023
「……別に、普通だろ……?このまま、僕達という存在が疎ましくなり、その後、村の状況も相まった末に、僕達が執拗に話せと詰問した。そのせいなんだろ?」
「違う、違うんだよ、蓮」
「違う?」
「それだけじゃ、ないんだよ」
ふと、周りに目を向けると、二人は、星ノ原の制服に身を包んでいた。
「つい、最近の美那は、唯一の肉親だった村長の看病と、他村の鬼による襲撃の対処……それらの精神的負担から、かなり、危うかった。でも、それは良くないこと。鬼は──」
「鬼火を、生んでしまうから」
「──そう、だから、鬼は酒を飲み、大声で笑い、暴れる──嫌なことを、考えないように、忘れてしまうために」
「………………」
「でも美那は、大声が出せるような性格でも、他の鬼みたいに暴れる力もない。それでも──次期村長としての期待と責任を、その身に、背負わされた」
「──とりあえず、今回のことは、オレが代理として請け負う。だからそんな顔すんじゃねぇよ、おじょ──美那。今日は学校オレは行けねぇけど、一人で行って来い」
襲撃された事実を知ったのだろうか、城崎は、とてもくらい顔をしていた。
「──私も、学校行かない」
「ダメだ、お前はいけ。出席日数足りなくなんぞ」
「…………」
遥真の顔を、何か言いたげに見つめる。
……何だこれ。
「──はァ、勝手にしろ」
お前もなんで顔赤くしてんだよ!?
「すっごいムカつくんだけど。何あいつら、ねぇ?」
「ど、どうどう……っ」
彼女いない歴が年齢の僕への当てつけなのか!?
畜生め。
「……にしても、学校かぁ……遥真ともっと一緒にいたいから通いだしたってことなのか?」
「それだけじゃないよ。他にも、理由がある。君達のことを知りたくなったってのもあるし、何より──人への、憧れが、強かったんだよ」
「憧れ……?」
鬼が、人に憧れる、のか。
幼い頃、二人がいた同じ場所に、城崎は、座り込んでいた。
「…………」
ただ、黙って、俯いていた城崎は、ふと、自分の額を撫でた。
何も無い、人と何も変わらない、その額を。
「──なんで私、鬼に生まれたんだろう」
自らの肩を抱きしめるように、身を縮こませて、城崎は呟いた。
「私は、何も守れない……私は、鬼なのに……
黒い靄が、大きくなっていく。
しかし、その中で、何かが、赤く、燃えていた。
「──どうせなら私は──人に生まれたかったなぁ」
「──確かに、美那の感情を溢れさせる原因となったのは、あなた達への殺意。それでも結局は、そこまでに積もり積もってしまった、暗い感情をどこにも吐き出せず、ただ溜め込んでしまった。それがいけなかった」
「君が、城崎の……人への、憧れ、なのか……」
「うん……あの時はごめんね?美那が、私を殺意の方だと思ってたから、そう演じた方がいいかなって……ほら、私は感情があやふやだから、割と命令とか効かないから、ね」
「そっか……」
「──それで、私達のこと、認めてくれる?」
突然の、問いだった。
「別に、僕は何回も言ってるけど、恨んでなんかいないから、さ。認めるも何も無いよ。ただ──少し、鬼達のことを知れて、よかったよ」
何より、城崎の事を──この鬼火のことを少しは知れたことが、良かった。
素直に、そう思えた。
「じゃあ、名前、つけてもらっていいかな」
「なまえ……?今?というか、なんで?」
「名前というものは、そのものに意味を持たせて、自らの物にする、っていう意味があるから。なにより、貴方に付けてもらうと、私たちの繋がりが、強いものになるから」
……と、言われてもなぁ。
──ふと、何かが脳裏をよぎった。
「……ヒィ」
「ヒィ、かぁ。安直だけど、嫌いじゃないかな!」
「あはは、どうも……」
本当は、僕のセンスじゃない
──遥真の、センスだ。遥真のネーミングセンスは、いつもこんな風だった。
「さて、じゃあ……そろそろ、行かなきゃね。この後も、私が色々とサポートするから、君はただ──」
「うん。葵を……絶対に、助ける……!」
そう、意を決して、拳を強く握った時、僕の拳が、火に包まれた。
不思議と、熱くはなかった。だか、何故だかとても、眠くなってきて、再び、僕は眠るように、意識を失った。
そして、僕は目覚めた直後に、何の気なしに手から吹き出た炎を、鬼火に当ててみたところ、熱さに見悶えることになった、という次第である。
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