019
「──空!」
「分かってる!」
天が声をかけるよりも早く、空は、僕の手を引き、鬼から離れるように、つまり体育館の方へと駆けだした。
「お前もっ、来い!」
「えっ、ちょ、うわっ!?」
天は一蹴りの内に鉄による拘束を解き、脇に城崎を抱え、逃げ出した。
「そ、天!?あれはなんだ……ッ!?」
「そんなの決まってるだろ!お前を殺した殺意の鬼火だ!もっとも、鬼火だけでなく、何かが混ざってるように見えるが……」
「いや、でも、遥真は!?それに、僕の体はどうなった!?」
「そっちは問題ない!こういう可能性も考えて、遥真に任せたからな!」
「そ、それはどういう意味なんだ!?」
「話はあとだ!──にしても、威圧感といい異質感といい、さっきの奴なんかと桁違いもいい所だ!久々に震えちゃったよ!」
体育館の中に僕達全員が滑り込むように入ると、天は先と同じように札を取り出し、呪文を唱え、失くなった鉄扉の代わりに壁を作り出し、さらに別の札をその壁に貼ると、これで当分は大丈夫、と言った。
壁に何度も黒炎が当てられているのか、力任せに暴れているのかは分からないが、体育館はそれから数分間、振動し、みしみしと、嫌な音を立てていた。
天は息を整え、口を開いた。
「今回関与した鬼火は、二匹いたんだ。蓮を殺した奴と、蓮の体を奪った奴は、別だ」
「──二匹?」
あの黒いのを殺意の思念体として、じゃあ、僕の体を持っているあいつは、一体何なんだ?
何の、どんな、感情なんだ?
「に、二回も出した覚えないんだけど……てか下ろしてよ……ッ」
「二回も、出してないなら、一回は出したんだな?」
「ッ……そうよ……」
「はいはい、素直でよろしい」
ニヤニヤと笑って、天は城崎を降ろした。
「あっちの鬼火が、何なのかは知らない。ただ、体を捨てなかった、と言っていたあたり、美那ちゃん。お前さんはアレが殺意の感情から生まれたんだと、思ったんだろ?」
「……そうよ。だから、あの子と一緒に委員長とそこの白い子を追っかけてたんだから。眠りの砂を撒いたのもあの子。……でも、あの子ったらアンタら二人と遥真が来たら、何も言わないでそっちに行っちゃったのよ……」
……さらっと言ったが、この子にも僕は見えてるのか。
最早、遥真が何故見えないのかとさえ思えてきた。
初めは見えてる人に泣きそうになったのに。
慣れたものだ。
慣れたくないものだが。
「──とりあえずどうするか、なんだが。俺と空であいつはおそらく、なんとか出来る。だが──学校がもたない。そうすると、全校生徒に教員全員、巻き添いっていう最悪のパターンがある」
「そ、それはダメだ!最悪も最悪だ!」
「分かってるよ、そんなの。そして、神宮寺の一人娘の居場所だ。それも知っておきたいんだが、見当もつかないしな──ん?」
天の狐の耳がピンッと立った。
「どうかしたの?天」
空が首を傾げる。
「あれは、はは……なかなかどうして、うまく事は運ばないものだね……空、よく見てくれないか、アイツの中心」
「中心って、あんな真っ黒の炎中なんて何も──」
空は眼帯をずらして、壁を見た。正確には、その裏の、燃ゆる黒炎を、だろう。
にしても、ここからは左目がどうなってるのか分からないけれど、目が見えないから、という訳では無いのか。その眼帯。
もしかして、本当に中二病なだけなんじゃ……。
「──生きては、いるみたいだね。身体に覆うように展開してるオーラみたいなのでなんとか耐えてるけど、多分陰陽道の結界の類──かな、うん」
生きてる?何が?結界?誰の?
「……何の話?」
「……あの炎の中に、お姉ちゃんが、生きたまま、捕まってるって話」
「──は?」
葵が、あの、黒炎の中にいるっていうのか?
あの、炎鬼の、中に?
「おそらく、取り込んで、結界が壊れるのを待ってるのだろう、あの黒いのは。道理で、蓮にのみご執心な訳だ」
一人は既に自らの体内。
このままならば、この人間は死ぬのだから。次は、魂のみ生き残った、もう一人のみ。
そういう、事だろう。
「ど、どうすればいい……!?」
「そりゃ、倒せばいいだけなんだが……せめて、いいとこグラウンドにでも誘い込みたいなぁ……蓮を餌にしたいけど、すぐに捕まりそうだし、俺も庇いながらはなぁ……」
「私も自信ないよ?」
「じゃあどうする?もう少し考えるか……ん?なんかこっちに向かってる……?」
「何って──ぐ、ッ!」
突然、体の中心が、痛む。
それは、器を求める、魂の、痛みだった。
「オラァ!!」
外から聞こえたのであろう遥真の怒声が、体育館の中にまで響いた。
それと同時に、火鬼の動作が止まったのか、振動が収まった。
「おい!狐!
「──分かった!」
天は、壁に手を触れると、壁は一部のみ崩れるようにして穴が開き、来訪者を入れると再び、元の壁に戻った。
その来訪者は僕を真っ直ぐ見て、話した。
「日向蓮。今は黙って、私の話を聞いて欲しい」
僕を僕が、見ていた。
僕が僕を、見ていた。
いつかとは違い。
互いに、目を見合っていた。
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