10.別働隊
神沢は、訊いてもいないのに、あっさりと喋りだした。
「そのカメラ、うちで探していたんですよ」
「はぁあ?」
全員がうわずったような変な声を上げる。
「仕事中の隠し撮りをしていたカメラマンがいたのに気付いたのが、ちょっと経ってからでした。で、本人は見つけたのですが、肝心の写真がカメラごとなくなっていたんです」
ふむふむ、と俺たちははじめて聞くような顔で聞いていた。
「困ってまして、とりあえず、手に入れた人が写真を現像したらどうするだろうか、写ってるところを知っているなら見にくるんじゃないかと。なら、現場に張り込むにはどうしたら、と言う話になり、ああして出店を」
完全に読まれていた。
これはもう笑うしかない。
それにしても、雅巳より若そうなこいつが、フィルムカメラを知っているのも不思議に思ったが、これは雅巳が無知すぎるのか。
事情が今ひとつ飲み込めないままの涼が、え?え?と視線をあっちこっちさせているのに気付き、どう説明したらいいかと思案した。
なんたって、脳天気に異能種とか信じないと言い切っているわけで、ここは念入りに説明して説得納得を試みるより、涼の価値観に合わせる方が通しやすそうだ。
「写真が本命ってコトは、ネガごと渡せばおかしなコトもなくなるって解釈しちまってもいいのか?」
「おかしなコト?」
「ああ、こいつ、このカメラを買って、中に残ってたフィルムを現像したらしい」
神沢の顔色が変わった。
「そ、そのフィルムっ、今、持ち合わせてますかっ?」
こいつも動揺したりするのか。
少しイメージが変わった。
「う、う……」
俺は、うん、と肯定しようとしたのであろう涼を手で遮って止めた。
「その前に。あんたらはこいつのコトは知らなかったのか? 付け回されたりしてコワい思いをしているってな依頼を受けて、俺たち調べ始めたんだけど?」
神沢は、きょとんとしたが、すぐに眉をしかめた。
「……別働隊かも知れない……」
「別働隊……?」
そういえば、ここに写っている墨田くんとはあまり仲良くはなさそうだったっけか。
「僕は……だいたいもうわかってるでしょうが、まぁ、目立たずこそこそ情報収集をするんですが、別働隊は過激派というか、武闘派というか……先日亡くなった彼のようなメンバーばかりなんですね」
「じゃあ、こないだのヤツの仲間だか残党だかがやってたのか……」
俺は、涼本人から写真を交えて依頼内容を説明させた。
涼も無自覚に、ああいうのは都市伝説、と念仏のごとく口にするから、状況はわかってもらいやすいだろう。
神沢も飲み込めたらしく、じっくり柔らかく、差し障りのない問いかけを織り交ぜながら、コトのあらましを聞き出していた。
やがて暫しの思案顔のあと、ゆっくりため息を漏らす。
「僕は、泳がされていたのか……?」
神沢は、力なく呟いて、両手で顔を覆って項垂れた。
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