第16話 兄との参拝最終日
あれ? ここはどこだろう? 今日は乳神様と約束した今月最後の参拝の日だから早く起きなきゃいけないのに。
私は足元が白くモヤがかかったどこかに立っていた。地面が見えないからもしかしたら浮いているのかもしれない。背景は水色なので、それこそ空の上を思わせる。
「ほっほっほ」
すると最近では聞き慣れたその声が響いた。鼓膜にではない。直接脳に響くかのような女声だ。そして周囲を神々しく照らされたその爆乳の御方は現れた。
「亜澄よ」
「はっ! 乳神様!」
その御方は私にご利益を与えてくれる尊い乳神様であった。
「先週はよく兄と縁結びの願掛けを達成してくれた。感服したぞよ」
「滅相もございません」
と言いながらも、私がどれだけ恥ずかしい思いをしたと思っているのだと、内心悪態を吐いてみる。まさかのハート型の絵馬に打ちのめされて、それで仲良くお兄ちゃんと一緒に願掛けして、私はそれからお兄ちゃんを意識してしまっているのだ。
「亜澄を労って、今日はわしがお主に会いに来てやったぞ?」
「え? そうなんですか?」
「そうじゃ。ここはお主の夢の中じゃ」
あぁ、なるほど。つまりいつものように本堂の前でトリップしているのではなく、私の本体は自室のベッドの上で眠っていて、夢の世界に乳神様が来てくれたんだ。
「どうじゃ? 成長したじゃろ?」
「ん?」
私は自分の胸に両手を置いてみる。乳神様との会話で出る「成長」はおっぱいのことしかないから。私の服装はどうやら寝間着の軽装のようで、ノーブラだ。それを鷲掴みにして開いて閉じてを繰り返した。
「はっ! 弾力が!」
「ほっほっほ。これでお主は晴れてCカップじゃ」
「ははぁ……。ありがたき幸せ」
私は胸を鷲掴みにしたまま深く腰を折って乳神様に頭を下げた。増した弾力とぴったり手に収まるボリューム。それほど手が大きくない私だが、今までは胸を鷲掴みにしても手の中にすっぽり収まっていた。それが変化して感動だ。
しかし私が求めるのは手に余る大きさ。巨乳好きのお兄ちゃんの目を引きたいから、最低でも豊乳と言われるEカップ。もちろんそれ以上も大歓迎。だから乳神様に申し上げる。
「乳神様!」
「なんじゃ?」
「次はなにをすれば大きくしてくれますか?」
「なんじゃ、まだ足りぬか?」
「はい! 私の望みはまだ先にあります!」
「欲深い
「いえ、結構です。バストアップの教えを説いてください」
「……即答かえ。まぁ、良い。しかしそれ以上を望むのならば、今までのように甘くはないぞよ?」
「覚悟のうえです!」
なんて答えたものの、お兄ちゃんとハート型の絵馬で良縁の願掛けをするのはかなり堪えた。あれはどこからどう見ても恋人同士がするものだ。それ以降、お兄ちゃんと一緒にいるとどこかフワフワした気分になる。この御方の趣向に付き合ったばかりに、とほほ。
まぁ、それでも私がお兄ちゃんと一緒にいるのは止めないけどね。いつも仲良しさ。
「慣わしもムチャブリも比にならん程の試練を与えるが良いか?」
「もちろんです!」
怖いなぁ。またお兄ちゃんと兄妹の関係を超えたミッションが発令されるのだろうか? ドキドキが止まらなくなるからお手柔らかにお願いできないかなぁ? 火照ったようなこんな落ち着かない感覚になるのは初めてで、私は戸惑っているのだ。
「ほっほっほ。良い心掛けじゃ。では、今日の参拝で会えるのを楽しみにしておるぞよ」
あ、やっぱり今月最後の参拝は免除されないのね。まぁ、お兄ちゃんとはその予定を組んでいるからいいけど。その時に試練の内容を教えてくれるのかな?
「それではさらばじゃ」
そう言って乳神様は消えた。するとすぐに私は目覚めた。見上げる天井は真っ白で、私の両手は2つの乳房を鷲掴みにしている。あ、そうか。夢の中でこの状態になってから、嬉しさのあまりずっと離していなかった。
しかしこの感触にニンマリ頬が緩む。ベッドから起き上がり、パンツ1枚で全身ミラーの前に立つと、視覚でも成長が認識できて破顔する。周囲からは褒められることの多い私の顔が、今は気持ち悪いほど変態ちっくだ。
そしてこの朝も私はお兄ちゃんの運転で間々観音に行った。しかしこの愚兄と言う名の私の大好きなお兄ちゃんは、やっぱり私の胸に興味を示さない。シャツの中の授乳ブラに包まれた私のおっぱいは、服の上からでもわかるほど大きくなっているよ?
