8.訪問

 昼間のお天道様の下は、言い伝えのように俺を灰にしたりはしないが、それでも気持ちの良いモノではなかった。

 車に戻って店に帰り着くまで、運転している雅巳に、ごはん~ごはんが~と、ジョウよろしく愚痴を零してみたりする程度にはダメージがあった、というコトにしておこう。

 そして、そんな状態でごはん~と呻いていそうなジョウと、依頼人の涼のために、途中スーパーに寄り食材を買った。金は俺持ち、買い物と料理は雅巳だ。

 俺は飲み物までは受け付けるからわかるんだが、食べるモノに関しては味覚食感がわからないから、どうしていいのやら、なのだ。

 なので店にあるモノは、基本的に市販されている商品を盛り付け直すか、雅巳が暇なときに作り置きしてくれている。

 なんだかんだで持ちつ持たれつ、なのであった。


「ただいま~」

 店に帰ると再び施錠する。もちろん車を駐める頃からは、尾行されたりしていないか、周りへの注意は怠らなかった。

「遅い~、もう冷蔵庫、空っぽだぜぇ~」

 不満たらたらのジョウの声。

 しかし食材が詰め込まれた買い物袋ふたつを見ると、即座に尻尾を振っておとなしくなる忠犬のごとく、ぴたりと声が止んだ。

 雅巳がカウンターの調理台に乗せられた買い物袋の処理をはじめる。

 俺は黒板タイプのスタンドボードに『本日臨時休業』と書いて、こそこそっとドアの外に置きに出た。特に異常も変化もナシ。

 勝手知ったるなんとやらで、適当に調理場の鍋やら駆使してご飯を作る雅巳と、それをきらきらした瞳で見守るジョウは置いといて、まだ眠そうに毛布を巻いたり被ったりもたもたと弄る涼のいるテーブル席についた。


「なにかわかったん?」

 少しまだ目の下に隈を残して訊いてくる涼に、さて、と首を横に振る。

「まぁ、あの撮影された場所はわかったよ」

「たぶんあそこ、港の倉庫群だろ? 最近の流行スポットの」

 俺は大袈裟に首を竦めた。

「カメラマン舐めるなっての」

 なぁんだ、とソファ席に寝転がる涼に、まぁまぁ、と宥めるように取り繕う。

「なにか写真を撮った時の痕跡みたいなモノがないかと思ったんだよ。ほら、派手なバトルっぽかったし。でも、なんかイベント会場みたいになってて、出直そうかって話になってな」

「んあ~……もしかして、イベントやるような場所にケチが付くのがイヤで画像回収したかったんか? でも、それにしちゃあ大袈裟な……」

 言いながら、手でぐるぐると毛布を巻くように畳んでいた涼は、抱き枕よろしく抱きかかえた。

「ともあれ、平日の人がいない頃合いを見計らってまた行ってみるし、そのイベントやってるところも調べてみるさ」

 頷いていた涼だが、キッチンから食べモノのニオイが漂ってきた途端、瞳を輝かせた。

「あ、俺も腹減ってんだけど~っ」

 俺の背後、料理している雅巳に首を伸ばしてアイコンタクトを飛ばす。

「は~……」

 雅巳が返事をしかけたところで、どんどん、とドアを叩く音が響いた。


 臨時休業の案内は出してある、それでも続くノックの音。


「出てみるから、隠れて」

 涼にだけは手で身を潜めるように示し、雅巳たちには目配せする。

「は~い、今日は貸し切りで休みなんですけどぉ~?」

 呑気そうに言いながら、それでも警戒しつつ、ドアを開く……と、そこにいたのは見たコトがある姿があった。


「あんた……神沢くんの式神、さん?」

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