第8話 紫白
紫のあひるは地上へ向かって一直線に落ちていきます。
時間をかけて飛んできた空の道も落ちるのはとても早く、あひるには一瞬にも感じられました。
見る見る迫ってくる地面をぼんやりと眺めるあひるは、この先どうなるのかどうすればいいのか、考えられないほどに疲れていました。
『村が見える…このままだとどうなるのかな…』
「!?」
あひるがそんな事を思っていると、いつもの空き地が近づいてきました。
そこであひるは気が付きました。
「そんな、どうして!」
「どうして、神様…」
あひるの顔が険しくなりました。
何もできずにどんどん加速して落ちていくあひる。
そして、落下するであろうその場所には…白い花。
『お花さんが潰れちゃう』
あひるは強く体に当たる空気を吸い込み、叫びました。
「逃げて!」
白い花は動けない。そんな事も判断できないほどにあひるは疲労し、また取り乱していました。
その声で、白い花はあひるに気が付きました。
白い花は真っ逆さまに落ちてくるあひるを見て、すぐに状況を理解しました。
「そんなになるまで、頑張ってくれたのですね…」
白い花は、一言つぶやくとで覚悟を決めました。
「だめー!!」
あひるの目に入ってきたのは、大きく葉っぱを外側に広げる白い花の姿でした。
それはまるで、あひるを受け止めるために両手を広げているようでした。
誰が考えてもわかる結果。強制的に近づく不幸をまえに、それでも何とかしようとあひるはあがきました。
最後の力を振り絞り、羽を1度だけ動かす。
あひるは、身体を少しだけ横にずらしました。
あひるは目を閉じ、地面に落ちる瞬間を待ちます。
「これで…大丈夫…」
安心したあひるの体から力が抜けていきます。
白い花の横に落ちるその時まであと3秒
白い花は、あひるの落ちる方へ葉を伸ばします。
2
届かないとわかった白い花は、助けられない悔しさ、別れが来る悲しさ、今この時から逃げたい気持ち、あきらめたくない気持ち、様々な思いでごちゃごちゃになっていました。
1
その時 ―
真っ逆さまに落ちてきたあひるの体がまるで時間が止まったように地面すれすれでピタッと止まりました。
そして、あひるはそのままゆっくりと地面に降りました。
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