第30話 私の部屋に夜這い
お父さんのお盆休みに行った家族旅行。そこで私は念願叶ってお兄ちゃんと一緒にお風呂に入った。しかし私は衝撃を受ける。
男の人の大事なところってこんなになるんだ……。
グロテスクなその形とか、まさかの大きさとか、正直、ショックだった。しかしこれは私の裸を見て興奮してくれたってことだよね? それにその部分だけを度外視すれば、お兄ちゃんの裸にキュンキュンした私がいたことも事実だ。
そして寝る時は密着して隣同士に敷かれた2組の布団。1組は不要だった。なぜなら……。
「お兄ちゃん……」
暗くなった部屋で、私に背を向けるお兄ちゃんを呼ぶ。するとお兄ちゃんから弱い声が返ってきた。
「ん?」
「そっち、行ってもいい?」
するとお兄ちゃんから声は返ってこなかったのだが、お兄ちゃんは私から遠ざかるように私のスペースを空けてくれた。これに私は嬉しくなって尻尾を振ってお兄ちゃんの布団に潜り込んだ。まぁ、実際のところ尻尾は付いていないが。
布団に入ってから私はお兄ちゃんの大きな背中に額を預け、お兄ちゃんのお腹に腕を回す。夏の薄手の掛布団の下、薄い浴衣だけに身を包んだお兄ちゃんの体温が感じられてドキドキした。
するとお兄ちゃんがギュッと私の手を握った。ヤバい。いつもは私から手を繋いで歩いているのに、お兄ちゃんからこんなことをしてくれるなんて。お兄ちゃんの背中に押し付けた私のEカップが、お兄ちゃんに心臓の音を届けてしまいそうだ。
もしかしてお兄ちゃん、狼さんになって、私はこのまま襲われちゃうのかなぁ……?
バストアップに成功して、この日は一緒にお風呂に入ることも念願叶って、それなのに直接的なことを想像すると怯える私がいる。けどその恐怖心に隠れて、ほんの少しだけ期待している私がいた。
そんな緊張の時間を過ごしているとやがてお兄ちゃんの寝息が聞こえてきた。
あれ? 寝ちゃった?
ちぇ。1人で舞い上がっていた自分がバカみたいだ。途端に恥ずかしくなった。しかし規則正しく聞こえるお兄ちゃんの寝息と、それに合わせて上下する胸の膨らみと、そして鼓動。なんだかそれに安心し、すると私にも睡魔が襲ってきて、私は眠りに就いた。
すると事は起きる。それは旅行から帰って来た翌日の、更に日付が変わって深夜だった。進学校なので午前中は夏期補習があり、私はそれに向けて就寝していた。その時は夢の世界と現実世界の狭間にいるくらいの浅い眠りだった。
きぃ……。
物音を消そうとしていることが明らかなドアの開閉音で、私の意識は現実世界の方に比重が傾く。暗い部屋の中、私は薄っすら目を開けた。ずっと目を閉じていたから暗闇には慣れている。あとは脳がついてくるだけだ。
すると侵入者の姿が徐々に掴めてきた。お兄ちゃんだ。
はっ! お兄ちゃん!?
なぜそうしたのかはわからない。予期せぬ侵入者に私は目を閉じて寝たふりを決め込んだ。なんでお兄ちゃんがこんな時間に忍び足でやってくるのか。しっかり時計を見たわけではないが、体感時間から日付が変わっていることくらいはわかる。
まさか夜這いなんてこと……? 昨晩は温泉宿で我慢をしていた? けど結局それが勿体ないと思って寝込みの私に悪戯をしようと思っている? 私、このままお兄ちゃんに襲われちゃうのかなぁ?
するとお兄ちゃんが私のベッド脇で膝立ちをしたのがわかった。ベッドのスプリングがゆっくりグッと沈む。お兄ちゃんが身を乗り出したのだろう。私もよくやるな、日課の時に。もしかして私が今まで知らなかっただけで、これがお兄ちゃんの日課とか?
