5.もどき

 とりあえず、俺の店は昼間使わないから、奥にあるテーブル席のソファで寝るといい、と涼に毛布を渡した。

「ありがてぇ、やっとぐっすり眠れそうだ」

「中から鍵かけられるから、戸締まり忘れるなよ。あと、電話の子機が鳴っても出なくていい」

 手を振って事務所を出るのと入れ違いに、ジョウが起き出してきた。

 せっかくのブロンドもぼさぼさで、そんなんだったらもっと短くしちまえと思うんだが、少し長めの方が自前で切りやすいとの雅巳の言葉に従っているらしい。

「お客さんいたっぽいから、待ってたんだけど、なに? 仕事?」

 腹減ったとぼやきつつ、さっきまで涼が座っていたところに腰掛けた。

「あ~……ジョウは留守番しててくれればいいよ。力仕事ないし……あ、隣の店に水希さん泊まってるから、合鍵で入れば?」

 涼が来ていると聞いて、じゃ、行ってくる、と珍しく空腹を訴えるより先にさっさと動いた。

 時々おごってもらっているようで、文字通り懐いているらしい。


 静かになった部屋で、でね、と雅巳が切り出した。

 置きっぱなしの写真を指先でとんとん叩く。

「マスターもコレ、気になった?」

 叩く指先のところに写っているソレ……駐まっている自動車の運転席に座っている人影。

「こないだの……墨田だっけ……? あいつだよね?」

 そう、いんちき霊媒師もどきの墨田くんだ。

 ヤツが写っていると言うコトは、霊人形の札騒ぎが起きる前……いや、御島のところにいた頃の写真なんだろうか。

「そりゃあ、こんな荒事が日常茶飯事だとしたら、あっちでも邪魔だったかもなぁ。知らんふりしてたけど、もしかして、手を焼いていて、俺らに投げた……?」

 うわぁ、なんかいやん~、とふざけてぷるぷる震えて戯けてみるが、ちょいとむかついたのも事実で、ちらりと雅巳を見遣った。

「どうしてくれようか……」

「マスターの好きにすればいいんじゃあ? て、ホントは面倒で放置したそうにも見えるけど」

 くす、と笑いを含んで肩を竦めた雅巳に、こっくり深く頷く。

「もう関わりたくないんだがなぁ……」

 ため息を漏らす俺に、雅巳がいたずらっ子のように笑った。


「今回は、こっちが関わってるの、知らないんじゃない? たぶん、わかったらすぐちょっかい出してきた気がするんだ。だから……」

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