006

 僕は、事のあらましを天に話した。

「ふぅむ、はっはー。なるほどなるほど。人体自然発火現象、と来たか」

 なんでこの人こんなにニヤついてるんだ。

 と、言うより終始ニヤニヤしてるな。

 なんかムカつく。


「まぁ、人体自然発火現象──長いなレンくんファイヤーとでも言おうか」

「すっごいだせぇ!?」

 小学生でもそんなださいのつけないぞ!?

「何か不満?泣き虫蓮クン」

「……あの……」

「あぁ、悪い。男に手を握られ、久々の人間の感触に歓喜のあまり泣いてしまう程、情緒不安定な蓮クン」

「具体的に言わないで!?」

「といっても、三人に無視されただけだし、レンくんファイヤーから約三時間ってとこだろ?泣き虫過ぎじゃないか?」

 あぁ、なんで泣いてしまったんだ……

 確かに、もう感じることの出来ないと思っていた人の体温や感触に、感動してしまったのはあったけれど。

 なんでよりにもよって相手が男なんだ。

 ボーイ・ミーツ・ガールだろ普通!


「ま、冗談はさておき、レンくんファイヤーが起きたにしては、この部屋は些か変だね。普通すぎる」

 あ、それ通すんだ……

 でも、確かに、違和感がある。

 何もない。


「まず、部屋に燃え広がってない事だ。蓮。焼死体のあった位置はそこ、なんだな?」

 そう言って、天は玄関のマットを指さす。

 幼馴染から貰った玄関マット。

 人を招くことなどごく稀なのだが、謎のWELCOMEの文字。

「うん。そう……なんだけど」

 カーペットは、何処も、何も、おかしな所はなかった。

 人間が、その上で、燃えた筈なのに。

「恐らくナイロンとポリエステルって感じだな。熱でよく溶けそうじゃないか」

「……良くわかるね」

「まぁ、さっきにそれなりに調べたからな。それで、ゴミ袋と、肩にかけていた鞄を、全身が炎に包まれてから投げ捨てて、少しのたうち回った……だったな?」

「そう……だよ」

 その、筈なのだが。

 鞄のナイロン生地も、ゴミ袋のポリエチレンも、溶けてたり、変形していなかった。

 ナイロンも、ポリエチレンも易燃性、の筈だが。


「あー……その、あんま聞くのも酷だと思うが、焼死体。覚えてるか?若しかするとなんだが──」

「大丈夫。それに、だいぶ思い出してきた」

 あの焼死体に抱いた、違和感。

「あの死体は、制服を着ていた」

 焼け焦げた。何が何かわからない炭のような物質。それでも、なぜ僕だと分かったか。

 僕の学生服を、そいつが、着ていたからだ。

 勿論、何処も、焼け焦げていない。

「ま、だろうね」

 天は続けて言う。

「今回のレンくんファイヤーは、それらの点から考えられるように、蓮、お前だけが燃えている。その時に着ていた服、持っていた物、強いて言えば、この部屋の物はお前以外、そんな事があった事を知らないかのように、何の痕跡、塵の一つさえ残っていない」

 僕の全身を包んだ炎は、適確に、僕だけを、焼いた。

 そんなことがあるのか?

「ま、そうなるとあとは簡単だ。そんなことが出来るのなんて、妖怪、魔物、どれをとっても俺が知ってるのは一つだけだ」

 天は一息置いた。そして、口を開いた。



「蓮、お前鬼に怨まれたな?」

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