002

 さて、もう少しだけ、この話に付き合ってもらおう。


 その後、僕は灼熱地獄後の二度目の目覚め(この場合、目覚めと言っていいのだろうか)を迎えた。


 普段であれば、二度目の目覚め、つまるところ二度寝からの覚醒、とも言えるわけだが、それは通常、とても心地良いものである、筈だ。


 こんな状況でなければ、だが。


 目が醒めると、先程と同じ、玄関の前だった。


 夢オチというやつに期待してたんだけどなぁ……


 これが現実らしい。


 しかし、何かが違う。何かが、先程とは。


 すぐに分かった。嫌でも分かってしまった。


 のだ。

 僕が、そこにあった僕の焼死体が、無くなっていた。


 ここで、再び、夢であったのでは無いか、という考えが浮上する。


 そうだ。きっと夢を見ていたのだ。

 きっと、夢現のままご丁寧に制服を着込み、地区が指定した火曜日のゴミを持ち、玄関の鍵を開けて、そのまま、寝てしまったのだ。


 …………いやそんな事はないだろう。


 流石に分かる。そんな事が有り得ない、なんてこと。


 認めたくないけど。

 ……いや、でも、そもそも、人体自然発火現象、なんてことが有り得ないじゃないか。


 ならきっと、そんな有り得ないことが有り得るって事も有り得る──うわ、『有り得』ばかりで変になりそう。


 そんなことを考えていた。


 そんな時だった。


 突然に、玄関のドアが開いた。

「──え?」

 確かに、鍵は開けたままだった。しかし、僕の家(といってもボロのアパートの一室だが)は僕だけの一人暮らしだし、何より、インターフォンも鳴らさずに不躾に部屋に入ってくるような友人はいないはずだ。

 ──いや、一人だけいるが、そいつの事は今はいい。


 ドアの向こうには、三人の黒い服装(といっても全員デザインもバラバラなカジュアルな服を着てる)に身を包んだ人達が立っていた。


 一人は長身で、金髪が目にかかる程伸ばし、外の暖かな気温に反するかのような厚手のジャケットを着た男で、もう一人の男は少し背が低く、赤髪で、少し毳毳しい、平たくいえばチャラついているような印象で、最後の一人は胸と肌を大きく露出した服(ベアトップ、と言った気がする)を着た桃色髪の女だった。


 勿論、そんな知り合いに心覚えなどない。


「……あ、あの、すみません、どなた……ですか?」

 意を決して声をかけた。一応、今の現状がなんであれ、声は出る、らしい。


 しかし、そんな僕の声を意にも介さず、さも当然のように、僕の部屋へとずかずかと入ってきた。


 悪寒がした。


 この人達には、僕が認識できていないのでは、僕の声が届いていないのではないか。

 そう、思ってしまった。


「ちょ、ちょっと!他人の家ですよ?言うべき言葉だったり、態度だったり、あるんじゃないですか?」

 別にそんなことはどうでもよかった。


 ただ、少し、ほんの少しだけでもいい。


 聞こえているのなら、無視をしないでほし

い。


 僕の声が聞こえて欲しい。


 僕を認識して欲しい。


 そこにいるんだと。死んでいないのだと。


 確認させてほしい。


「だから、こっちを見てください」


 頼む。


「ほら、そこの背の高い金髪の人。こっち

を……見てくれよ……」


 頼む。


 お願いだから。


「僕を、見てくれ」




「──ふ、ふふ……あははっ、ははは」

 ふいに、黒服三人組の一人が、桃色の髪を揺らしながら笑った。


 その女の目線の先には、僕がいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る