい~」
3匹の子猫達は、早く名前が欲しくてソワソワしています。
「う~ん、名前を付けるって難しいなぁ…。」
「とても大切な事ですしね…。」
猫のお父さんとお母さんは、中々決められず迷っています。すると、赤いリボンをつけた長女が言いました。
「黒犬さんにつけてもらおう!」
長女は、今までに無いほどに目をキラキラと輝かせ、その視線を黒犬に向けました。長女はじーっと黒犬を見つめています。
「大切なお名前ですよ。お父さんとお母さんにつけてもらいましょう。」
黒犬は、猫のお父さんとお母さんの方へ視線を向けます。
「いや、もし良かったら、黒犬さんがつけてくれませんか?」
お父さんとお母さんはアイコンタクトを取り、頷き合っています。
その様子を見ていた黒犬も頷き、3姉妹と向き合います。
「白猫さん、三毛猫さん、何か候補や希望はありますか?」
黒犬の質問に対して、母猫が答えます。
「娘たちが、明るく楽しく生活していける、そんな名前を付けていただきたいです。」
「わかりました。」
「では、こんなお名前はいかがでしょうか?」
黒犬は3姉妹の名前をお父さん猫とお母さん猫に伝えました。
それを聞いたお父さん猫とお母さん猫の表情がぱっと明るくなりました。
「みなさん、娘たちの名前が決まりました!」
お父さん猫が立ち上がり言うと、集会場に拍手が起こりました。
みんなの前に、子猫達が順番に出てきて挨拶をします。
まず、はじめに出てきたのは赤いリボンを付けた長女。
長女は、とても賢く礼儀正しい子。いつも妹たちの面倒をよく見ています。
何かに夢中になると視野が狭くなる時があるのが、たまにキズ。
ハキハキとした口調でいつも元気な明るい子です。
「アノです!」
ぺこりと頭を下げるとチラッと黒犬の方を見ました。
次に出てきたのは、青いリボンを付けた次女。
次女は、慎重でちょっとネガティブな面がある子。とても優しい子だけどたまに毒舌。語尾が消えそうになる話し方が特徴的です。
「モニカです…。」
誰とも視線を合わさないようにして、ぺこりと頭を下げます。
最後に出てきたのは、黄色いリボンを付けた三女。
三女は、食いしん坊でマイペース。周りを明るく楽しくする存在。滅多に怒らないけど、怒った時は、周囲をびっくりさせる力と行動を見せます。
語尾が伸びる、のんびりした話し方をします。
「ラムだよ~。よろしくね~。」
周りを見ずに、がぶりと肉にかじりつきます。
その日、動物たちは夜遅くまで名前の話で盛り上がりました。
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