第2話 赤・青・黄

「ただいま」


黒犬のところに出掛けていた、白猫のお父さんが帰ってきました。


「どうでした?」


「明日、村の集会があるだろう?そこに子供たちを連れてきてほしいってさ。」


歩き疲れた様子の白猫のお父さんが、椅子に座りながら続けます。


「そこで解決してくれるから、お前達も一緒に来るといいよ。」




翌日―。

集会場には、村の動物たちが集まっていました。

村の現状について、教育について、災害対策…村に必要な事をみんなで話し合っています。話し合いが終わると、動物たちは晩酌を始めました。

中には、これが楽しみで来ている動物もいます。みんなでわいわいと交流を深める。これも大切な事。


「皆さん、ちょっと良いですか?」


そう切り出したのは、白猫でした。


「みなさんもご存知の通り、家には見た目がそっくりな3人の子供がいます。最近、親である私も見分けがつかず、困っています。」


よっこいしょと立ち上がる白猫。


「今日は、この場を借りて黒犬さんに解決してもらおうと思います。」


そう言うと、周りからも同意の拍手が起こりました。


「それは良い!俺は毎日間違えてるからな!」

「それと、呼び方を考えよう。みんな『白猫ちゃん』だとわかりにくい!」


ガハハと大きな笑い声をあげて、熊が言いました。

まっ茶色の毛の下の皮膚は真っ赤に染まり、酔っているのが良くわかります。


「よし、みんな入っておいで!」


白猫のお父さんが、集会所の入り口の方を向き、手招きをすると、3匹の子猫達が部屋の中に入ってきました。

てちてちと歩いてくる、その姿に黄色い歓声があがります。


「かわいー!」

「よっ!待ってました!」

「月夜ノ村のアイドル!」


3匹の子猫は、村のみんなに可愛がられていました。村で初めて生まれた子猫達は、みんなの子供同然でした。


「こんばんは!」


行儀よく挨拶をして、堂々とみんなの前に座ったのは、長女。


「こんばんは…。」


そんな長女に隠れながら、小さな声で挨拶をしたのは、次女。


「ねぇ?これ食べて良い~?」


挨拶もせずに食べ物に手を付けたのが、なんともマイペースな三女。


「もう!挨拶くらいしなよ!」


長女に怒られても、気にせずお肉を頬張る三女に、集会場の動物たちは大笑い。

そんな笑い声の中、スッと3匹の前に影が現れました。その影はみるみる変化して、犬の形になっていきます。影から生まれたのは、黒犬の魔法使いでした。


「白猫の三姉妹さん、はじめまして。」


深々とお辞儀をするそのしぐさは、まるでミュージカル。

低く甘い声に集会所は音を失います。まるでその声がその空間を支配しているかのように。


「確かに、そっくりな子猫さん達ですね。」


黒犬は、笑っているようで笑っていないような、悲しげな笑顔で三姉妹を見渡しました。そして、空中に何かを浮かべるように手を差し出し、胸の高さから顔の高さまで手をゆっくり持ち上げます。

すると、空中に3つのリボンが現れました。色は赤、青、黄色。

3つのリボンは、ふわふわと空中に浮いています。


「黒犬さんこれは?」


白猫のお父さんが黒犬に問いかけます。


「魔法のリボンですよ。これを付けていれば誰でも見分けがつくと思います。」


「失礼ですが、黒犬さん。リボンは試した事があるのです。ですが、すぐに取れてしまったり、娘たちがとってしまったりで…」


白猫のお父さんは、申し訳なさそうに言いました。


「リボンすぐに取れちゃうの!」

「リボン…毛が絡まっちゃって嫌だな…」

「リボンかゆい~」


白猫の子猫達は、それぞれ不満を口にしました。

三女は身体をカリカリと掻いています。


「大丈夫ですよ。魔法で出来ているので、取れることもありませんし、重さもありません。視覚的に判断できるだけです。」


そう説明しながら、黒犬は空中のリボンに手を重ねます。すると、黒犬の手はリボンを通り抜けました。リボンはその場にふわふわと浮いています。

おお~と歓声が上がりました。


「すごいですね!それなら大丈夫そうです。」


白猫のお父さんは笑顔になりました。その横で長女は目を輝かせ黒犬を見ていました。


「では、付けますね。」


スッと手を子猫達に向けると、リボンはそれぞれの首にピタッとくっつきました。

長女には、赤のリボン。次女には、青のリボン。三女には黄色のリボン。


「これで見分けがつくな!あとは呼び方だなぁ!」


また熊が、ガハハと笑いながら言いました。


「呼び方…ですか?」


「はい、白猫と呼ぶと3人とも来てしまうのです。」


白猫のお父さんは、また困った顔をしました。


「ああ、この村では種族や特徴でお互いを呼び合っていましたね。」


「では、こんなのはどうでしょう?」


黒犬がある提案をしはじめました。


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