第4話 ことりの嘘

「もうすこしで森を抜けられるね!」


こいぬはことりに話し掛けました。


「・・・・・」


ところが、ことりからの返事がありません。


「ことりさん?」


こいぬがことりの様子を見ようと上を向いたその瞬間

バサッ。

ことりが地面に落ちてしまいました。


「ことりさん!どうしたの!?」


慌てるこいぬを見上げてことりが言います。


「こいぬさん、こいぬさん、私はもう、飛べなくなってしまいました。」


「え?」


「どうやら、私も友達と同じ病気にかかってしまったようです…」


ことりは地面に落ち、横たわったままぐったりとしています。


「もしかして…ずっと調子悪かったの?」


静かに頷くことり


「なんで、なんで言ってくれなかったの!!!」


ことりは自分の最後がわかっているようでした。だから今、全てを打ち明けます。


「こいぬさん、出会ったときのことを覚えていますか?」


小さく頷くこいぬ。


「あのとき、私は一緒にたからものを見たいと言いましたよね。でも本当は、この森に来たかったのです…」


「どういうこと…?」


「私は死ぬつもりでした、失った大切な友達と同じこの場所で…」


「でも、こいぬさんと旅を続けていくうちに、私の目的地も変わってきました。この森から、この森の向こうへ…」


「こいぬさん、あなたの存在が私の生きる意味になっていったのです。」




ことりの声はどんどん弱々しくなっていきます。


「こいぬさんはやさしいから、私が病気とわかったら、引き返したでしょう。せっかく険しい道を進んできたのに。私はあなたの枷になりたくなかった…」


ことりの弱々しい声に、こいぬの鼻をすする音が混じります。


「もう、私は死ぬのでしょう。やさしいあなたは涙を流してくれるでしょう…」


もうことりの声はほとんど聞こえません。

こいぬは大声で叫びました。


「やだよ!やだよ!!」


「こいぬさん、約束してください、必ずあなたの宝物をみつけると…」


ことりはもう動きません。

こいぬの言葉にならない想いが涙になって流れます。大声をあげて、ひとしきり泣いた後、こいぬはつぶやきました。



「やくそく…するよ…」



こいぬは走り出しました。森の向こうを目指して。

走って走って、宝物をさがすため。

走って走って走って、ことりとの約束を守るため。

ただただ、がむしゃらに走ります。

本当はなぜ走るのか、こいぬにもわかりません。

もちろん、約束のためでもあります。

でもそれより、走らずにはいられなかったのです。

片腕が動かなくなっても、しっぽが切れても、こいぬは走りました。

走って走って走って走って、森を抜ける頃には、こいぬはボロボロになっていました。


森を抜けた先、そこは一面、黄色い大きな花が咲くお花畑でした。

いくつもの太陽が折り重なった様なその景色は、誰もが足を止め、見入る程に美しいものでした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る