017
僕達は、体育館へ向かう道すがら、多くの焼け焦げた壁、割れた窓、爪のようなもので深々と刻まれた壁や床の傷を見てきた。
それは、多くの、戦いの跡であり、また、異形が、暴れた後であった。
「──はっはー、やってるやってる」
体育館から、未だ離れてるのに、天はニヤニヤしながら、走り続ける。
「耳、いいんだね」
「ま、腐っても狐、半分でも狐ってもんさ……にしても、そろそろ空の腹がやばいな。昼飯もろくに食えてないだろうし……半分も力が出せてないだろうなぁ……」
なんだそれ。どんな女の子だよ。
バトル漫画の主人公か。
「最悪、蓮でも食べさすか」
「お前依頼人のことなんだと思ってんだ!?」
『第一、食べさせるところがないだろ!』と、自虐ネタを言いかけたのが、それは飲み込んだ。
「んー?……
「酷くないか!?もう少しいい方あるだ──ッ!?」
やっと、ちらと見えるようになった体育館の方からだろうか。校内に、劈くような衝撃音が響いた。
「──ん、少しばかし、危なそうだな。少し動きあるまで待つかねぇ」
天は、何かを感じ取ったのか、足を止め、腰に付いている縦長のホルダーを開き、その中から、何やら模様の描かれた紙を一枚取り出した。
「展開、守護防壁──
そう聞き慣れない言葉の列を述べて、札をぐしゃり、と握りつぶす。
すると、僕達の眼前に、模様が描かれた壁が、その場所に、埃のひとつも立てないで現れた。
「……星……?」
星。一筆書きで描かれたような、確か、五芒星と呼ばれる模様が、壁と、先の札に描かれていた。
「そうそう、星──五芒星。陰陽道の基本。色々呼び名があるけれど、俺は
──再び、けたたましい、衝撃音。
しかしその音の発生源は、体育館ではなく、目の前であった。
鉄の塊が、飛んできて、その壁へとぶち当たった。
その鉄の塊は正確に言うと、体育館の鉄扉がひしゃげ、原型を失ったものだった。
「げほ、ぐ──何、あの子ッ」
鉄の塊から、声がした。
その声は、昨日屋上で聞いた声だった。
城崎美那。
鬼であり、遥真がお嬢と呼ぶ──
城崎は、変形した鉄の扉に包まれるようになっており、身動きが取れないようだった。
そして、その鬼を、吹き飛ばした正体は、その向こう──体育館にいた。
「う、うぅ……」
呻き声を上げながら、長い白髪を揺らし、項垂れながら、少女が出てきた。
「鬼子ちゃん。あれはな──俺の妹だ」
「おーなーかーすーいーたーーーーー!!」
泣き声とも、怒声とも取れるような大声を上げ、その場にへたり込んだ。
「天……!あれ、大丈夫なのか!?」
「大丈夫、いつもの事だから。……空、ここにアプリコットパイがだな」
何故、アプリコットパイなのだろう。
と言うより、そんな声量であそこまで届くわけ──
「あるのっ!?」
……少女は、瞬く間に僕達の目の前にまで来て、目を輝かせていた。
「いや、聞こえんのかよ!?」
どんな耳してんだよこの子。それに、さっきぶっ倒れたのはどうした!?
「残念ながら、ない」
「あっ」
短い声にならない声を漏らし、再び、少女は倒れそうになった。
「──なので、帰ったら作ろうと思う」
「やったぁ!」
床に手をついたその反動だけで体勢を立て直した……だと……?
「……何、この子」
「だから言ってるだろ?妹だよ。
「いや、まぁ、それは何度か聞いたから知ってる、けど……」
何というか、すごい子だなぁ……。
どうせ、僕の事など、見られもしないだろうから、と思い、僕は空を良く見ることにした。
と、いうか、男ばかりと会っていたせいで、女の子がとても尊いものに感じた。
ちなみに僕はロリコンではない。
その子は、腰まで伸ばした白髪に、左目を覆う黒の眼帯が目立ち、ブレザータイプの学制服に身を包んでいた(どこかで見たことがあるような気がするけれど、学校名までは分からなかった)。身長や、その言動からして、中学生、だと思う。
「……?」
──まぁ、人間で、あればだけれど。
まぁ、天は妹、と言ってはいたが、顔はあまり、似ていると思えなかった。
仮に、そうだとしても、半妖の兄を持つ少女。きっとこの子も、何か怪奇を見に宿しているのかもしれない。
「ねぇ?」
それにしても──可愛い顔してるなぁ。
眼帯のせいで、少し痛いオーラが出てしまっているのが残念だけれど。こう、邪眼とか言いながら左目が疼きそうだけれど
「ねーぇ?」
まぁ、それを抜きにしても、とても、可愛いと思う。どうせなら、天じゃなくてこの子に助けられたかった。ちなみに僕はロリコンでは──
「てやっ」
「げふぉ──ッ!?」
ふいに、女子中学生に、腹を、殴られた。
──殴られた?
「……そんな哀れむような顔で人の事見ないでほしいんだけど。それに、ジロジロ見ないで、えっち」
「………………」
僕は、凄く、死にたくなった。
まぁ、既に、死んでいたのだが。
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