022
ここは、何処だろう。
水中に、いるような、感覚。
目を瞑ったまま、確認する。
僕は──確か鬼火と──
──なにやってんだ、おまえ──
突然、声が聞こえた。
その言葉は、僕に向けられたものではなかった。
二人の子供が──いや、子鬼がいる。
人で言うなら、小学生、くらいだろうか。
遥真と……城崎……。
これは──鬼火の──城崎の記憶、だろうか?
「わたし、みんなと、あそべないから……」
膝を抱えるようにして座り込む城崎の目線の先に、何人かの子鬼が、和気藹々としている。
「あぁ、そっか。お前がよわい鬼か」
「……そうだよ。……それに、わたしのそばにいると、よわくなっちゃうんだって」
「なんだそれ?」
「……知らないよ。周りの子が、そう言うんだから……」
城崎は、生まれつき、力が弱かった──そう聞いた。
角の出せない、鬼。
角が出せなくても、鬼の子ならば、鬼。
それ故に、それは──差別へと直結する。
虐めへと、発展する。
村長の子供だなどと、子供には、分からないだろう。
酷く──こう言うと、皮肉っぽいが──人間臭かった。
「ふぅん?そっか」
そう言って、遥真は、城崎の側に座り込んだ。
「……何、してるの?よわくなるって……」
「お前がどれだけほかのヤツをよわくしようが、オレにはカンケーない!だって、オレはつええからな!」
……何も変わらないんだな、アイツは。
本当に、羨ましい。
「──そう」
「なぁおまえ、いつもなに読んでんだ?」
城崎の、抱えてる本を指差して、遥真は言った。
「……なんで知ってるの?」
「ん?こんな狭い村で、いつも一人で居たら、目立ってしょうがないし。それで、なんの本なんだ?」
遥真が本へと伸ばした手から逃げるように、城崎は少し離れ、口を開く。
「……妖怪についての、本……」
「妖怪?そんなの読んで、どうするんだ?」
「……例えば、これ。ザントマン。ここから遠いところの妖怪なんだけど、この妖怪のすなを目に入れると、ねむっちゃうんだって」
ザントマンの──砂。
ここでその言葉が聞けるとは思ってなかった。
遥真が知ってたのは、幼い頃に聞いていたから、だったのかもしれない。
「へー……そんなのがいんのか。おまえものしりだな」
「っ……やることがないだけ……というか、もう帰って」
「え?なんでだよ、もう少し話聞かせろよー!」
「帰って!」
ずっと小さな声で話していた、城崎が突然大声を出したことに、遥真は目を丸くし、少し虫の居所が悪そうな顔を浮かべた。
「……分かった。でも、また明日来るからな!もっと面白い妖怪のこと調べとけよ!またな!」
「え、ちょっ、待って……いないし……はぁ……」
城崎は、俯いて、黙り込んだ。
──先程、見たばかりだな、この体勢。
「ひさしぶりに、とうさま以外と、話したなぁ……名前ぐらい、聞けばよかった」
その少女は、ほんのりと赤く染まった頬を手で抑えてから、そそくさと自らの家へと帰っていった。
そして、時は飛び、少し、大人になった二人。
「ねぇ、遥真──学校楽しい?」
「そう、ですね。まぁ、頑張ってる──ますよ」
「……二人だけなんだし、別にいいんじゃないの?」
「あー……そうかもしれねェけど……でもなぁ……このまんまじゃ、鬼族として、何より、次期村長の旦那としてなぁ……」
「頑張ってるね、ア・ナ・タ」
「や、やめろバカッ!?」
「あははは、ほんと、面白いなぁ遥真は」
先程とは打って変わり、楽しそうに笑うようになった城崎。
きっと、あの後も遥真は城崎に話をしに行き、虐める鬼達から城崎を守り抜いたのだろう。
──葵の時と、よく似ているから、そうであると分かる。
「ったく……バカにしやがって……」
「……それで最近──日向くんと、神宮寺さんと、どう?」
僕は、元より、城崎は学校に興味などなかったのではないかと考えた。
城崎が学校へと来た大きな理由は、僕らなのだ。
「あ?──まァ、相変わらず、仲良くやってるよ。蓮とは良く遊ぶし、葵にはよく勉強の面倒みてもらってるし……ま、何も変わらないわな」
「──そっか」
そう言った城崎の背後に、黒い靄のようなものが見えた。
あれは──殺意の種、のようなものだろうか。
いや、これは殺意というより──嫉妬?
僕を、僕らを、妬んだのか?
城崎が知らない、遥真を知る僕らを?
鬼が、人を、恨んだ。
鬼が、人を、殺したがった。
鬼が、人を──妬んだ。
「蓮、聞こえる?」
「──こんなの見せて、どうするんだ?」
美那の声で、鬼火が語りかけてきた。
「私が蓮に霊纏出来るようになるには、蓮が、私を知ってもらうしかないから……此処は蓮の精神世界。時間も現実世界とは異なるから……もう少し……」
「でも、こんなの……」
こんなのを見た後、僕はどうすればいいんだ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます