第3話 落とし物
紫のあひるは、毎日毎日空き地に通いました。
楽しくおしゃべりをしたり、お花のお手入れをしたり、お昼寝をするだけの時もありました。
あひるにとって、その全ての時間が、楽しくて幸せでかけがえのない時間でした。
その時間があるから、あひるはカラス達にいじめられても平気でした。
ある日、あひるがいつものように空地へ行くと、白い花が少しソワソワしています。
「お花さん、どうしたの?」
「あ!あひるさん。こんにちは。」
「こんにちは!」
「昨日の夜、空き地の隅っこに、何か落ちてきたのです。」
「私は歩けないから、あひるさん見てきてもらえますか?」
お花は葉っぱを空き地の隅に向けてひらひらと動かしています。
「なんだろう?見てくるね。」
何もない空き地の隅には、1冊の本が落ちていました。
とても重くて、とても難しそうな本。
あひるは両手でその本を抱えると、ペコペコとお花の元に歩いて戻ります。
「見て!こんなに厚い本!」
「すごいですね。あ、この本少し汚れちゃってますね。」
白い本には、空き地の土がついて茶色くなっていました。
「大丈夫!」
あひるは自分の羽を一本抜きとると、パタパタと土を落とし始めました。
「お掃除は得意なんだよー。」
パタパタパタ…
土を落としていると、空から声がしました。
「こんなところにありましたか…」
空から、2人の前に現れたのは、黒い毛に黒いマジシャンハット、スラっとスタイリッシュな体つきで目つきの鋭い犬でした。
「この本は、黒犬さんの物なのですか?
昨日の夜、空き地の隅に落ちてきたのですが。」
「そうでしたか…。ふくろう便に頼んだ本が届かなかったので、この水晶を使って探しに来たのですよ。」
白い花がしゃべることも、あひるが紫色な事にも驚かず、黒犬は淡々と言いました。
「あひるさんは、落ちた本を奇麗にしてくれていたのですね。ありがとうございます。」
黒犬は帽子をとり、深々とお辞儀をしました。その様はまるでミュージカルを見ているように、美しい動きでした。
「まだ、少し汚れているけど…」
あひるは、分厚く重い本を黒犬に手渡します。
「黒犬さん、それは何の本なのですか?」
白い花は本に興味がありました。ずっと空き地にいる花は本を読んだことがなかったからです。
「これは、神様について書かれている本ですよ。」
「神様?」
「ええ、読み終わったら。お貸ししますね。」
マジシャンハットをかぶり直しながら、黒犬が言いました。
「本を拾ってくれたお礼と、本を奇麗にしてくれたお礼に、願い事が叶う魔法を二人にかけていきますね。今日の夜までに願ってみてください。では。」
そういうと、黒犬は青い空へ吸い込まれていきました。
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