そして突然、私の頭に温かい感触が。タオルケットをお腹にかけているだけの私は、全身火照ったかのようで、それなのにこんなに暑い季節にも関わらずとても心地良かった。
「やっぱり可愛いよなぁ」
なんと! 面と向かっては絶対に言ってくれない言葉をお兄ちゃんがボソボソっと言った。吐息がかかるから顔が近いのはわかる。だから私が聞き逃すことはなかった。そして私が起きていることがバレていないと確信した。
「はぁ……、どうしてくれんだよ……」
ん? どういうこと? 明らかに困っていることを伺わせるお兄ちゃんの言葉と声色に私は訳がわからない。
「とうとう寝床にまで侵入して寝顔を拝むなんて……」
とりあえず1つだけわかった。お兄ちゃんのこの行動は日課ではなく、この晩が初めてだ。
「まさか妹に恋愛感情を抱くとはな……」
「……」
絶句。心の中でも、もちろん口でも。
今、お兄ちゃんはなんと言った? 聞き間違いか? 浮かれている私が脚色してしまった? いや、そんなはずはない。タイマーでエアコンが作動している部屋は閉め切っていて静かだ。エアコンの音が小さく鳴るものの、外の音なんかはこの時入ってきていない。
そう! そんな状況で小声とは言え、大好きなお兄ちゃんの言葉を聞き間違えるはずがない!
お兄ちゃんも私のことが好きなの? どうしよう……。両想いだ。これはパニックだ。――嘘ついた。本当はニマニマが止まらない。
「げ……」
「あ……」
目は開けていなかったのだが、どうしても口角が私の意思に反して上がってしまった。するとお兄ちゃんに起きていることがバレた。
「ひっ!」
私が目を開けてお兄ちゃんを見ると途端にお兄ちゃんは怯えたような声を発する。確かに私も同じ気持ちを抱いているから理解できる。どうやってこの気持ちを伝えたらいいのかもわからず、むしろ自分の中だけで封印するしかないとさえ諦めることもある。
それなのにお兄ちゃんは意図しない告白をしてしまった。そりゃ、生きてさえいけないという気持ちになっていることだろう。
ここで私ははっとなってすかさず頭上のお兄ちゃんの手首を掴んだ。
「ひえっ!」
更にお兄ちゃんは怯えた声を出す。やっぱりお兄ちゃんは逃げようとしていたのだ。しかしこれほど嬉しい言葉を聞けて、絶対に逃がすわけがない。お兄ちゃんは今の状況がピンチだと思っているかもしれないが、間違いなくこれはチャンスだ。
とっくに脳が覚醒している私は一度ニコッと笑ってお兄ちゃんに言った。
「もっと聞かせて。お兄ちゃんの気持ち」
するとプイっとそっぽを向くお兄ちゃん。ここで私は上体を起こした。お兄ちゃんの手首は掴んだままだ。お兄ちゃんはそっぽを向いたまま力なく床に座った。
私はベッドから足を投げ出して座ると、隣をポンポンと叩いて言った。
「隣、座って?」
しかしお兄ちゃんは動かない。どこか咎められている子供が拗ねた様子にも見える。なんだか可愛い。けどお兄ちゃんが私の言葉に従わないから脅してみる。
「今から大事なお話をしよう? もし逃げるなら、お兄ちゃんが夜這いしたことをお父さんとお母さんに言う」
ここでとうとう観念してお兄ちゃんは、緩慢な動きで私の隣に腰かけた。ふふ、ちゃんと気持ちを確認し合うまでこの夜は解放してあげないんだから。
「お兄ちゃんは私のことが恋愛感情で好きなの?」
「……」
「ちゃんとお兄ちゃんの気持ちを聞かせて?」
すぐには何も言葉が出てこない様子のお兄ちゃんだが、少し時間をかけてからゆっくり話し始めた。
「これを言ったら嫌われるかもしれないんだけど、亜澄のスタイルが良くなって、亜澄の裸を見て、亜澄に女を感じた。体をきっかけにって言うのが情けないし、そもそも妹を相手に最低だと思う…………」
「ちゃんと聞くよ? ちゃんと受け止めるから続けて?」
「うん。それで裸を見た昨日からずっと考えてた。そしたら俺は亜澄のことを女としてずっと可愛いと思ってたんだって気づいた。それまでは俺が亜澄のことを好きなのは、家族愛を拗らせたただのシスコンだったから」
「うん、うん」
「けど、今ではそれが行き過ぎて恋愛感情に変わった」
「えへへ。嬉しい」
「へ?」
私はお兄ちゃんの腕を抱えて、お兄ちゃんに密着する。お兄ちゃんの温もりが素敵だ。お兄ちゃんはキョトンとしてしまっているが。
「私もお兄ちゃんのことがそういう意味で大好きだよ」
「……」
この後お兄ちゃんは固まってしまい、しばらく動くことができなかった。
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