6.現場

 俺は雅巳の運転で実際に撮影された場所を探すコトにした。

 なんとなくだが、見覚えがあったのだ。

「俺もなんとなく見たコトあるような気がするんだけど……こんなんじゃなかったような……」

 首を傾げる雅巳に、俺も不確かではあるんだな、と腕組みをして視線を窓の向こうに走らせた。

 駅前から線路沿いのそこそこ賑わう通りを抜け、少しずつ下町めいた路地へと流れる風景。右左折渋滞に何度も巻き込まれて、ようやく今日が週末だったと気付いたのは、自由業には仕方ないところもあろう。


「次の交差点で左に入ったとこをまっすぐ行くと、確か、小さい倉庫が並んでる一角があってさ。あれ、そこじゃないかと思ったんだよなぁ」

 記憶を辿るように、こっち行ってあっち曲がって、と指し示して確認する。

 思ったよりも通行人が多い。

「なんか若い子たちが多いねぇ」

 うぅん、と眉を寄せつつ呟く雅巳に、ああ、ほれ、と俺は顎を上げた。

「その先の倉庫の形、屋根の感じがいっしょだろ、ここらじゃないかと」


 絶えない人通りの向こう側へと回り込む。

 そこは確かに写真と同じ場所だった。

 港の近くの倉庫街。

 が、イメージがまったく変わってしまっていた。


 かわいい色とりどりのテントやら、いかにもテキ屋の屋台やらの出店が並ぶ、お祭り会場のようになっていたのだ。


「なんだここ……」

 目を眇めて見回す俺と、ああ、と記憶が合致したらしい雅巳。


「そういえばここ、最近話題のスポットになってるとこだよ。週末に、潮の香りがするマルシェ?だとかなんとかって。道理で人が多いんだ」

「まるしぇ?」

「市場みたいなモノらしいよ。若い子集めたいからって、スイーツ屋台なんかも多いんだって……そっか、ここかぁ」

 ほうほぅと頷いて、雅巳は駐車できる場所を探す。

「しっかし、手がかりもなにも、なさそうだな、これは。平日に出直すか」

 人混みを見てるだけで疲れ切ったと言わんばかりの声になる。

「マスター、単に昼間の日差しがイヤなだけじゃあ」

 笑いを含んで言う雅巳に、はいはい、とお手上げポーズで応えた。


「ちょっとアンテナの張りが悪くなってるなぁ……もしかしたら、ジョウの方がこういうとこ知ってたかも」

「ぴちぴちの若者が流行りモノ知らないとか、不味くね?」

「お年寄りと付き合ってるせいかも知れない……」

「ほほぉ? 言うようになったなぁ、雅巳ちゃん?」

 わああ、嘘うそ~っと笑いつつも、人通りが少ない方へとハンドルを切るその先へと視線を向けていた雅巳は、小さく「あ」と息を呑んだ。

 

「あれ、式神とやら使ってたヤツじゃあ?」

 聞こえはしないのだが、つい囁くように言う雅巳の視線の先に。

「なんだっけ? 神沢……だっけ?」

 陰陽師だかの式神使いくんだった。

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