第2話 三日月


楽しい時間は、あっというまに過ぎていきます。


「今日も楽しかったね!」


「うん」


2人は笑顔いっぱい、学校から出てきました。

2人の共通の楽しみは、学校ともうひとつあります。


「今日は1日天気が良いって!たぬきくんもいつものところにいく?」


うさぎは空を見上げて耳をピクピク動かしています。


「うん!」


同じく空を見上げながらたぬきが答えました。

公園の小さな丘の上にある、村で一番大きな木。

2人は、その木の下で星空を眺めるのが大好きでした。


「じゃあ、今夜いつもの場所で!」


夜に丘の上で会う約束をすると、2人はそれぞれの家に帰って行きました。





「ん~!いい天気だなぁ~」


夜になり、星が輝く空の下、先に丘に来たのはたぬきでした。

丘に上がり、木を背にして見上げる空。

遮るものは何もなく、手を伸ばせば星に手が届きそうな場所。

しかし、たぬきは大きなため息をもらしました。


「はぁ。でも今日は三日月かぁ…」


「毎日満月ならいいのに…」


明るい星空とは反対に、すこし暗い表情になったたぬき。


「なんでため息ついているの?こんな奇麗な星空なのに。」


後から丘を登ってきたうさぎが、たぬきに話しかけました。


「なんか、前の村の事を思い出しちゃって…」


「僕、星空は大好きだけど、三日月は嫌いなんだ…」


たぬきはうつむき、穏やかな風に揺れる草を見つめています。


「なんで?三日月、とても奇麗だよ!私は満月と同じくらい好きだよ。」


たぬきの横にちょこんとうさぎが座りました。


「奇麗なんかじゃないよ。三日月は僕と一緒なんだ。」

「明るい満月になれない、足りないだけの存在だよ…」


たぬきはうつ向いたまま、黙り込んでしまいました。

そんなたぬきの顔を覗き込んで、うさぎが少し大きな声を出します。


「またそんなこと言って!ウジウジしないの!」


夜風に吹かれ、丘の草花はサラサラと夜の歌を歌っています。


「ねぇ、明日は学校休みだし、どこか出かけようよ!」


たぬきが元気になるきっかけになればと、うさぎが提案します。


「どこにいくの?」


「うーん?どこがいいかなぁ?」


うさぎは手を顎に当てて考えます。


「たぬきくんは、行きたいところある?」


たぬきも顎に手をあて、少し首を傾けながら考えています。


「学校のみんなと話してた時に、行ってみたいなーって思った場所がいくつかあるよ。」


「え!どこどこ?」


ちょっと大げさにうさぎが聞き返します。

それは、ちょっとわざとらしさがありましたが、たぬきは気づいていません。


「むらさき色のあひるさんのところ!超能力が使えるんだって!」


たぬきの話す声が明るくなっていきます。


「あー、あひるさんは、この前話しかけたら無視されちゃったからダメかも…」


「じゃあ、猫さんのお家。3つ子の子猫ちゃんが生まれたんだって!」


「いいね!可愛いだろうな~。」


「うんうん!」


「あ、でも生まれたばかりじゃ、大変なんじゃないかな?」


「あ…そうだよね。じゃあ、黒犬の魔法使いさんのお家は?」


うさぎの目がキラキラと輝きました。


「魔法使い!?魔法が見られるかな?行ってみようよ!」


「うん!」


2人は魔法使いの家に行くことを約束して、お別れをしました。




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