12.帰宅

 翌朝。

 涼に食事をしっかり摂らせてから、まずは自宅に帰らせた。

 もちろん、俺と雅巳も念の為に尾行した。

 他に尾行している輩がいないか探りながらだが、今のところは大丈夫そうだ。

「あの人、うまく立ち回ってくれてるのかなぁ」

 不安そうに雅巳が見上げた。

「しばらく様子を見て、涼が気になるようだったら、もう直接出向いてしまうのが早いだろうけどな。ま、御島くんも、頭良さそうに見えて抜けてるから、安心できないだろうが……」

「ちょっとそれひどい」

 少し気が緩んだようだ。声音が軽い。


 ゆうべあれから、ネガを持って帰った神沢から電話があった。

「なんだ、電話とか使えるなら、いちいちいつも式神使ってんじゃねぇぞ」

 やや強気な口調で返したが、意に介さず、淡々と喋った。

「ネガ見て納得したみたいですよ。あなたのところの関係者だとも伝えたので、回りくどい真似をするのは無駄だと思ったようでした。別働隊の連中にすぐ撤収するよう連絡していましたし」

「てコトは、あんたもある意味振り回されていたんだな。場合によっては、俺らと関わりを続けてると思われてるかもだ」

「さすがにそれは困りますよ。その時はしっかり否定してくださいね」

 こんな感じでやり取りは終わった。


「なんというか……現状、互いに無駄ばかりだからな。狭い街ん中で、どうしても出会わないわけにはいくまいよ」

 仕方ないな、と少し遠い目を、涼の後ろ姿に向ける。

 涼は、まだ少し不安が残るのだろう、やや猫背気味にきょろきょろしながら歩いていた。

 まだ早朝、通勤の車も少なく、澄み渡った空気は、不審者確認には最適だ。

 そして、電話での話は嘘ではなかったらしい。

 いつもなら歩くにはやや遠い距離だったが、涼が自宅に辿り着いたのを確認して、俺たちは最寄りの駅へと向かった。

 そろそろ始発も出るはずだ、もう歩きたくない。

「まだ続くなら、協定でも結んだ方が面倒なくない?」

 ため息混じりに雅巳は呟く。

「やなこった、俺はあいつらみたいなの、苦手だ。ほっとけば老いていなくなるのはわかってるんだ」

 軽く息を呑むような気配がしたが、スルーした。

「俺らのコトも考えろよな」

 拗ねたように言って、再びため息を漏らす雅巳の肩をぽんっと叩く。


「ま、明日は明日の風が吹く、でいいじゃないか」


 俺は登りだした太陽を忌々しく睨んで陰へと滑り込む。


 いろいろもっと面倒くさくなるのは、もう少し先の話でしかないとはまだ想いもしなかった。

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闇の翼~Dark Wing~ 桐谷雪矢 @ykirry

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