「参拝も今日で最後だなぁ」
狭小の駐車場から車を降りるとお兄ちゃんはそんなことを言う。もっと私を見てよ、もうっ!
「ご利益が続くといいな」
「ぶー!」
続いたんだよ、ご利益は。私のおっぱいは今やCカップだよ? どうやらこの兄は本当に巨乳しか興味を示さないらしい。もしかして豊乳でも効果がないとか?
いや、それはない。私が消したAVの中には確かにEカップの女優さんもいた。まぁ、このサイズが最低限だったけど。エロ兄め。
私は頬を膨らませて、いつものようにお兄ちゃんと間々観音の境内を順路に沿って回った。そして本堂の前まで到着し、合掌して目を閉じると早速トリップした。
「ほっほっほ。よく来たな、亜澄よ」
「ははぁ……。朝はわざわざお越しいただきありがとうございます」
「良い、良い。では今日より試練を与える」
「はい。その内容は?」
「それは言えぬ」
「へ……?」
なぜ? 言ってくれなきゃどうやって試練を乗り越えろと言うのだ?
「既に大宮女大神には協力を要請しておいた」
「ほえ? 三光稲荷神社のですか?」
「そうじゃ」
て言うか、仏閣と神社は世界が違うのでないか? 詳しくないのでよくわからないけど、なんかもう、なんでもありだな。
「亜澄は十分参拝をして、わしの望むままに供えもしてくれたな。じゃからここへの参拝はもうよい」
「え? いいんですか?」
「あぁ、用があればこちらから出向く」
また私の夢の中に来てくれるのね。
「時々またそちらの文化が読みたくなる故、お主の部屋の本棚に用意しておけ」
飽きたんじゃないのかよ。とは言え、時々恋しくはなるのだろう。その件に関して了解した。時々ラノベを買って、私の部屋に供えておくよ。いつでも勝手に付喪神様を吸い上げて。
「それでは試練を与えるので、励むのじゃ」
「え、ちょ、ちょ……」
なんて慌てている間に私のトリップは終わった。まったく。いつも一方的な御方だな。とは言え試練。しかも大宮女大神様まで関わるとは。
「終わった?」
「あ、うん……」
隣からお兄ちゃんに声をかけられて意識を戻す。私とお兄ちゃんはいつものように仲良く手を繋いで駐車場に向かった。やっぱりお兄ちゃんの温もりにフワフワする。今までこんなことってなかったんだけどな。
やがて車に乗り込み、車で狭い駐車場入り口を出た時だった。
「うわっ!」
ヒヤッとして私からは声も出なかった。お兄ちゃんの焦った声は耳に響いたが、私はすぐにゾクゾクっともする。なんと道路に出たところで人影が見え、その人影は私たちが乗る軽自動車の前で消えた。
倒れた? 接触した?
私がパニックになっていると、お兄ちゃんは急いでシフトレバーを操作し、シートベルトを外すと車外に出た。
「大丈夫ですか!?」
お兄ちゃんの張った声が車内にも響いてくる。焦りは消えてくれないが、それでも外の人影が心配になるだけの思考を私は取り戻し、私もシートベルトを外して車外に出た。
するとやはり人が倒れていた。若そうな男の人だ。私と同世代にも見える。
「大丈夫ですか?」
恐る恐る私も声をかけてみた。
「はい、大丈夫です。驚いてこけちゃっただけですので、ぶつかってはいません」
その言葉に凄く安心した。実際、怪我もしていないようだ。
すると四つん這いの格好だったその男の人は立ち上がり、パンパンと膝の埃を払った。そして爽やかな笑顔を向けるのだ。たぶんイケメン。まぁ、私には興味がないけど。
するとその男の人は私を見て目を見開いた。
「わっ! なんとお綺麗なお嬢さん!」
うげぇ……、なんだこの露骨でベタな展開。鳥肌が立つ。私にこういうのは無理だ。恐らく学校のキャピキャピした女の子たちならキャッキャ騒ぐのだろうけど。
とりあえずお兄ちゃんが何かあったらすぐに連絡をと言うことで連絡先を交換し、私を妹だと紹介して男の人とはお別れした。て言うか、なんで妹って紹介するかなぁ? 何も言わなければお連れの女って言うだけで虫よけ効果があるのに。
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