第9話 神様

「うーん…」


紫のあひるは丸くなって眠っていました。


「あれ?なんでお布団の上で寝てるの?」


目を覚ましたあひるは、草のベットの上にいました。


「起きた!」

「あひるが起きた!」

「よかったー!」


カラスたちはむらさきのを囲んで声をあげています。


「ん?」


きょとんとしているあひるに、カラスが声を掛けます。


「あひる、ごめん!」

「ごめん!」

「ごめん!」


あひるは、さらにきょとんとしました。


「俺たち3人で話したんだ。」

「今まであひるにしてきたこと、花にしたこと。」

「とてもつらい思いさせてたって気づいて…。」


あの日、1羽のカラスの言葉をきっかけに自分たちの行いを反省していました。

あひるはカラス達を許しました。


「これからは、仲良くしようね!」


「うん!あひる、ありがとう!」


そう言えばここはどこなんだろう…

少し考えると、あひるは、自分がいつもの空き地に居ることに気が付きました。

テントの中ではあるけれど、空き地の土の感触にいつもの風の音…


「お花さんは!?」


カラス達は外の方を指さしました。

テントから外に出ると、白い花が風に吹かれてゆっくりと揺れていました。


「あひるさん、おはよう。」


白い花の姿を見たあひるの目には涙が溢れました。

いつもより早い足音でペコペコと白い花の元に駆けていきます。


「あひるさん、三日も寝てたのですよ。」


あひるは白い花の声を聞きながら、うわんうわんと声をあげて泣きました。


「良かった…良かったー!」


あひるは白い花から、話を聞きました。

あひるが空中に止まって助かったこと、カラス達がきてテントをつくり介抱してくれたこと、カラスが泣きながら謝ってきた事。



あひるは泣き声で言いました。


「ワタシ、神様に会えなかったのに…」


「あひるさん、あひるさんが届けてくれた本にこう書いてありました。」


白い花は神様の本について話し始めました。


「神様はとっても大きい存在で、みんなの事をすぐそばで見ていてくれます。」


「すぐそばで?」


「はい。あひるさん、大きなものがすぐ近くにあったら一部しか見えないでしょう?」


「うん」


「神様もそれと一緒みたいです。私たちはもう神様に会っているんです。」


「もしかして!」

あひるは、ぐっと頭を持ち上げ空を見上げました。


「そう、この空は神様の心の一部なんですよ。」

「あひるさん、もう意地悪もされなくなって、これからカラスさんとも仲良く出来そうではないですか?」


「出来そう!」


「神様は、ずっと近くであひるさんを見ていてくれたのですよ。そして優しい頑張り屋なあひるさんを守ってくれたのですよ。」


白い花は優しくゆっくりと揺れていました。


「今日は、ぽかぽか暖かくて風も心地よいですね。」

「あひるさん、もうひと眠りしませんか?」


「うん!」

あひるはこれ以上ない笑顔で返事をしました。



心地よい風が吹く昼下がりの時。

大きな青い空の下、4羽と1輪の花は仲良くお昼寝をしています。

穏やかな風が運んでくる、幸せな未来を感じながら―。








こんな話を知っていますか?

人間たちの知らない、山々に囲まれた地に、動物たちが暮らす村があります。

その村のはずれにある郵便屋さんでは、珍しい紫のあひるとカラス達がたくさんの幸せを運んでいます。

そしてそのお店では、優しい声で話す白い花が受付をしているそうです。


                                 END

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