004
「さて、そろそろ出るか……」
いつものワイドショーの、自己主張していそうでしていない、画面の隅に存在している時刻表示がいつもの時間を示したので、僕は食器を台所にいる
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
その言葉が彼女の耳に伝えきる前に、嬉々とした表情を浮かべたと思うと、ぐいっと顔を寄せてきて、にっこりと笑った。
「えへへぇ、そうでしょ?料理はすっごく自信あるんだよねぇ」
水色の髪を揺らしながら楽しげにそういう彼女は服装はアレでも、とても生活力のある、魅力的な女性に見えると思う。
……片手に、缶ビールがなければ、という前提なら、だけど。
「……朝から、お酒ですか?」
「うん。なんかヘン?」
はい、とても、と心の中で頷きながら、「いや、少し驚いただけです」となんとか口に出せた。
「いやぁ、私さ、お酒入らないとダメなんだよねぇ、やる気出ないっていうか、なんというか……」
……まぁ、これから一週間近くもお世話になる上、朝食までご馳走になってしまった為、突っかかるのも野暮というものだと思ったので、それについては深くは触れないことにした。
「……そう言えば、薄氷さんは普段何してるんですか?他二人は探偵だったり、学生だったりなようですけど」
「私?そーだねぇ……起きてゲームして家事やって、ゲームして……お酒飲んでゲームして、またゲームして寝てるかな」
今の言葉の中で何回ゲームという単語を聞いたのだろうか。
「……お仕事とかは、してないんですか?」
「? なんで私がしなきゃいけないのよ」
当然のように、それがまるで自然な事のように、物怖じも恥もせずそう僕に言うと、彼女はビールをぐっ、と喉に流し込んだ。
ふぅ、と一息をついてから僕に向きなおり、ふふん、と笑った。
「だって、私────
「……神……?」
そのままの意味とは勿論思えなかったが、自分を表現するにしては、珍しい表現をする人だな、と思った。
けど、もしかして、本当に──
「はい、少年」
そんな事を考えていた僕の眼前に、風呂敷の包みが突き出された。
「……これは?」
「お弁当よ、お弁当。空ちゃんの余りで作ったのだけどね。いやぁ、使わなくなったお弁当箱とっておいて良かったなぁ……」
……弁当、箱……。
…………重っ。
なんか、やけに平らだし……。
中を、結びを解いて、覗いてみる。
「…………タッパーですよね」
「そう、一リットルタッパー」
「一リットル」
「つまり、およそ千キロカロリー」
「…………千キロ」
「若い子は、たっくさん食べて、動いて、体作らないと、ね」
「………………」
ちなみに言うと、普段の僕の昼食は、コンビニのあんぱんやら惣菜パンなどから1個である。部活もしていないため、それで事足りるからだ。
……自分の家に帰る頃には、太ってそうだなぁ。
☆ ☆ ☆
天が持ち帰ってくれた教科書と、薄氷さんの弁当箱をなんとかバッグに詰め込み、肩にかけて玄関の前へと向かうと、リビングから薄氷さんが覗き込んでいた。
「……いやぁ、やっぱりいいなぁ学生。若々しくて、とてもいい」
ニヤニヤと笑いながら空になったのだろうビールの缶を手で遊びながら、僕を見回す。なんとも言えない気分に苛まれながら、ドアに手をかけようとした所、昨晩のことを思い返した。
「……この扉って、どこに出るんですか?」
「ん、あー、そうだったね。説明頼まれてたんだった」
いけないいけないと頭を掻きつつ呟くと、リビングから出てきて、近くにまで寄ってきた。
「そのドアはね、出たいところに出れるの。ま、その出たいと思ったところの近くのドアと空間を繋げて──とかはいいか、有り体に言うなら、どこでもドア、みたいなものよ」
「二十二世紀のひみつ道具はここにあったのか……」
「変な事に使っちゃダメだからね。勝手に使ったら追い出しちゃうぞ」
「つ、使いませんよ……」
「えー? 噂の葵ちゃんのお部屋とか行きたかっりするんじゃないのー?」
「そ、それは……っ」
やばい、顔が熱い。顔に出てしまってるのが自分でも分かる。
「あっははは、可愛いなぁ、もう。
──さて、ほらほら、遅刻してしまうぞ少年。早く行きたまえよ」
楽しげに笑いながら、急かすように僕の背を軽く押す。
「わっ、……は、はい、行ってきます」
……行ってきます、と、いつぶりに口にしただろうか。
そうして、僕は桔梗家を出た。
「──で、結局出てきちゃうんだもんなぁ……」
流石に、葵の部屋、ではなかったにしても、出てきたのは昨日と同じ古屋のドア、つまるところ神宮寺家の前だった。
「……何を、期待してるんだろ、僕は」
「──ちょっといいかな」
背後から不意に声がした。男性のものだろう。
その声は、優しそうであったのにも関わらず、どこか、影を感じるようなものであった。
少し驚きながら振り返り、その主を見る。その男はとても背が高く、昨日の黒服三人組にも近い気配がした。
「道に迷ってしまって、困ってるんだ。少し、教えてくれないかな」
僕の顔をのぞき込むようにして、その男はニヤリと笑った。
TRUE.〜焼かれた僕と、喰われた少女と、怪奇探偵〜 夕招かるま @Yumane_Karuma
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