闇の翼~Dark Wing~

桐谷雪矢

第一話 邂逅or遭遇

バー「Dark Wing」

 公共交通機関が未発達で、自動車がないと移動が不便。

 その程度には田舎だが、駅前には飲み屋が乱立して繁華街が成立する程度には人口がある、どこにでもありがちな街。

 ここはそんな、都会のベッドタウン的立ち位置の街である。


 帰宅ラッシュを過ぎた頃合いの繁華街、と言えば聞こえもいいが、現実は駅周辺の飲み屋街なんてものは遅くまで酔っ払いの喧噪が絶えない。

 ましてや今は夏を前にした季節。

 気の早いビアガーデンには、ビール好きからビールにかこつけたナンパ目的野郎まで種々雑多な人々が集まっていた。

 乾杯に始まって、ねーちゃん酒遅いぞーと投げられる文句や注文、たまに起こる怒号とそれを諫める声。

 賑やかな彩りは、その周囲の闇を一層暗くする。

 明かりが届かないほんの先は、闇に慣れていない目には、何もないのと同じかも知れなかった。


 そんな繁華街の裏通りに、その店はあった。

 いわゆる「場末の飲み屋」というひと言で説明ができてしまいそうな店だった。

 気付く人はすぐに気付くが、気付かない人はおそらく説明されても

「その道なら毎日通勤で通ってるけど、そんな店、あったっけ?」

で終わってしまう。

 そうなるように意図して作られた訳ではないだろうが、結果としてそうなってしまったのは、周辺に溶け込む五階建てという高さのビルの半地下で、その上看板も手入れがされないままに煤けてしまっているせいかも知れない。


─── バー「Dark Wing《だぁくういんぐ》」


 少し避け合うようにしてすれ違える程度の狭い間口の出入り口。白かったであろう壁沿いに数段下りた突き当たりにある、木目模様のドアの向こうが、俺の店であった。

 店内に入ると、右側にカウンター席が八席、左側に四人掛けと六人掛けのテーブル席がそれぞれひとつずつという狭さだが、客数でいえば実際にはこの半分でも問題はなかった。

 店の売り上げで生活をしようと思えば、これくらいは入って貰わないとつらいのだろうが、俺の場合、生活の糧を全てここの売り上げで賄わなくても済むのが幸いだった。

 金持ちの道楽にも似た状態だ。

 のんびりグラスを拭いたり、タブレットでパズルゲームしたり、暇潰しに勤しんでいるというのが常だった。

 カウンターの背後には、戸棚で見辛い位置に1階に続く短い階段があり、その先の部屋に住んでいるせいもある。働いている感覚は特にないのだ。

 その日常にも、たまにイレギュラーが発生する。

 収入のメインは、そのイレギュラーから得ているようなものだ。

 そして今、ドアの上部に付けられたベルが、派手な音を立てた。


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